神の気配に立ちすくむ。 1200年の歴史を誇る滋賀・比叡山の世界遺産。最澄が山上に開いた広大な寺〈延暦寺〉へ TRAVEL 2020.08.17

広大な敷地に100以上の建物を有す、1,200年の歴史を誇る比叡山の世界遺産。自然の生と呼吸を合わせるようにして、比叡山の中で静かにゆむ西暦寺で日常のことをちょっと忘れて、 ゆるやかな時間の流れに身を任せてしまおう。

比叡山に抱かれて、神の気配に立ちすくむ。

巨大な琵琶湖を眼下に見やり、京都府と滋賀県の県境を蛇行しながら緑深い山道を登っていく。ここは標高848mの比叡山。上に進むほど空気が澄むようで、出家するわけでもないのだけれど、心の準備が整い感覚が研ぎ澄まされていくようだ。

文殊楼から見下ろした、根本中堂。1642年に再建された建造物は国宝と世界遺産に登録されている。重厚感ある板葺き屋根は圧巻。
文殊楼から見下ろした、根本中堂。1642年に再建された建造物は国宝と世界遺産に登録されている。重厚感ある板葺き屋根は圧巻。

そう、この山の全体を抱くように天台宗の総本山、延暦寺はある。788年に最澄が開いた1200年の歴史をもつ寺は、世界遺産である総本堂の根本中堂を含む東塔、西塔、横川の3つのエリアから成る。広大な敷地には100ものお堂が点在し、そのすべてを総称して延暦寺、と呼ぶ。

「そういえば最澄って教科書で習ったなあ、なんて記憶を呼び覚ましながらちょっと勉強してみたい。2歳で僧となった最澄は、0歳の時にひとり比叡山に入る。そこで仏を彫り、一乗止観院(現在の本堂にあたる)を建て、勉学に励んだ。遣唐使として海を渡り帰国した後も、既存の仏教とは異なる新しい宗教をつくるという信念のもと、生涯、修行を続けたという。日本仏教の礎を築いた偉大な人物なのである。

“開運の鐘”と呼ばれる鐘楼。1回50円で撞つくことができる。
“開運の鐘”と呼ばれる鐘楼。1回50円で撞つくことができる。

ちなみに厳格な修行の数々は現在まで脈々と伝わっていて、とりわけ荒行といえるのが7年はかかるという〝千日回峰行〞。その中には9日間の断食・断水・断眠・断臥(!)という行が含まれるというから想像を絶する…。と、これは極限的な話ではあるけれど、とにもかくにも最澄の思想と教えは〝山川草木悉有仏性〞(人だけでなくすべての生あるものが仏になれるという意)と忘己利他、(己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり)という言葉に集約されるだろう。

滋賀県の門前町、坂本と延暦寺を結ぶ「坂本ケーブル」は、日本一の長さを誇る。窓から琵琶湖を眺めながら比叡山へ分け入るなんて贅沢!
滋賀県の門前町、坂本と延暦寺を結ぶ「坂本ケーブル」は、日本一の長さを誇る。窓から琵琶湖を眺めながら比叡山へ分け入るなんて贅沢!

いつの時代も、混迷する世界を救う指標を求めるものなのかしら、などと想像しながら根本中堂を眼前に立ちすくむ。木々に囲まれ山に守られるようにひっそりと、そしてどっしりと構えるその存在感は、神秘的。という言葉がしっくりくる。お堂に入ると、ちょうど参拝者が座った時に目線が等しくなるべく如来像が低い位置に鎮座している。というのも、仏様と人は平等な存在であるという釈迦の教えを表しているのだとか。さらに、最澄が火を入れてから灯り続けているという不滅の法灯、を眺めれば、走馬灯のように遥か遠い過去の歴史が火中にチラチラと映るように思えてくるから不思議なものだ。「日常のことはひとつ忘れて、山の中でしか味わえないこの雰囲気を楽しんでくださいね」というお坊さんの声で我に返った。来た時も去る時も、延暦寺は顔色一つ変えることなく山の中に佇んでいた。

〈比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)〉

比叡山全域を境内とする天台宗の総本山。
■滋賀県大津市坂本本町4220
■077-578-0001
■9:00〜16:30 ※季節によって異なるので要確認
■拝観料大人1,000円

(Hanako特別編集 合本・完全保存版『幸せをよぶ、神社とお寺。』掲載/photo:Tetsuya Ito text:Shiho Nakamura)

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