『 ゼペット 』
レベッカ・ブラウン作、柴田元幸訳、カナイフユキ絵。書店〈twililight〉(東京都世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル3F)の店頭やオンラインで購入可。1,760円。

シリーズ化熱望! レベッカ・ブラウンの『 ゼペット 』をイラストレーター・カナイフユキが描く。 LEARN 2023.01.24

アメリカの作家、レベッカ・ブラウンの掌編『ゼペット』が、柴田元幸さんの翻訳、カナイフユキさんのイラストによりかわいい絵本となって登場。

実はこれ、イタリアの童話でディズニー映画としても知られる『ピノキオ』を踏まえた物語。

イラストを担当したカナイさんにお話をうかがいました。

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カナイフユキ
個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスをすくい上げる表現で注目のイラストレーター&コミック作家。著書に『LONG WAY HOME』など。

「 レベッカ本人に“素敵な絵をありがとう”と言われて卒倒しました(笑) 」

絵本を企画・編集した三軒茶屋の書店〈twililight〉の熊谷充紘さんに声をかけていただいたんです。僕はレベッカ・ブラウンの大ファンで、ことあるごとに彼女のことをSNSに書いたり、本についてコラムを書いたりしていたのを、熊谷さんが目にしたんだと思います。「絵本を出すので描いてみませんか?」と。

レベッカの本と出会ったのは、10年以上前、自伝的短編集『若かった日々』を読んだのが最初です。すぐに大ファンになりました。レズビアンをカミングアウトしているところにシンパシーを持ちましたが、それ以上に、彼女と彼女の両親の関係性に共感したんです。

例えば、彼女のお父さんは退役軍人で、前線で戦った経験はないのに、自分は英雄だったという話をするのが子供の頃からすごくイヤだった、でも嫌いにはなれない、みたいなことだったり。僕の場合、それとはまったく違いますが、両親がともに教師なので「いい子」でいることをうっすら強要されて育ったんです、「教員の親を持つ子供あるある」ですが(笑)。そういった、どこか息苦しさを感じる家庭環境から生まれる空気感が、ああ、わかるなって。

『ゼペット』は、ピノキオが人間にならない話です。みんなが知っている話は、人形のピノキオが、人間になることを望み、ゼペット爺さんを身を挺して助けることで「よい心」を持つことができたと、最後に人間になります。でも、レベッカのピノキオは、最初から、人間にはなりたくない、と言う。ゼペットが、人間になれば犬を飼ったり野球をしたりアップルパイを食べられるよ、と言っても、なりたくないです、と。やがて、人間になってほしいと望むゼペットは老いていき、死を迎えます。

今回、絵を描くにあたり、あえてピノキオのイメージをディズニー版に近づけました。そうすれば、これがピノキオだとすぐにわかるし、レベッカ独特の裏切りが、強いコントラストで表現できるなって。

木の人形を作ったゼペットは人間の男の子にしたいと思った。
木の人形を作ったゼペットは人間の男の子にしたいと思った。
ピノキオの配色はディズニーに近づけつつカナイワールドが炸裂。
ピノキオの配色はディズニーに近づけつつカナイワールドが炸裂。
死にゆくゼペットの妄想の中でピノキオは「男の子」になった。
死にゆくゼペットの妄想の中でピノキオは「男の子」になった。

先日、翻訳者の柴田元幸さんとレベッカのトークイベントがあり、僕はそれを観ていたのですが、そのとき、彼女が、看取りの経験がこの物語には反映されている、と語ったのが印象的でした。彼女は敬虔なカトリック教徒で、アメリカでエイズが蔓延していた時代、看取りのボランティアをしていたんです。

その体験は、『体の贈り物』という小説にもなっていますが、そのときに、確実に亡くなることを知りながら、神に祈る患者たちの姿に信仰とは何かを見出した、と。それを聞いて、人形は決して人間にはならないと知りながら、ゼペットがそれを渇望するのは、信仰にも似た、神への愛のようなものなのだ、と感じました。

レベッカはとてもユーモアのある女性。ホント、僕は彼女の大ファンなので、「絵を見て感動して、泣きそうになった」と言ってもらえたときはもう卒倒。僕、このまま死ぬかもって(笑)。

ほかに「赤ずきん」や「三匹の子ぶた」を踏まえた作品もあって、柴田さんはそれらの翻訳も進めているので、また描けたらうれしいですね。

『 ゼペット 』
レベッカ・ブラウン作、柴田元幸訳、カナイフユキ絵。書店〈twililight〉(東京都世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル3F)の店頭やオンラインで購入可。1,760円。
『 ゼペット 』
レベッカ・ブラウン作、柴田元幸訳、カナイフユキ絵。書店〈twililight〉(東京都世田谷区太子堂4-28-10 鈴木ビル3F)の店頭やオンラインで購入可。1,760円。
photo : Eri Morikawa text : Izumi Karashima

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