選択的シングルマザーのちひろさん【後編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス MAMA 2023.03.09

カップル間でのコミュニケーションや心理学を学びながら、フリーランスのPR・ライターとして活躍する工藤まおりさんが、結婚や妊娠について様々な選択をした女性たちにインタビュー。前回に引き続き、選択的シングルマザーの道を選んだちひろさんに話を伺いました。

複数のコミュニティで子育てをする

選択的シングルマザーのちひろさん【後編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス

選択的シングルマザーという決断をした沖縄県在住のちひろさん。彼女はときにタレント、ときに会社員、ときに大学院生として、何足ものわらじを履きながら1人で子育てをしている。

「親族もいない沖縄という場所で、どのように1人で育てているのか」と筆者が尋ねると、ちひろさんは「複数のコミュニティを構築しながら色んな人を巻き込んで子育てをしている」と答えた。

今回の後半の記事では、ちひろさんがどのようにコミュニティを構築したのか、現在どのように仕事と子育てを両立しているのかについて話を聞いた。

★前半の記事はこちら

「かわいそうだから手伝うよ」という気持ちは長続きしない

選択的シングルマザーのちひろさん【後編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス

ーー仕事をしながら1人で子供を育てるって、すごく大変なことだと思います。実家に帰って家族と育てるという選択肢はなかったのでしょうか?

「実は妊娠中に一度だけ、実家に帰ったことがあったんです。
福岡の地方の方にあるのですが、そこに住むとしたら役所に行くのにも移動時間がかかるし、大きな都市まで通勤する際は家から1時間半くらいの通勤時間がかかるし、幼児教室に通うとしても車で数十分はかかる。
実家で育てていくよりも沖縄のコミュニティで得られる力の方がマンパワーとして大きいなと思って沖縄に留まることにしました。
でも、完全にワンオペなのでそれに伴うコミュニティ形成をちゃんとしないと、自分も苦しいし、子供もしっかり育っていかないなと思ったので、そこは事前にしっかり準備しようと思いました」

ーーそうなんですね。コミュニティを活用して子育てをすると聞いても中々イメージができないのですが、どのように構築していったのでしょうか。

「最初は『これから大変だから、助けて!』という感じでコミュニティを作ってました。でも、やっぱりそれだと中々うまくいかなくて。
なんて言ったらいいのかわからないんですけど、かわいそうって感情でのサポートは長続きしないと思って」

ーー確かに。「かわいそうだから手伝ってあげる」って、借りを作っているというか、ポジティブな感情ではないですもんね。

「そうなんですよね。手伝うって言ってくれる友達もいたし、こんなことだったらできるよと提案してくれた方もいたんですけど、そういう相手のためを思った気持ちみたいなのって良くも悪くも長続きしないというか。
それで最初壁に当たったとき、『かわいそうだから助けてあげよう』とか『苦しそうだからサポートしてあげよう』というよりも、ポジティブな感情になれるようにシフトチェンジしたんです」

ーーどのようにシフトチェンジされたのでしょうか?

「自分が楽しく今からシングルマザーになります!私と一緒にいたらこんな楽しいことがある!ということを妊娠中にみんなに知ってもらった方がいいと思って、妊娠中はとにかくみんなとたくさんご飯に行って、ちひろと過ごしたら楽しいとかまた会いたいとか、そういうふうに思ってもらえるようにしました。
自分が与えてもらおうとするだけじゃダメだ、自分も与えられる人間にならなきゃと思って、自分のメンタリティを大きく方向転換しました」

ーー自分のメンタリティを変えるってすぐにはできないことだと思うんですけど、どのように実行されたんですか?

「無理してでも習慣化してしまえば、今度は逆にそれを戻すのってむずかしくなるんですよ。
1~2カ月ぐらいちょっと頑張って明るく振る舞って、歯車が1回うまく回りだして新しい習慣が定着したら、今度は逆に元に戻るのが難しくなるんです。実際、習慣化に関する文献にも、そういうようなことが書いてあるんです。
そう心掛けて周囲の人に接するようになってからは、仕事に行かないといけないけど娘が風邪をひいてしまったという時は預かるよという人が出てきたり、私が熱出して買い物も行けないしどうしようという時はまた別のコミュニティでお弁当を届けるよという人もいたりして、どんどんうまく回り出してきました」

アメリカ人夫妻に子供を任せ、まちなか留学も

選択的シングルマザーのちひろさん【後編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス

ーーお互いが無条件でサポートし合う、素敵な距離感ですね。

「先日は、子供をお友達のアメリカ人夫妻に見ていただいて、まちなか留学みたいなことをしました。
娘には英語に触れさせたり、異文化に触れさせたり、多様性に触れる教育をしっかりやっていきたいと思ってるので、コミュニティで子供を育てることはそこもすごく利点があると思います。
私も、彼らが病院に行きたいけど日本語で予約ができない時は代わりに電話予約したり、役所に一緒に同行して書類を訳して説明したり、お互い困ったら助け合おうという気持ちで動いています」

ーー「これをやったから返してもらいたい」と、どうしても打算的に考えてしまいそうになります。なぜ、そんなにもお互いに助け合う気持ちを大切にできるのでしょうか?

「『ペイ・フォワード 可能の王国』という映画がキッカケかもしれないです。
『自分が思いやりを受けたものを別の相手3人に返していったら、世界が変わるのでは』というアイディアを思いついた1人の少年の話なんですけど、その映画を小さい時に見て、すごく素敵だと思ったんです。
妊娠してコミュニティを作っていかないと、みんなの力を借りないとと思った時にそれがパっと思い返されて、私もみんなに与えるようになりたい、それを自分の人生のテーマにしようと思いました。
また、沖縄という土地柄的に色んな生き方を受け入れる空気があるように感じているので、そういう島の空気に助けられてるということもすごくあると思います」

ーー妊娠中で不安もあった中、数々のコミュニティを構築されてて尊敬します。ちひろさんはなぜ、そんなに強い気持ちでいられるのでしょうか。

「それは多分、19歳の時から長い間一緒にいたパートナーと離れたことが大きかったと思います。離れるまでは、周囲から成功してると思われたいって気持ちが大きかったんです。
大学院に進学して、教員になって大学で教えられる人になったり、不動産を買ったり、ブランド品を購入したりして、人から成功してると思われたいって気持ちが強かったんですけど、1人になってみて自分の幸せはそこじゃないということに気付きました。
その時に大きい家から今のワンルームに引っ越したんですけど、今の方が幸福度が高いんです。ちょっと片付ければすぐきれいになってコンパクトで住みやすいし、朝日が入ってすごく気持ちがいい。自分が求めてた生活って物質的な幸福みたいなところになかったんだなって気づいて、それで大きく考えが変わりました。
自分の幸せは、みんなの幸せとか笑顔とか、なんかちょっと変な話かもしれませんが、そういうものがいちばん大事。コミュニティの繋がりが、私の幸福度にすごく影響すると思うんです」

選択的シングルマザーのちひろさん【後編】|工藤まおりが聞く、それぞれのチョイス

複数のコミュニティの中で、人と支え合いながら子育てをするちひろさん。それはまるで、血の繋がりのない温かい家族がたくさんいるようだった。

近年、子供の送迎や託児を近所の顔見知りの家族とシェアしたり、シングルマザー専用のシェアハウスも生まれてきている。核家族化や、シングルマザーの増加に伴い、徐々に周囲の人を巻き込んで子育てしていくスタイルが社会で確立されてきているのかもしれない。

一部で「子供は親が見るべき」という意見もあるかもしれないが、それで無理をして親が疲弊してしまっては本末転倒だ。複数の人が子育てに関わることによって、子供を多様な価値観に触れさせることができるし、親のキャリアや人生ももっと鮮やかなものになるかもしれない。いや、そうなるはずだ。選択的シングルマザーとして子供を面倒見ながら、複数の仕事への挑戦やコミュニティ構築をしているちひろさんを見て、そう強く思った。

引き続き本連載では、出産や子育てに対して様々な選択をした人にインタビューしていく。「出産」や「子育て」に悩む女性の選択肢と可能性を広げていきたい。

ちひろさんの子育てアカウントはこちら

■ツイッター:https://twitter.com/kosodate_1127
■インスタグラム:https://www.instagram.com/kosodate_1127/

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