夏子の大冒険 〜ちいさな美術館をめぐる旅〜 世界初の絵本美術館・ちひろ美術館へ。「子どもは未来」編

LEARN 2021.06.02

ちいさな美術館を巡って、作品から思いを馳せて物語を綴るこちらの連載。第6回目の舞台は、絵本画家・いわさきちひろさんの作品を集めた〈ちひろ美術館・東京〉。『窓ぎわのトットちゃん』でおなじみの、水彩絵の具で描かれた愛らしい子どもたちを鑑賞してきました。

憧れのトットちゃん。

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「いわさきちひろの描く子どもの絵に似ているね」

小さい頃からそう言われることが度々あり、とても嬉しかったの覚えています。不思議と大人になっても、そう言われる機会は増えていき、私はずっといわさきさんの描く子どもを意識して生きてきました。

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念願叶って、今回ようやく〈ちひろ美術館〉に行くことができ、そのあまりに優しく純度の高い子どもたちを見て、なぜか私は自分のこじれた幼少期を思い出してしまったのでした。

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「子どもは未来」

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「将来の夢を、絵に描きましょう」と言われて、当時4歳だった私はとても困ったのだと思う。みんな、お花屋さんやバレリーナ、自分の名前を書いた看板を構えるケーキ屋さんなんかを描いていた。どうしてそんなにすらすら出てくるのか不思議だった。きっと、サッカー選手にも野球選手にもなれっこないのに。

『いわさきちひろ 見つめる少女(1967年)』 ※『わたしがちいさかったときに(童心社)』より
『いわさきちひろ 見つめる少女(1967年)』 ※『わたしがちいさかったときに(童心社)』より

それでも絵を提出しなければならない私は、課題を持ち帰り、じっくり将来について考えた。街を歩きながら、たくさん観察して、当時目に映った一番キラキラしている人たちを描いた。それは、憧れの大手コーヒーチェーン店で、緑のエプロンをしてアルバイトに勤しむ大学生の姿だった。幼稚園児の私からみると、楽しそうに仕事をしている大人の代表だったのだろう。

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進路を決める歳になっても相変わらず将来の夢はなくて、子どもの頃の自分に期待して、出てきた絵がそんなだったから、見つけた時はがっかりした。なんだかすごく可哀想なように思えて、よしよししてあげたい。

『いわさきちひろ あかちゃんのくるひ(1969年)』 ※『あかちゃんのくるひ(至光社)』より
『いわさきちひろ あかちゃんのくるひ(1969年)』 ※『あかちゃんのくるひ(至光社)』より

ずっと子供っぽい子どもに憧れていた。デパートでおもちゃを買ってくれと床に寝転んで駄々をこねる子なんか、最強に子どもっぽくて羨ましかった。初めてお小遣いで好きなアーティストのCDを買ったとか、好きなアイドルのコンサートに行ったとか報告し合っていて、たまらなく子どもらしくてかっこよかった。親を安心させたくて、誕生日に誰々の写真集を買ってくれとせがんでみたこともある。全然欲しくなかったけど。

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そんな、未来に希薄で、自意識過剰な子どもが大人になるとどうなるのか。今の私は、言うなれば“逆コナン君”になっている。「見た目はオトナ、中身はコドモ」だ。映画を見て号泣し、悔しければ地団駄を踏む。嬉しいことがあれば所構わずスキップをして鼻歌だって歌っている。

『いわさきちひろ ガーベラを持つ少女(1970年頃)』
『いわさきちひろ ガーベラを持つ少女(1970年頃)』

子どもは未来。っていうことは、私にも未来? 「オトナコドモ」の未来は意外にも明るい。

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今回訪れたのは...〈ちひろ美術館・東京〉

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ここで告白したように、私はとてもひねくれた子どもでした(自分で書いていて悲しくなるくらいに!)。でも、「オトナコドモ」になった今、いわさきさんの絵はまっすぐ心に入ってきて、私の中の子ども心を刺激してくれました。ちなみに、〈ちひろ美術館〉の館長は黒柳徹子さん。私もトットちゃんのように、いつまでも童心を忘れない、立派な子どもで居続けたいなと思いました。

〈ちひろ美術館・東京〉

■東京都練馬区下石神井4-7-2
■03-3995-0612
■月休 (祝の場合は翌日休)
■10:00~16:00(入館は15:30まで)
■1,000円(高校生以下は無料)

※普段は撮影禁止です。

photo : Yumi Hosomi

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