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娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第六夜3本目/複雑な味わいてんこもりな「舞美人 山廃純米吟醸 無濾過生原酒」~
弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第六夜のテーマはこの季節ならではの「鍋と合わせる日本酒」。3本目は、濃醇・旨口で味わい深い福井のお酒。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第六夜3本目は、酸味と旨味と甘みが押し寄せる「舞美人 山廃純米吟醸 無濾過生原酒」から。
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娘・ひいな(以下、ひいな)「ね、このラベル見てほしいんだけど」
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父・徹也(以下、テツヤ)「舞美人 山廃純米吟醸 無濾過生原酒…って漢字がすごい!」
ひいな「漢字だらけ(笑)」
テツヤ「何文字熟語みたいな」
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ひいな「この言葉にね、お酒の特徴が凝縮されてるの」
テツヤ「山廃の純米吟醸で、無濾過生原酒か。わかるようでわからないような(笑)」
ひいな「これの意味がわかってくると…」
テツヤ「俺もだいぶ成長してるってことだね(笑)。『ほどよい酸味とほどよい甘みがありながら、キリッと締まった味わいです』って書いてある。うんうん、なんか味が想像できるぞ」
ひいな「そういうこと。でも、それだけじゃない味わい深さがあるんだな。飲んだらわかるはず!」
テツヤ「オプション全部つけました、みたいな名前だけでそそられるし、買いたくなっちゃうお酒だね」
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ひいな「ね(笑)。まずは飲んでみよ!」
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テツヤ「うわ、このお酒、すごい色ついてるね。黄色い!」
ひいな「そう、山廃だから」
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テツヤ&ひいな「乾杯!!」
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テツヤ「あぁ〜これ、すごい好きなやつだな〜。おいしい!!!」
ひいな「おいしいよねぇ」
テツヤ「紹興酒みたい。寝かせてる感じもあるし。過去の連載で、同じ系統のがあったね」
ひいな「前に紹介した洞窟酒の『熟露枯』に似てる感じ」
テツヤ「ちょっと度数も強い?」
ひいな「17度〜18度くらい。日本酒の中では少し強めかもね。前に『舞美人 山廃純米 無濾過生原酒 sanQ』っていうのを飲んだことがあって。まったく酵母を添加せずに、蔵に棲んでる蔵付き酵母で仕込んだもので、すごくおいしかったから、これを選んでみたんだけど、酸味だけじゃなくて特徴ありすぎだね、このお酒」
テツヤ「そうだね、パンチがあるね。この蔵はさ、代表銘柄が『舞美人』なの?」
ひいな「そう。こういう特徴的な味わいを作る蔵だと思う」
テツヤ「だんだんと奈良漬けみたいな匂いもしてきたぞ」
ひいな「中華にも合いそうだよね」
「舞美人 山廃純米吟醸 無濾過生原酒」に合わせるおつまみはごまだれポン酢で食べる「豚しゃぶしゃぶ」!
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ひいな「この複雑妙味なお酒には、ごまだれが合うかなと思って豚しゃぶにしてみたよ」
テツヤ「いいねぇ〜」
ひいな「でもね、ごまだれだけじゃダメで、ポン酢だけでもダメで、ごまだれとポン酢を合わせたものだからこそ合うと思うの! 酸味が入ってるからおいしいの!」
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テツヤ「なにこれ、うますぎる!」
ひいな「いいでしょう?」
テツヤ「しかもね、お酒にもめっちゃ合う! ずっと舐めて飲めるね。って、もう鍋いらないじゃん!」
ひいな「(笑)」
テツヤ「お酒がね、このたれの旨さを引き伸ばしてる感じ。いや〜延々と飲めちゃうな」
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ひいな「体壊す飲み方だね(笑)」
テツヤ「舐めちゃうねぇ。今回はさ、鍋がテーマだけど、やっぱりたれが重要だね。湯豆腐、豆乳、しゃぶしゃぶ、三者三様のね。今回は、ポン酢の酸味がね、たまらなく日本酒に合うね」
ひいな「まあまあ、せっかくだから豚しゃぶも食べてよ(笑)。豚しゃぶはバラとロースを用意したよ〜」
テツヤ「めちゃうまそう!」
ひいな「じゃ、まずロースからいってみようか」
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テツヤ「しゃぶしゃぶしゃぶしゃぶ…。しゃぶしゃぶっておいしいよね。すばらしい食文化だよね」
ひいな「肉食が始まってから食べ始めたのかな?」
テツヤ「そうだよね、肉を薄く切る機械がないとダメだもんな」
ひいな「牛鍋って、お肉薄そうじゃない?」
テツヤ「そうだね。文明開化よ、ありがとう!」
ひいな「うちってお鍋、本当に好きだよね」
テツヤ「台風の時もこもってお鍋をやるんだけど、最近台風が多すぎて困っちゃうよな。鍋ばっかり(笑)」
ひいな「おいしいからいいけど」
テツヤ「うわ、豚しゃぶも日本酒に合うねぇ。湯豆腐とも違うけど、どんどんいっちゃうやつ」
ひいな「日本酒の酸味とポン酢の酸味が融合して、純米吟醸の吟醸感が増すのかな」
テツヤ「柚子胡椒とかいれて少し辛くしても、この日本酒は負けないね。強い。クレソンの苦味も合うね〜」
ひいな「最初ね、ポン酢だけにしようかと思ってたんだけど、ごまだれポン酢、発明しちゃった」
テツヤ「ごまだれか、ポン酢かっていう二択で悩んでたのがアホみたいだな。合体させたらさらにうまいんだもんな」
お酒を飲む時は、自分が開くこと! そうすれば自ずと道は開ける!?
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ひいな「このお酒にどういうたれが合うかなっていろいろ考えてた時にね、机にずらっと並べてみたの。練りゴマ舐めてみたり、ポン酢だけ舐めたり、醤油とかいろいろ。それでごまだれポン酢が最強に合うっていうことに気がついて」
テツヤ「すばらしい! 発明だね。しかも、このお酒とすごく合う」
ひいな「このお酒、何にでも合いそうなんだけど、ここまでお互いを引き立てないかもしれないもんね」
テツヤ「そうそう、この組み合わせが抜群だからね。なんかさ、日本酒のマッチングアプリとかあるといいね」
ひいな「どういうこと?」
テツヤ「自分の好きな日本酒を入れたら、それに合うおつまみが出てくるとか。あるいは、好みの味わいを入力したら、おすすめの日本酒を教えてくれるとか」
ひいな「いいね、いいね」
テツヤ「質問に答えていくと、あなたの出身県がわかる、みたいな感じで、答えていくとおすすめの日本酒が出てくるっていうね」
ひいな「今は全部スマホだからね」
テツヤ「俺、辛いの好きだからいっぱい入れちゃったけど、ほどほどがいいね。辛味って日本酒と喧嘩する部分もあるのかも」
ひいな「入れすぎな気がするけど(笑)。引き立てるかっていわれると違うかもね。それは焼酎なのかもしれないね」
テツヤ「じゃ、来週から焼酎にしようか」
ひいな「はい、連載終了(笑)。友だちの友だちで、同い年の人がね、自分で蒸留酒を造りたいっていって、蒸留酒を研究してる人がいるの。まだ会ったことないんだけど。そういう夢を持つのも悪くないなぁって」
(ライター注:ちなみに、父・テツヤは武豊と同い年)
テツヤ「ほら、ユトレヒトの江口さんもいま千葉でmitosayaってクラフトジン造ってるもんね。蒸留酒ブームが来るんじゃないの?」
ひいな「私は日本酒で!」
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テツヤ「そういえばさ、山廃を知ったのってCMだと思うんだよね。“山廃仕込み”っていうのをしきりに言ってて。黄桜だったかな。何にもわからないのに店に行ったら、山廃仕込みを飲んでた気がする」
ひいな「へぇ」
テツヤ「だから、生酛よりは山廃のほうが知ってる。生酛って酸っぱいイメージがあって、それがイマイチよくわかってなかった頃の俺はまだ開いてなかったんだな。そういうことじゃない?」
ひいな「酒の前では、自分が開かないと! この連載始まるまで、生酛は酸っぱいってずっと言ってたもんね。間違っちゃいないけど、山廃も酸っぱいからね」
テツヤ「ひいなにいろいろ教えてもらったおかげで、俺もどんどん開いてきたんじゃない?」
ひいな「そうだね、そうだね、うれしいよ」
(次回から第七夜に突入。12月22日更新予定です)