豊かな未来のために、今、みんなで考える。 経済思想家・斎藤幸平さんインタビュー「SDGsをブームではなく、豊かな社会へと移行するチャンスにする」
近年、SDGsという言葉や活動がより身近になってきた。しかし地球温暖化はまだまだ加速中というニュースも耳にする。私たちの日々の小さな努力は本当に効果を上げられるのか、ほかにできることはないのか。そんな疑問を、著書『人ひと新しん世せいの「資本論」』で“資本主義からの脱却”という論を説き話題となった経済思想家・斎藤幸平さんにぶつけてみた。SDGsを一過性のものにせず、次世代に負の遺産を受け継がせないために、今何ができるのか。5つのテーマに分けて考えていきたい。
5.次世代に何が残せるか。むしろ若い人から大人たちが学んでいくべき。
一人でできることに限界を感じたときに助けになるのは、他者とともにアクションを起こしていくこと。そういう他者とのつながりから、斎藤さんがフォーカスするマルクスの“コモン”の実現(水や電力、住居、医療、教育などを公共財として自分たちで民主主義的に管理することを目指す)への道が始まる。「自分だけライフスタイルを変えて満足するのではなく、同じような問題意識を持った人や家族など周囲の人々を巻き込んで、まずは自分の住んでいる地域のあり方を変えていくことから始める。他者とのつながりに目を向けて、地域でどんな人が苦しんでいるのかなど想像力を広げてみるのが、こうした社会問題を考える上での第一歩になると思います」
ドラスティックな変革をしようとすると、今の生活を変えたくない層との摩擦が起きるかもしれない。地動説を唱えて排斥されたガリレオ・ガリレイのように。そういう意味で本気のSDGsはなかなかに過激な思想であり、個人や企業に制限やストレスをかける部分もある。でもそこに向き合わないともう間に合わないというのも事実だ。
「真のSDGsは、従来の方法で成功してきた世代の人たちからは出てこない。自分たちの既得権益を手放したくないからです。だからこそ、今までのシステムで矛盾を押し付けられてきた人の視点が重要です。その意味で重要なのが、SDGsの目標5のジェンダー平等です。男性と比較して、多くの女性が経済状況にかかわらず、環境問題に強い関心を持っています。そこに、新しい社会が目指すべき価値観のヒントがあるのではないでしょうか。逆に、そのような感性や意見を周辺化し続けた結果が、現代日本社会の隘あい路ろなのです」
アメリカのZ世代はほかの大人たちと違った価値観を持っている。ものを共有し、横のつながりを持って気候変動や差別、ジェンダー問題にも積極的に関わっている。またスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリたちの世代がもっと大人になれば、社会の価値観はかなり変わるはず。
「アメリカでは、Z世代を中心に、すでに資本主義より社会主義の方に将来性がある、と左傾化しています。いわゆる“ジェネレーションレフト”の若者たちがいて、これから生まれてくる世代の間では、そのような価値観がもっと広がる可能性が十分にあります。そうなれば、大量生産や長時間労働によって、儲けのために自分たちの生活や地球環境を犠牲にする資本主義から脱却できる未来は、あと30年くらいで出てくるのかもしれません。もちろん、これは未来の世代に託そうという話ではありません。私たち大人がこの後始末をしっかりしないといけないし、地球環境をより持続可能な状況で将来の世代にバトンタッチしないといけないということです。だから、むしろ今、若い世代から私たちが学んで、新しい社会に移行し始めるのが大切ではないでしょうか」
Navigator…斎藤幸平(さいとう・こうへい)
1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。専門は経済思想、社会思想。2021年に著書『人新世の「資本論」』で新書大賞を受賞。