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子育てのゴールは「子どもと対等で良好な関係を築くこと」だと決めた。 〈100人のママプロジェクト〉3人目アーティスト草野絵美さん前編 Learn 2023.02.20

アーティストであり起業家でもある草野絵美さんは、10歳と2歳の2人の子育てをしている。一人目の子どもを妊娠したのは大学在学中。一年の休学を経て大学に復学し、卒業後は広告代理店に勤務。子育てのモットーは「親子で知的好奇心を伸ばす」ことだ。2021年には、8歳の長男が夏休みの研究で手がけたピクセルアートをNFT作品として販売。「Zombie Zoo Keeper」の作品はSNSなどでアートコレクターの目に留まり完売、その後、アニメ化プロジェクトへと発展した。
既存のルールや常識にはとらわれず、持ち前のディグり(ヲタク)精神を活かし、楽しみながら子を観察、子育てについて研究してきた成果が2022年の春に『ネオ子育て』として出版された。現在は、起業家として新たなNFTやデジタルアートのプロジェクトを行う会社を経営しつつ、子育てにまつわるエッセイやインタビューを多数受けている。30代前半にして、いくつもの人生を生きているようなパワフルな草野さんに聞く“ネオ”子育てとは。

一人目を妊娠したのは大学在学中、21歳の時だ。そう聞くと「学生で母になるなんて……」と無理やり苦労話を想像してしまうのは、私だけではないだろう。そんな野暮な想像をひらりと飛び超えて、草野さんは合理的な判断に基づいて子どもを産み育てることになる。

「子育てにはすごく興味がありましたし、早く子どもが欲しいという考え方ではありました。ロールモデルは特にいませんでしたが、大学生ってすごく時間があるし、親も若いから手伝ってもらえる。社会人になったらもちろん学生よりも忙しいだろうし、妊娠も子育ても年を追うごとに大変になっていくだろうし、子育てを始めるなら学生のうちがいいなと思っていました。「まだ若いのに……」と言われることもありましたが、逆にどうして若いというだけで、周囲の人たちはいろいろと言うんだろうってぼんやり思っていました。逆に20代中盤になると結婚する人たちも増えるし後半になってきたら、早く子ども産まないととか結婚しないとって焦り出す人たちが出てきたりして。そのたった5年や7年くらいの隙間って何なんだろう、周囲が言う常識って何なのかな?とも考えますよね。

子育てに興味を持ったのは、母親の存在です。専業主婦だったんですが、すごく生き生きと子育てをしている姿が印象的でした。PTAや地域の活動にも積極的に取り組んでいましたし、マンションの壁新聞でイラストを描いたりもしていて。後に私や妹がSNSやブログをやっているのに触発されて、50代でイラストのブログを始めたら、それが書籍化されたんです(笑)。そんな母の影響もあったので、子どもを産み育てることに関しては不安というより楽しみの方が大きかったです」

出産で一年の休学を経て大学へと復学し、卒業論文に取り組むことになる。テーマは「パターン・ランゲージで理想の子育てを探る」。
パターン・ランゲージというのは、1970年代に建築家のクリストファー・アレグザンダーが、住民参加のまちづくりのために提唱した知識の記述方法である。
町や建物に繰り返し現れる関係性を「パターン」と呼び、それを「ランゲージ(言語)」として共有する方法を考案。ある専門性を持った建築家やデザイナーだけではなく、この方法を用いることで、誰もがデザインのプロセスに参加できる。この方法論は、建築だけではなくソフトウェア分野にも応用され、2000年代には人間の行為の秘訣を記述するために応用されるようになる。草野さんは、この理論を育児の現場に活用できないかと考えたのだ。

「〜流育児」や「〜教育」的な育児書は世の中に溢れている。筆者も妊娠中に一瞬検索をしてみたがその多さと圧(〜をした方がいい! 〜は成長に大切!といったような)に、そのままパタリとパソコンを閉じてしまった経験があるが、まさに子育ては情報との戦いだとも言える。草野さんは大量の情報にやみくもに身を投げ出すのではなく、パターン・ランゲージという手法を用いて切り込んだのだ。まずは身近な友人たちから情報を募り、子どもが成人している人から絶賛子育て中だという人、ワーキングマザーも専業主婦も含めてたくさんの方々にインタビューを行った。

「何がよい子育てなのかという定義は非常に難しいところなんですが、話を聞いていくなかでいくつか共通点が見えてきました。それは『親子で互いに尊重し合っていること』、『親も子もそれぞれ一人の人間として自分らしく生きていること』、『親子が長期的に対話できる関係性を築いていること』でした。
教える、教わるという上司と部下のような関係ではなく、結局は別の人間で、人間同士で友情を育んでいかなきゃいけない。
だから相手を尊重することが当たり前のように大事になってきます。また、子どものために何かを諦めるわけではなく、親も子もそれぞれの人生があるから、親も自己実現をしながら子どもと一緒に成長していくということ。そして、子どもの好奇心の高さが後の勉強へのモチベーションにつながるという話も聞きました。子どもが興味を持つ段階で、親も一緒になって面白がることで好奇心旺盛な子どもに育つという。子どもとの接し方、向き合い方、興味の伸ばし方、自分自身の成長のさせ方、対話の仕方……。様々な事例を通して、直接お話を聞けたのはすごく大きかったですし、自分も子どもとオープンでフェアな関係を築けるようにしたいなと思いました。子育てをし始めの頃に、数々のポジティブな生の声を聞くことができたのは、本当に恵まれていたと思います」

子育てを始めた頃に聞いた胸を打つ先輩母たちの生の言葉は、どれほど草野さんを励ましたことだろう。母や子育てというテーマで話をすると、「〜をやっておいた方がいい」「〜をしてはいけない」という実践的な話に終始したり(もちろんそれも非常に大切な話ではあるが)、自分はこんなに大変だったという苦労や愚痴が多くなりがちだ(もちろんそれを言いたくなるくらい大変な経験だということはわかる)。しかし、草野さんが話を聞いたのは大学の卒業論文ということもあり、子育てという非常にパーソナルな家庭で行われている事象を客観的に収集できた。

子育てのゴールはどこなのか? 一流大学に行かせ、一流企業に就職させることや、高収入を得ることではない。草野さんは、数々のインタビューを通じて、ゴールは「子どもと対等で良好な関係を築くこと」だと感じた。では、どうすればいいのか? その試行錯誤は、著書の『ネオ子育て』に詳しく書かれている。

少し話を戻す。「親も自己実現しながら子どもと一緒に成長していく」という言葉がとても印象的だった。冒頭で学生の時に妊娠=苦労話を想像してしまうと書いたのも、やはりそこで学業や就職を諦める、という方向を考えてしまうからだ。しかし、草野さんがインタビューで聞いた事例では、どの母親も何かを諦めていない。むしろ、子育てという境遇を前向きにとらえるものだった。

「ワーキングマザーの方の『子どもができてから本当に無駄な仕事がなくなった』とか『得意なことに集中するようになった』という言葉がすごく印象的でした。私はもともとすごく不器用なタイプ。得意なことと苦手なことがすごくはっきりしているんです。高校時代のアルバイトでは、お店の商品の名前がまったく覚えられなくて、2週間で辞めてしまい。その後は、自分でストリートのファッション写真を撮影し、海外のBBCやCNNなどのメディアに販売していました。それは一つの例ですが、昔からいわゆる普通の仕事というよりも、別のことをして評価されていたところがあって。親からも得意なことをやりなさいと言われていました。そうした気質で悩むこともありましたが、そんな自分の気質に自覚的ではあったと思います。インタビューでも、子どもがいることによって集中できる時間は限られてくるけど、逆に無駄な仕事がなくなる。親になる準備として、自分が何が得意なのかを常に意識した方がいいと言われまして。そこをかなり意識しながら生活していました」

大学を無事に卒業し、広告代理店に就職した。当時、子どもは2歳半。しかも広告業界である。現在は働き方改革も進み、変わってきている部分はあると思うと草野さんは言うが、当時(とは言っても8年程前)は残業は当たり前、接待の多い部署ももちろんあった。そんななか「残業のできない新人」として入社し、社会人生活が始まった。

後編は、2月27日公開予定。

photo:Eri Kawamura text:Keiko Kamijo

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