娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第十九夜2本目/日本酒の原点へ立ち返る「小嶋屋 無題 壱ノ樽」 LEARN 2020.12.06

弱冠23歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第十九夜2本目は、軽やかな飲み口で低アルコールとは思えない味わい。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)

第十九夜2本目は、自由な発想から生まれた革新的なお酒「小嶋屋 無題 壱ノ樽」

娘・ひいな(以下、ひいな)「お菓子をテーマにしたものの、どんなお酒にしようかなって実は迷ったんだよね」
父・徹也(以下、テツヤ)「お菓子と日本酒って、難しいよねぇ」
ひいな「恵比寿にある〈君嶋屋〉の方に相談したら、在庫はなかったんだけど、スタッフ全員が和菓子に合うと言ったお酒があるんですよって教えてくださって」
テツヤ「そりゃ聞き捨てならないねぇ」
ひいな「でしょ? お酒の名前も聞かずに『それをお願いします!』って注文しちゃった(笑)」
テツヤ「(笑)」
ひいな「それがこのお酒だったの。この蔵は『東光』っていうお酒も出していて。〈君嶋屋〉のみなさんがどうしてこのお酒が和菓子に合うって言ったのか、飲んでみてわかったよ」

テツヤ「うわ、安土桃山時代の創業なんだって。すごいね!」
ひいな「日本酒の純米酒とか大吟醸とかの分類って『特定名称』って呼ばれるんだけど8種類あるのね。特別本醸造、本醸造、特別純米、純米吟醸、純米大吟醸、純米酒、吟醸、大吟醸」
テツヤ「よく言えたね(笑)」
ひいな「このお酒はそのどれにも属してなくて、普通酒の扱いなの」
テツヤ「へぇ。そうなんだ」
ひいな「どうしてかって言うと『酒四段仕込』っていう『古事記』にも出てくる手法で仕込んでるんだって」
テツヤ「なんだかすごそうだな」
ひいな「貴醸酒って、覚えてる?」
テツヤ「酒を酒で造るんだよな」
ひいな「そうそう。3回目のもろみを入れる時に、水の代わりにお酒を入れるのが貴醸酒。この『酒四段仕込』っていう造り方は、三段目までは米、水、麹で普通に造ってるんだけど、四段目の時に、別で仕込んだ純米大吟醸を入れるの」
テツヤ「なるほど」
ひいな「だから、特定名称をつけられないんだって」
テツヤ「どれにも属さないっていうことなんだな」
ひいな「そういうことだね」
テツヤ「ラベルに買いてある言葉がいいね。“伝統は自由で多様だ”って。伝統を再解釈して新しい酒を造る気概を感じるね」
ひいな「8世紀と10世紀の書物から発想して、この造り方を考えたらしくて。特定名称っていうのは、つい最近の分類だからね」
テツヤ「伝統を重んじながらも革新的なんだな」
ひいな「今の特定名称にとらわれることなく、自由な発想で酒造りをするっていうのがおもしろいよね」
テツヤ「どんな味なんだろう。飲んでみよう!」

テツヤ&ひいな「乾杯!」
テツヤ「うわ。これはうまい! 酒に酒を足した感じしないな……。むしろ、軽快さがあるっていうか」
ひいな「うんうん。軽快さあるよね」
テツヤ「この軽やかさは意外だった」
ひいな「純米大吟醸に純米大吟醸で仕込んだとか聞いたら、そうとう濃いのを想像しちゃうよね」
テツヤ「そうそう、それが全然ない」
ひいな「もろみに加えるお酒の一部を杉樽に入れてるんだって」
テツヤ「樽香かぁ。だからちょっとワインぽいなと思ったんだ」
ひいな「しかも、アルコール度数は13度」
テツヤ「え!? もっとあるかと思った。香りが強いからかな? いやぁ、おいしいね。これ海外の人も好きだろうな。洋食にも合うと思う。酸味もあるしね。ちょっと贅沢感もあるし」

「小嶋屋 無題 壱ノ樽」に合わせるのは、沖縄県糸満市産の「珊瑚黒糖」。

ひいな「このお酒は、こしあん、お餅、栗にも合わなかったんだよね」
テツヤ「餅は米からできてるのに、なかなかハードル高いんだな」
ひいな「そうだね。お餅って口の中に残るから、なかなか合わないんだと思う」
テツヤ「なるほど」
ひいな「バッチリ合ったのは、黒糖だったの。しかもね、この黒糖、普通の黒糖じゃないの!」
テツヤ「どんな?」
ひいな「沖縄県糸満市の黒糖なんだけどね、口どけがすごくて、口に含んだ途端、溶けてなくなっちゃうの。無農薬、無化学肥料、無添加。おいしすぎて、ここ2週間で2袋食べちゃった」
テツヤ「それはちょっと食べ過ぎじゃない(笑)? 心配だなぁ」
ひいな「もうね、止まらないの」
テツヤ「ま、悪いもの入ってないからいいか。しっとりしてるね」
ひいな「ひとつ情報を仕入れました。奄美大島の人は、黒糖焼酎を飲む時に黒糖を口に入れてから焼酎を含んで、黒糖を舐めながらお酒を飲むらしい」
テツヤ「本当に(笑)? やってみよっか」
ひいな「まず、黒糖を口に入れて」
テツヤ「一緒に飲むんだね。いただきます! あのね、黒糖がおいしすぎて、お酒飲む前に溶けてなくなった。口どけが良すぎる!」
ひいな「この黒糖のおいしさったら、ハンパなくない?」
テツヤ「うん。こりゃうますぎるよ。これはどこで買ったの?」
ひいな「〈住吉酒販〉で買いました」
テツヤ「本当においしいものを知ってるよね、あのお店は」
ひいな「ふふふ。でしょ? 社長がこの黒糖を見つけてきて、9月に取り扱いを始めたの」
テツヤ「本当にすごい口どけだね。あっという間になくなっちゃう」
ひいな「でしょ? 特定名称にこだわらないお酒は可能性が無限大で、なおかつ黒糖と合わせてもおいしいってさ、さらに枠が広がる感じがするんだよね」
テツヤ「しかも、黒糖だったら、やっぱり、奄美とか沖縄とかの、それぞれ近いところのお酒が合うのはわかるんだけど、これ山形のお酒でしょ?沖縄の黒糖と山形の日本酒が出会っちゃった」
ひいな「それがいいよね。楽しみ方も自由!」
テツヤ「この黒糖のおかげで、お酒がさらにおいしくなった」
ひいな「そうそう。おいしさが増した」
テツヤ「うん、甘みがより強調されて、うまい酒がもっとうまくなった。でもこれ、確かにめちゃくちゃおいしいけど、1週間で1袋は食い過ぎですよ」
ひいな「はい! ごめんなさい。1袋1200円します……」
テツヤ「高っ! おいしいけどさ、これ危険だなぁ」

自由な発想から生まれる、自由な酒。日本酒の可能性はまだまだ無限大!

『伊藤家の晩酌』~第十九夜2本目/日本酒の原点へ立ち返る「小嶋屋 無題 壱ノ樽」

ひいな「酒四段仕込のメリットは、酸化を防ぐことで、しぼりたての香りや味わいを損なうことなく、ダイレクトに感じられること、軽快さと飲みごたえの両立ができること、特定名称にこだわらないことから多様性があって、可能性が無限大っていうこと」
テツヤ「特定名称に合わせて酒造りするんじゃなくて、造り手の発想次第で、自由な酒が造れるってことだな」
ひいな「そうだね。造りたいものを造れるっていうことだね」

『伊藤家の晩酌』~第十九夜2本目/日本酒の原点へ立ち返る「小嶋屋 無題 壱ノ樽」

テツヤ「いやぁ、これは黒糖と酒の無限ループだね。これは殿様の食べ物と飲み物だよ(笑)。うまいなぁ。合わせるものによってお酒って印象変わるけど、こういうシンプルにおいしいものと合わせることで、より上質なものになった気がするね」
ひいな「うれしい」
テツヤ「料理だったら何が合うんだろうね」
ひいな「食前酒かな。料理に合わせなくても、これ単体で完成してるから」
テツヤ「だよね。何が合うか全然イメージできないもんな」
ひいな「純米大吟醸みたいに、香り重視っていうよりは酸味とか甘みとかの味わいが重層的だから、黒糖の深みとかうまみにも合うんだろうね」

次回:12月13日(日)更新予定

『伊藤家の晩酌』~第十九夜2本目/日本酒の原点へ立ち返る「小嶋屋 無題 壱ノ樽」

【ひいなのつぶやき】
黒糖との無限ループを楽しんでください!
ひいなインスタグラムでも日本酒情報を発信中

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