豊かな未来のために、今、みんなで考える。 経済思想家・斎藤幸平さんインタビュー「SDGsをブームではなく、豊かな社会へと移行するチャンスにする」
近年、SDGsという言葉や活動がより身近になってきた。しかし地球温暖化はまだまだ加速中というニュースも耳にする。私たちの日々の小さな努力は本当に効果を上げられるのか、ほかにできることはないのか。そんな疑問を、著書『人ひと新しん世せいの「資本論」』で“資本主義からの脱却”という論を説き話題となった経済思想家・斎藤幸平さんにぶつけてみた。SDGsを一過性のものにせず、次世代に負の遺産を受け継がせないために、今何ができるのか。5つのテーマに分けて考えていきたい。
価値観の転換。それには今、私たちが営んでいる生活を大きく変化させなくてはならない。まるで天動説を地動説に切り替えるほどのコペルニクス的転換が必要だ。それは、買いたいものを我慢し、不自由さに耐え、楽しいことを諦めなければならないのでは、と不安にかられる。本当にそんなことができるのだろうか。
「今ある欲望を変えずに我慢するだけだと辛いですよね。だからむしろ新しい欲求を作っていく。もっと環境にやさしい欲求があり得るんです。例えばスポーツや読書、ガーデニング。また、店でお酒を飲むのは20時までにして、あとの時間は家で家族や恋人と過ごすという欲望に切り替えていけばいいわけです。そうなれば、コンビニも24時間営業する必要はないので、早く閉店するとか定休日を作るなどメリハリをつける。電車も終電時間を早める。日曜日はすべての店が閉まるとか。そういう制約をかけることで、店が閉まっているなら外食はやめて隣人とバーベキューでもしようか、という別の発想が生まれます。私たちの欲望は、広告やマーケティングによって煽あおられています。そのモードに入り込んでしまうといつまでたっても抜け出せない。広告を適度な量にすれば、別の欲望を持つ余地が生まれる。人間は広告やSNSから解放されて、暇になれば、もっとクリエイティブにもなれるはずですよ」
広告に煽られてものが欲しくなると、もっと働かなくてはならない。すると多くの労働で電気などのエネルギーを使い、たくさんのものが生まれてしまう。それをさらに消費しなくてはならないので広告を打つと欲望が増えるという悪循環。一日中メールの返信に追われて時間の自由がなく、SNSによって隙間時間すら奪われている私たち。絶えず労働し、絶えず消費させられている生活を、どこかでスローダウンする必要がある。
「それにはまず労働時間を減らしたい。例えば週休3日制にして、残りの4日間は1〜2時間長く仕事をする。すると週40時間を維持できて、賃金もそれほど変わりません。実際にアイスランドでは生産性が落ちなかったという社会実験の結果も出ています。1日8時間・週40 時間労働制が導入されたのは、アメリカでは1919年で、日本は1947年。約100年も経っているのに変わっていないのは奇妙ですよね。
これほど技術が発達しているなら、どこかで思い切って労働時間を減らす方向に舵を切るべきです。そうすることで時間に余裕が生まれ、落ち着いて考えることができて、初めて生活の転換も可能になります。SDGsについて調べて熟考することや、具体的なアクションを起こす、政治に転換を求める運動や、声を上げることができるようになる。そのためにもまず自由な時間が必要です」