国分寺エリアの住宅街に潜む〈torpet〉&〈Le fournil 木もれび〉/池田浩明のまだ見ぬパン屋さんへ。 LEARN 2022.12.13

パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」からお届け。今回は、殿ヶ谷戸庭園に玉川上水と、武蔵野の自然を残す国分寺エリアが舞台。晩秋の風景の中で食べるパンはますますおいしい。散歩の途中に、住宅街に潜むパン屋さんに寄るのはいかが?

1. 〈torpet〉自然豊かな日本の北欧で、本格的フィーカを!

カルダモンロール330円。細長く切った生地を巻いて作るスウェーデンの伝統的な形。カルダモンシュガーが妖しい香り。金沢の〈townsfolk coffee〉の豆を使ったカフェラテと。
カルダモンロール330円。細長く切った生地を巻いて作るスウェーデンの伝統的な形。カルダモンシュガーが妖しい香り。金沢の〈townsfolk coffee〉の豆を使ったカフェラテと。

〈torpet〉とはスウェーデン語で「サマーハウス」を意味する。北欧の短くも楽しい夏休みを、武蔵野の自然が残る、鷹の台の町に重ね合わせたのだ。
オーナーの小原愛(こはらあい)さんが、スウェーデンに留学していたとき出会ったFIKA(フィーカ)という習慣。コーヒーとスイーツを楽しみながら語らう時間のことだ。どこのカフェにも、コーヒーのお供として、おいしいシナモンロールやカルダモンロールが置かれていた。

小原さんが〈torpet〉を立ち上げたのは、留学時代の友人、アダム・フェルトさんと日本で再会したのがきっかけ。
「『スウェーデンらしい味のパンを食べたいね』と言い合っていて、『だったら作ればいい』と。現地のようなパン屋さんをやりたかったんです」
パンを作るのは、フェルトさん。つまり、スウェーデン人が作る本物のシナモンロールというわけだ。シナモンロールもカルダモンロールも、スウェーデン流に成形。細長く切った生地を糸玉のように巻いて作り上げる。これが、民芸品のような形のかわいさもさることながら、重層的なカリカリ感やエアリーさにつながるのだ。滲みだすバターの風味と、たっぷりのシナモンやカルダモンといったスパイスが重なると、幻惑的な時がやってくる。

焼菓子もスウェーデン風。右から、ジャムクッキー300円、コーラスニッター300円、ドロンマル300円。
焼菓子もスウェーデン風。右から、ジャムクッキー300円、コーラスニッター300円、ドロンマル300円。

光あふれる大きな窓ガラスと、コンクリート打ちっぱなしの床、木のカウンターというシンプルな内装。パンをほおばって、コーヒーを一口含めば、スウェーデンのさわやかな夏が目に浮かぶよう。

〈torpet〉について

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〈torpet〉
住所:東京都小平市たかの台38-5 1F │地図
営業時間:9:00〜18:00(土日祝〜17:00)
定休日:水曜
席数:3席
スウェーデンさながらのベーカリーカフェ。シナモンロールなどスウェーデンのパンとコーヒー。

2. 〈Le fournil 木もれび〉懐かしいパンの、地域密着型のお店。

惣菜パン。左上から時計回りに、ポテトとオニオン238円、もち麦チーズ356円、レンコンのタルティーヌ356円。
惣菜パン。左上から時計回りに、ポテトとオニオン238円、もち麦チーズ356円、レンコンのタルティーヌ356円。

パンの名店は、駅から少し歩いた住宅街に潜んでいるものだ。〈Le fournil 木もれび〉もそんな一軒。
店名に「ルフォーニル」(=村の共同窯)と冠したのは、近所の人たちが集まるあたたかな場所にしたいと考えたから。

店内風景。惣菜パンも菓子パンもフランスパンも。近所にあったら、小腹が空くたび駆け込んでしまいそう。
店内風景。惣菜パンも菓子パンもフランスパンも。近所にあったら、小腹が空くたび駆け込んでしまいそう。

おやつや昼ごはんに重宝する日常のパンが並ぶ。一見普通のパンに見えるが、店主の田中浩一(たなかこういち)さんの腕と素材のよさが活きている。
たとえばクリームパン。毎日食べることを考えて、甘さは少し控えめ。でも、北海道産小麦を使用した生地が放つ風味がコクとなり、カスタードがとてもおいしく感じられるのだ。

自家製カレーパン248円。6種のスパイスを調合した自家製キーマカレー入り。太白胡麻油をかけて揚げ焼きしたかりかりの衣。味の決め手はオニオンスライス。
自家製カレーパン248円。6種のスパイスを調合した自家製キーマカレー入り。太白胡麻油をかけて揚げ焼きしたかりかりの衣。味の決め手はオニオンスライス。

そんなふうに、どのパンも味付けが控えめに感じられるのだが、噛めば噛むほど味わいが湧いてきて、生地のおいしさを味わうには、この量でちょうどいいんだとわかる。

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毎日通いたい理由はパンだけじゃない。妻・麻里さんの笑顔が明るい。つられるように、スタッフのみなさんも楽しそう。
「オープンした当時はお客さんも少なく暇だったので、常連さんと何時間も話すこともありました(笑)」と麻里さん。パンも雰囲気もあたたか。まさに、国分寺のフォーニルだ。

〈Le fournil 木もれび〉について

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〈Le fournil 木もれび〉
住所:東京都国分寺市本多5-22-6 APセダン 1F│地図
TEL:042-325-7569
営業時間:8:00〜18:00
定休日:月、火曜
国分寺の住宅街に潜む名店。食パンなど日常のパン、クリームパンなど懐かしいパンも丁寧に。

Navigator…池田浩明(いけだ・ひろあき)

「パンラボ」を主宰しながら、ブレッドギークとして、日本全国のパン屋さんを巡り情報を発信する。いち早く国産小麦にも注目し、日本のパンの未来をみつめる。

■パンラボblog:panlabo.jugem.jp

(Hanako1215号掲載/photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda)

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