豊かな未来のために、今、みんなで考える。 経済思想家・斎藤幸平さんインタビュー「SDGsをブームではなく、豊かな社会へと移行するチャンスにする」
近年、SDGsという言葉や活動がより身近になってきた。しかし地球温暖化はまだまだ加速中というニュースも耳にする。私たちの日々の小さな努力は本当に効果を上げられるのか、ほかにできることはないのか。そんな疑問を、著書『人ひと新しん世せいの「資本論」』で“資本主義からの脱却”という論を説き話題となった経済思想家・斎藤幸平さんにぶつけてみた。SDGsを一過性のものにせず、次世代に負の遺産を受け継がせないために、今何ができるのか。5つのテーマに分けて考えていきたい。
2.コロナ禍は、私たちが本気になれば大胆な変化を起こせると証明した。
この緊急事態をどう乗り切るのか。斎藤さんは、そのヒントがこのコロナ禍での私たちの振る舞いにあると語る。「コロナ禍で緊急事態宣言が発令されたことは記憶に新しいでしょう。その際、デパートやショッピングモールの営業を自粛、または時間を短縮させ、飲食店にはアルコールの提供を中止させました。入国制限やロックダウンに近いこともやったわけです。これは経済を回すという資本主義の論理とは全く相容れないこと。私たちの命を守るために、一時的に資本主義が『死んだ』のです。もちろん失業したり収入が激減したりして苦しんだ人たちはたくさんいます。対策の有効性についての検討も不可欠です。しかし他方で、今までの生活にいかに無駄や過剰な消費があったかもはっきりと浮かび上がりました」
例えば外出自粛やリモートワークになったら、付き合いの飲み会に行かなくてもよくなった、満員電車のストレスがなくなった、家族と過ごす方が楽しい、趣味の時間が増えた、ゆっくり眠れる、翌日は二日酔いにならず快適に働ける、など、ポジティブな面も見えてきた。
「重要なのは私たちが本気を出せば、一晩にして振る舞いを劇的に変えられると証明できたことです。これだけの適応力があれば、気候変動や貧困、格差の解消といったSDGsの課題にも我々は一致団結して行動できる可能性もある。気候変動はコロナ禍以上の危機であり、同様のスケール感やスピード感で今すぐ動き出さねばなりません」
新しい空港の開港や道路の拡張、巨大建築物の建設も避けた方がいい、という研究者もいる。残念ながら、そのくらい大きなことをやるべき段階に来ているのだが、コロナ禍では厳しい制限を乗り越えたのだから、という実績ができた。
「例えば健康のためにタバコを規制したように、明らかに環境に影響のあるものを禁止することはできるはずです。短距離の国内線の飛行機や、チェーンストアのように規制をかける、などの大胆な対応を検討する必要があります。本当に気候危機を止めたいのであれば」制限や規制は個人と社会の自由と相反するケースもあるが、しっかりプランニングし民主的に決定すれば、より豊かな社会へと変われるのではないだろうか。
「緊急事態宣言なんてやらない方がいいに決まっています。でも一つのレッスンとして、変えられないと思っていたことが、実はそうではないとわかりましたし、政府も私たちも本気になれば大きな変化を起こせると証明できた。であれば、このSDGsも世界全体、国全体の取り組みとして実行できるはずなんです。そうしなければ、犠牲になるのは、いつも社会的弱者です」