豊かな未来のために、今、みんなで考える。 経済思想家・斎藤幸平さんインタビュー「SDGsをブームではなく、豊かな社会へと移行するチャンスにする」
近年、SDGsという言葉や活動がより身近になってきた。しかし地球温暖化はまだまだ加速中というニュースも耳にする。私たちの日々の小さな努力は本当に効果を上げられるのか、ほかにできることはないのか。そんな疑問を、著書『人ひと新しん世せいの「資本論」』で“資本主義からの脱却”という論を説き話題となった経済思想家・斎藤幸平さんにぶつけてみた。SDGsを一過性のものにせず、次世代に負の遺産を受け継がせないために、今何ができるのか。5つのテーマに分けて考えていきたい。
3.格差是正と価値観の転換を共に行い、持続可能で平等な社会を目指す。
SDGsには、貧困をなくす、飢餓をゼロに、すべての人に健康と福祉を、など17の目標がある。斎藤さんは気候変動対策の目標を達成するには、人や国の不平等をなくすこと、ジェンダー平等、平和と公正をすべての人に、などの「公平性や平等」の実現とセットで行動に移すべきだ、と唱えている。「オーガニックなものやフェアトレードのもの、電気自動車、再生可能エネルギー100%、これらは全部それなりに高額です。それを買ったり使ったりできるのは、ある程度お金に余裕のある人たち。そもそもできない人も大勢いて、皆もやろうよとは言いにくい。
そう考えると、これまでのSDGsやエシカルみたいなものは、ブームとして消費されているのに加えて、余裕のある人たちのライフスタイルの一部になってしまっている感も否めない。それらは結局、生きていくことで精一杯の層の『余裕があって、意識が高くていいですね』という反感を買い、社会に不毛な対立や分断を生んでしまう。全員が等しくSDGsを踏まえた生活をするには、格差をなくして、持続可能な食べ物や電力などのプランを、誰もが普通に選べるような社会にしていかなければならない。私が持続可能性と平等はセットで考えようとずっと言ってきたのは、片方だけにコミットしてもSDGsの課題は解決できないからです」
裕福な人々の過剰消費が気候変動と結びついている、と科学者たちは警鐘を鳴らしている。世界の富裕層の10%が、その生活様式によって、地球上で排出される二酸化炭素の半分を出しているという。特にトップの1%は、飛行機や大型車で移動し、世界中のホテルに滞在していて、環境負荷も膨大だ。このわずか1%の人々が、所得額が下から50%の人々の排出する二酸化炭素の倍以上を出している。反対に下から50%の人々は全体の7%しか排出していないにもかかわらず、富裕層よりも先に、家を失うなどの気候危機や飢餓に晒さらされてしまう。
「この問題を解決するには、まず超富裕層のライフスタイルを変えさせなければなりません。それには最高年収を決めるという方法もあります。どれだけ働いても年収は上限3000万円、最低年収は400万円にして、そのレンジにすべての人々が収まるような社会にする。広がる格差社会に歯止めをかけていくのが、脱成長の発想です」
そうした場合、たくさん稼ぐ人は海外へ移住してしまうのではないか、という意見もあるけれど、移住していただいて結構と斎藤さん。残った人たちで持続可能で平等な社会を作っていけばいいではないか、と。
「もちろん、最終的には途上国支援のためにも、国際的な再分配の仕組みを作る必要があります。一方で、仮に格差が縮まったとしても、それだけでは環境負荷は減らないどころか、新たに余計な消費が生まれ、負荷が増えてしまうかもしれない。だから格差の是正とともに、毎日の暮らしで何を重視するか、自分の幸せは何なのか、という価値観の転換を併せて行うことで、初めて持続可能で平等な社会になるのです」