繊細なデザートとドリンクが示す、新たな可能性。 廃材の利活用で、カカオを取り巻く環境に変化を。
幅広いシーンを彩るチョコレートは、世界中で愛されているお菓子です。しかし、実はチョコレートには、ネガティブな一面も。チョコレートの原料であるカカオは、その大部分が生産過程で廃棄されているのです。3月14日、東京の新宿御苑にて、こうした社会課題を起因とするイベント『LIFE OF CACAO』が開催されました。本イベントで披露されたのは、廃棄されてしまう部位も含め、カカオを丸ごと味わうというユニークな試み。当日は、創意あふれる魅力的なスイーツとドリンクが提供されました。
あらゆるステークホルダーを幸せにするためのプロジェクト。
イベント『LIFE OF CACAO』の主催は、事業をとおして社会課題の解決を目指す〈LIFULL〉。同社は2018年より『地球料理-Earth Cuisine-』というプロジェクトのもと、地球上でまだ光が当たっていない食材を活かす取り組みを行ってきました。
同社の川嵜 鋼平さんいわく、『地球料理-Earth Cuisine-』は、社会課題の原因となっている素材に“食べる”という新しい可能性を見出すプロジェクト。このプロジェクトを通し、持続可能な社会を実現させたいと語ります。なお、プロジェクトを進めるにあたり特に大切にしてきたのが、「新しいおいしさ」を追求する姿勢なのだとか。「シェフや生産者、地球環境など、あらゆるステークホルダーが幸せになれるようなおいしさを追求したいです」と、川嵜さん。
ちなみに『地球料理-Earth Cuisine-』としての取り組みは、過去に3回、実施されています。第一弾として実施されたのは、間伐材を使用したパウンドケーキ「Eatree Plates〜木から生まれたケーキ〜」の開発および販売。これは、間伐材が未利用資源となっている問題を受けての取り組みです。また、第二弾では、国内各地で問題視されている放置竹林にスポットが当てられ、「Bamboo Sweets-竹害から生まれた和菓子-」と「Bamboo Galette-竹害から生まれたガレット-」が開発・販売されました。そして第三弾では、カカオの廃材でできたチョコレート「ECOLATE」を開発・販売。なお、今回のイベント「LIFE OF CACAO」は、第三弾となる取り組みの一環として開催されました。
チョコレートの生産量が増えても、貧困から脱却できないカカオ農家。
今回の『地球料理-Earth Cuisine-』でカカオにフォーカスが当てられた背景には、さまざまな社会問題があります。川嵜さんは、こう説明しました。
「この10年間、チョコレートの市場は成長し続けています。また、コロナ禍を迎えて以降、チョコレートの需要は大きく増加しています。にも関わらず、市場におけるカカオの買い取り価格は、長らく最低ラインにあります。つまりカカオ農家は、低賃金で大量のカカオを作り続けており、貧困から脱却できない状況に置かれているのです。私たちは、こうした状況を解決する糸口をつくろうと、カカオの廃材に目を向けました」
カカオポッドのなかには数十粒のカカオ豆が入っており、このカカオ豆を加工することで、チョコレートの原料となるカカオニブが出来上がります。つまり、チョコレートに用いられるのは、カカオ豆に含まれるカカオニブだけ。チョコレートの生産現場では、カカオ豆の殻やカカオパルプ、枝、葉は不要とされており、現状、ほぼすべてが廃棄されています。
カカオ全体のおよそ7割が廃棄され、収益につながらないことも、カカオ農家が貧困に陥ってしまう要因の一つ。「私たちは、廃材を利活用して食材に変える取り組みを通し、農家の収益が増える仕組みを構築しています」と、川嵜さん。
『LIFE OF CACAO』で提供されたのは、カカオ豆の殻やカカオパルプなど、生産過程で廃棄されてしまう部分を使ったデザートとドリンク。全5種類のペアリングメニューを通し、カカオが誕生してから土に還るまでの姿を表現したそう。デザートやドリンクの美しさ、おいしさは圧倒的で、もとは廃材だったとは信じられないほど。シェフの江藤英樹さん、バリスタの井崎英典さんの卓越した技術や発想力が感じられました。