天使に出逢いました/小山テリハの「人生は編集できない」 LEARN 2023.02.13

テレビ朝日プロデューサー、ディレクターの小山テリハさん。自分や後輩の女性たちが少しでも生きやすく、でも面白い(ここ、重要!) 番組を作るために奮闘中の彼女が綴る、日々の悩みや疑問。第6回目は「仕事」ではなく「生活」の話。そう、こちらも、なかなか大変ですよね、みなさん。

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犬に出会った。
ほぼ一目惚れというか、抱っこしたら離したくなくなってしまった。
もふもふで繊細であったかくて、可愛すぎた。

天使。衝撃だった。そのまま手放せなくなってしまったので、いろんなことの説明を受け、書類にサインし、私の部屋は犬が快適に過ごせるところではなかったので、引っ越さないといけなくなった。この子が暮らせる部屋を探さないと。

その日のうちに、名前を考えた。
ポメラニアンのメスだった。ちいさくて、ちみっこい…ちみちゃん…おちみ。
おちみだ。何も迷いもなく、まだ生後3か月の子犬の名前は「おちみ」になった。

その日のうちに、急いでSUUMOでペット可物件を探し始めた。
ADのころのリサーチ力を遺憾なく発揮し、物凄い数をチェックして、短期決戦スケジュールで内見し、急いで物件を決めた。入居可能日は1か月後と言われ、(おちみが待ってるのに。遅すぎる…)と落胆した。
引っ越すとなると、荷造りや退去の手続きもしないといけない。日々の業務でいっぱいいっぱいでなるべくプライベートに手をかけなくて済むような生活を送っているのに、プライベートのやることが増えることは私にとって超フラストレーションだった(こういうとき、仕事に全振りしている人間は弱い・・)しかもほぼ初めての「引っ越し」は本当に大変で、もう二度とやりたくないくらい疲れたのだった。
全身筋肉痛で半泣きになりながら荷造りをして、精神も肉体もくたくたに疲れ果てた。
なんていうか、「普通にこのくらいできるよね!みんなやれるよね!」っていう、習うことないけど生きる上で大切な作業が私は心底苦手なんだと、明確に自覚した。
冷蔵庫や洗濯機の処理も全く知らなくて、ググってなんとかなったけれども、30年生きててこんなことも知らないのかと恥ずかしくなった。

結局、徹夜でやっても荷造りが間に合わなくて、当日は引っ越し業者の人に気まずすぎる感じで「本当に申し訳ないのですが…できてるやつから…運搬してください…」とお願いし、優しいスタッフの方ばかりだったので、全身ホコリまみれ・脂ぎった額で目のクマがヤバい一人暮らし女を見かねて、了承し、作業を完了してくれた。
なんとかなった…。特番を一本納品し終えたくらいの達成感だった。
(引っ越し作業をそつなくこなす、すべての人を尊敬します。)

愛犬2

引っ越しが終わるとすぐにおちみを迎えに行った。
とはいうものの、引っ越すまでの間に、何回もおちみに会いに行っていた。仕事終わり、仕事合間、休日…顔を忘れられたくないし、頑張るモチベーションをくれる天使なのだ。
新しいお家に来たおちみは、嬉しそうだった。と言いたいところだけど、多分とても困惑しているだろうなと思った。誰が見ても部屋中段ボールだらけだし、段ボールがある空間に人がいるって感じで、もはや部屋らしさもなかったから。
それでもおちみはかわいかった。

おちみとの生活が始まって、覚悟はしていたけれど、上手く行かないことばかりが起きている。当たり前に自分の思い通りにならないことしかなくて、犬を飼っている友人が「犬を飼ってると、子供なんて到底無理だと思っちゃう」と話していたけれど、その言葉は、すごくわかる気がした。
「犬を飼うんです」ってある知人に話したら、「飼えるの~?」って心配されたけど、(ていうか、もう飼ってるし、飼えるとかじゃなくて、育てないといけないんだけど)と思ったけれど、そうは言い返せず、「まあ、出張とか地方ロケがもし入ったら、ペットホテルに預けることもできるんで…」と、まるで自分に言い聞かせるような言い訳めいた返しをしてしまった。
子供ができたらきっともっとめちゃくちゃ大変なんだろうなと思う。
映画「SHE SAID」の中で、ニューヨークタイムズでバリバリに働くキャリアウーマンたちが当たり前に子育てをしながら働いている描写があって(何の違和感もなく夫婦で子育てをしていて、職場や子供といる時間とが交互にサラッと描かれていて、そうだよなあ~~~とか思った)、ファッションや気概も「かっけぇ~~~」としか言いようがなかったのだけれど、(素晴らしい映画で、その魅力については別で語りたいほど)
「できるかな?」で立ち止まっていたらたぶんこの選択肢を選ぶことは一生なかったし、そこで立ち止まらない、勢いみたいなものが、ある時人生の中で突然訪れるんだろうなと思っている。おちみがいる私にとって、「飼えるか飼えないか」ではないし、きっと子がいる母にとっては、「育てられるか育てられないか」ではないんだと、想像する。

価値観というのは出来事や年齢によってゆらゆらと変わっていく。
おちみに出会って必然的に節制しないといけなくなったこと、引っ越しの際いかに自分が物を持ちすぎているかということが嫌というほどわかったので(正直、一人暮らしでこの段ボール、ありすぎですよと配達員のリーダーの方に心配された)「かんじんなことは、目に見えないんだよ」という星の王子さまの言葉のごとく、死ぬときは棺桶に何も持っていけないし物理的に満たされること以外の幸せを見つけていきたいなと最近はぼんやり思う。
30までは明日死ぬかもしれないから貯金はしない!と消費や浪費をしまくっていたけど、今それが揺らいでいる、自分がその変化を受け入れようとしている最中だ。(といいつつ、またきっとなにか運命的に出会ったらお財布を広げてすぐに受け入れてしまうだろうし、昨日、つい新しい洋服をまた買ってしまった。)
好きなものが多い人間に、お財布フレンドリーに生きることは、めちゃくちゃ難しい。

「支えられてます」/2月某日
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