京都で特別な体験を
〈御料理はやし〉で本物の日本料理をいただく。 FOOD 2023.09.19

京都で本物の日本料理を食べてみたいという方におすすめしたいのが、名にし負う〈御料理はやし〉。百戦錬磨の店主に身を任せ、その美しい食世界に浸ってほしい。

正しい味〈御料理はやし〉へ。

何ともしっとりした建物を前に、一瞬たじろぐ。初めて戸を開けるには勇気が必要だ。自分の身なりを上から下まで眺めて、「よしっ」と気合いを入れて中へ。戸を閉めた瞬間、日頃のガサツな生活がバチッと遮断される気がする。いざ、異次元へ。

緑に覆われた風情ある仕舞た屋。店は隠れるようにひっそりある。小さな行灯と目立たぬ看板が目印。水を打った石畳を渡って玄関へ。いよいよ日本料理の極みを味わう。
緑に覆われた風情ある仕舞た屋。店は隠れるようにひっそりある。小さな行灯と目立たぬ看板が目印。水を打った石畳を渡って玄関へ。いよいよ日本料理の極みを味わう。

カウンターは掘りごたつ式。手元には時代劇に出てくるような肘掛けが置かれている。目の前には堂々たる体躯の白髪の店主。その白衣姿のカッコいいこと。映画のワンシーンのようだ。〈御料理はやし〉は出町柳に店を構えて30年。店主・林亘さんは料理人になって50年を超える。店内に漂うピリッとした緊張感が心地よい。それが苦手な人もいるかもしれないが、その緊張感によって、食に向かう心構えが自然とととのう。

カウンターの特権で、主の包丁技をじっくりと拝見する。いちいち料理の説明はないが、求めよ、さらば与えられんである。知りたいことは聞こう。心を開けば、店主も楽しく応じてくれるはずだ。何しろ、店主の頭の中にはこれまで培ってきた食の叡智がギュッと詰まっているのである。それを少しでもいただいて帰りたいではないか。ここは貪欲に。ただし、声をかけるタイミングははかること。

カウンターの後ろにある床の間。ちょうど祗園祭の只中だったので、掛け軸には長刀鉾の旗印が。花器は竹の太筒に見えるが陶器製。しつらえが目を和ませる。
カウンターの後ろにある床の間。ちょうど祗園祭の只中だったので、掛け軸には長刀鉾の旗印が。花器は竹の太筒に見えるが陶器製。しつらえが目を和ませる。

料理は流れるように供される。その一品一品に、へーっ、ほーっ、なるほどぉ、という技が隠されている(だから尋ねよう)。たとえば八寸に添えられた「べっこう生姜」。生姜の辛味が強かろうと、端っこをかじって驚いた。クセがまったくない。繊維も感じない。生姜ってこんなにおいしかったのか。次は丸ごとパクリ。煮汁をまとった生姜が、「私ってホントはこんな性格なのよ」と語りかけてくる。これは「ケ出し」という古い仕事を施しているそう。食材の辛味や塩味が強いときに、本来の持ち味を損なわない程度にクセを抜くのだという。話を聞くと、名もない脇役が一気に主役に躍り出る。

鱧の子羹、川えびを揚げたもの、炊いたごぼうを巻いた八幡巻き、夏瓜で巻いた錦紙巻きの夏バージョン、しみこんにゃくの酢みそ和え、いか黄身焼き、べっこう生姜。こまやかに手をかけたものばかり。
一つ一つ大切にいただこう。
鱧の子羹、川えびを揚げたもの、炊いたごぼうを巻いた八幡巻き、夏瓜で巻いた錦紙巻きの夏バージョン、しみこんにゃくの酢みそ和え、いか黄身焼き、べっこう生姜。こまやかに手をかけたものばかり。
一つ一つ大切にいただこう。

ぐじ(甘鯛)に添えられたゆべしも同様だ。ゆべしといえば、甘いお菓子をイメージするが、これは別物。柚子釜に調味した八丁味噌を詰めて蒸したあと、1個ずつ和紙でくるんで吊して冬を越したものだそうだ。真っ黒で独特の風味。小さいながら存在感を放ち、滋味深い。

皮付きのまま焼くと、どうしても身のほうを焼きすぎる。それを避けるために、身と皮を別々に調理。身はふっくらとジューシーに焼き上げ、その上に、カリッと揚げた皮をのせ、ゆべしとはじかみを添える。食感の違いが楽しい。
皮付きのまま焼くと、どうしても身のほうを焼きすぎる。それを避けるために、身と皮を別々に調理。身はふっくらとジューシーに焼き上げ、その上に、カリッと揚げた皮をのせ、ゆべしとはじかみを添える。食感の違いが楽しい。

ことほどさように隅々まで抜かりがない。どの料理にも真実味がある。今の時季の京都で食すべき食材が供され、いずれもしみじみおいしい。決して派手ではないし、強烈に何かをアピールするものでもない。ほのかな香りや色合い、味わいに、季節の移ろいを静かに感じとることができる。

ぽってりと賀茂茄子の上にかかったごまあんと茄子のハーモニーを楽しむ。上にプチッとのっているのは実山椒。舌がしまるのが狙い。茄子は皮を薄くむいて揚げ、煮含めてある。ごまのペーストと葛とだしを合わせて上にのせる。
ぽってりと賀茂茄子の上にかかったごまあんと茄子のハーモニーを楽しむ。上にプチッとのっているのは実山椒。舌がしまるのが狙い。茄子は皮を薄くむいて揚げ、煮含めてある。ごまのペーストと葛とだしを合わせて上にのせる。

店主はオリジナルの器も編み出している。たとえば、じゅんさいの竹筒。本物かと思いきや、よく見ると陶器だ。陶芸家に依頼して、それまで使っていた本物の竹から型をとり、焼いてもらったものだという。小さな穴を開けてもらい、生の竹を刺している。だから本物に見えるのだ。たとえば、八寸の器。秋口の枯れた蓮の葉を模している。緑の蓮の葉は、お盆のお供えをのせるもの。器として用いるのはどうなんだろう、ということからだ。何とも風情ある美しい器になった。そう、器と盛りつけも入念にチェックしよう。

砕いた氷の中に竹筒を立てた状態で登場。見るからに涼やか。竹筒を取り出して手元に置き、クラッシュアイスがのった葉蓋を取ると、じゅんさいとオクラが入った酢の物が。つるん、するりと含むと、口いっぱいに清涼感が広がる。
砕いた氷の中に竹筒を立てた状態で登場。見るからに涼やか。竹筒を取り出して手元に置き、クラッシュアイスがのった葉蓋を取ると、じゅんさいとオクラが入った酢の物が。つるん、するりと含むと、口いっぱいに清涼感が広がる。

御料理はやし

住所:京都府京都市上京区梶井町448-61
TEL:075-213-4409
営業時間:11:30~12:30LO、17:30~18:30LO
定休日:水休(月2回連休あり)

出町柳駅から徒歩5分。昼6,000円、8,000円、11,000円(夜と同じ料理も相談可)、夜13,000円~30,000円(現金のみ)。カウンターは写真撮影不可、個室は撮影可。日本酒はオリジナルの「林泉」1種類のみ。ビールやウイスキー、ソフトドリンクも用意。

photo_Keisuke Fukamizu text_Michiko Watanabe

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