わたしたちの無加工な「独立」の話 #7 セレクトショップ Sister代表・長尾悠美さん

WORK&MONEY 2024.05.21

どのように働くかを考えるとき、選択肢の一つとなるフリーランスや起業などの「独立」という働き方。では、実際に独立して働いている人たちは、どのようにその働き方を選び、「働くこと」に向き合っているのでしょうか。さまざまな状況のなかで「独立」という働き方を〈現時点で〉選んでいる人のそれぞれの歩みについてお話を伺っていきます。
Sister 代表の長尾悠美さんは、セレクトショップとしてSisterを運営しつつ、フェミニズムに関心を寄せ、国際女性デーに合わせた取り組みも行われています。そのような試みを始めたきっかけや、この3月、渋谷にあった店舗を休業された経緯について、お聞きしました。

INDEX

「雇われディレクター」として、16年前に始めたセレクトショップSister

─どういうきっかけでいまのお仕事についたんですか?

長尾:子どもの頃から服が好きで、東京に出てきて服飾系の専門学校に入りました。数年後、自分たちでコンセプトを立てて好きなようにお店をやっていいという夢のようなお話を知人の紹介でいただいて。雇われディレクターとして、16年前にSisterを始めたんです。

スタッフとして集まってくれたのもみんな女の子だったし、当時、友人の影響でよく聴いていたパティ・スミスやマレーネ・ディートリヒのようなかっこいい女の人に漠然と憧れがあったので、Sisterはそういう女性像をコンセプトの中心に据えました。オノ・ヨーコさんの『Sisters, O Sisters』という曲から店名をつけたんですけど、始めたころはフェミニズムという言葉の意味も考えたことがなくて。

─近年Sisterでは国際女性デーに合わせた取り組みも行われていますが、フェミニズムに興味を持ったのはどうしてですか?

長尾:2018年に、代表としてSisterを引き継いで独立したのですが、自分が代表になったらハラスメントがすごくあって。女性である私が代表であることに対して、ネガティブな対応をされることが多々あったんです。自分はシングルマザーであり、事業を運営しているんですが「本当に長尾さんがやっているのか」という、バイアスがかかった接し方もたくさんされました。

─ひどいですね……。

長尾:そのときに、私がこんなにハラスメントを受けるということは、みんな頻繁にこういう経験をすることがあるのかなと思って、お客さまをはじめ、周りの女性たちの社会での扱われ方が気になって。思い返してみると、それまでにも仕事上で「女の割によくやった」みたいな褒められかたをしたことがあったりもしたんですよね。さまざまなことが契機となって、女性のためのお店としてSisterを運営してきたからこそ、自分自身も学び直す意味を込めて国際女性デーに合わせてイベントを毎年やっているんです。

わたしたちの無加工な「独立」の話 セレクトショップ Sister 長尾悠美

─そうした取り組みを始めてみてどんな反響がありましたか?

長尾:モニカ・メイヤーさんというフェミニストのアーティストのイベントをやったときに、こちらからのいくつかの問いかけに対する答えをお店に来たお客さまに書いてもらって、展示したんです。

そのなかで「ハラスメントを受けて嫌な思いをしたことはありますか」という質問に、皆さん3、4つ書くんですよ。聞かれてすぐにそれほど思い出せるような経験をしている人がたくさんいるんだと、あらためて気づくきっかけになりました。最初はお客さまに向けてやっている面が大きかったですけど、続けていくうちにSisterを知らない方も関心を寄せてくださって。当初はイベントの売り上げを国連の女性支援団体に寄付していましたが、使われ方が選べないこともあってここ数年は図書館や児童館にジェンダー関連書籍を寄贈しています。お客さまからいただいた収益を還元できればと思っているんです。

Sisterの店舗を休業するわけ。「休業中は、留学している気持ちで過ごそうと思っています」

─場があるからこそできる取り組みも行われてきたなかで、店舗を休業される決断をされたのはなぜだったのでしょう?

長尾:いろんな理由がありますけど、若い頃にSisterを始めて、それしかやったことがないのがコンプレックスでもあったんです。国際女性デーを通じていろんな方と関わるなかで、企業さまとの取り組みや、大学の講義に協力させていただく機会もあって、Sisterもオンラインストアやプロジェクトベースで続けつつ、外の人たちとの仕事を増やしたいと思うようになりました。

通ってくださるお客さまも3、40代になって、お金の使い方も変わってくるなかで、Sisterが好きだからお買い物でお付き合いをしたいと思ってくださる方はたくさんいるんですけど、それだけでなく、イベントを通してお客さまと繋がっていくことも理想の形なのかなという思いもあります。

わたしたちの無加工な「独立」の話 セレクトショップ Sister 長尾悠美

─長く続けてきた仕事の形を変えることは、勇気のいる決断だったのではないかと想像します。

長尾:そうですね。Sisterも声をかけられて始めたし、人に人生のきっかけをもらうことが多くて。今回の休業は、初めて自分で決めたことのような気がします。ただ、物事が進まないときって、タイミングが合わないことが続いたりしますけど、今回は周りの方がすごく助けてくださってスムーズだったので、安心して休業できた面はありました。

決断は自分の責任だから、プレッシャーもあります。でも、思いついたらぼんやりとでも、したいことを身近な人に言ってみると、案外賛同してくれて、徐々に物事が動いたりもします。口に出すのって結構大変だと思いますけど、自分の可能性に自分が一番気づいていない場合もあるから、やってみたら意外とできるし楽しいっていう、実体験を積み重ねるのはすごく大事だと思います。

─いま長尾さんの中で、仕事ってどんな位置付けにあるものですか。

長尾:難しいですけど……、ファッションや思想など、自分が知っているちょっとした情報や、興味があることをシェアするのが自分の仕事だと思っていて、そのとき一番関心のあることをしていけると嘘がなくていいのかなと思います。そういう理想的なストーリーと共に半分は、もちろん自分はシングルマザーでもあるので生活するためにも必要なんですけど(笑)。いろいろな人たちと働くことがすごく勉強になっているので、Sister休業中は、留学しているような気持ちで過ごそうと思っています。

text_Yuri Matsui photo_HIkari Koki edit_Kei Kawaura

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