「喫茶店は大人の学校」 「良い喫茶店」の条件とは?喫茶ラヴァーが名物「のりトースト」で知られる神田〈珈琲専門店 エース〉で対談。
喫茶店関連の著作も多い川口葉子さんと難波里奈さん、ハナコラボ所長の斉藤アリスさんという生粋の喫茶ラヴァーたちが神田の名店に集合。“良い喫茶店”について熱く語りました!
コーヒーと趣ある空間。喫茶店は大人の学校です。
斉藤アリス(以下、斉藤):私はカフェや喫茶店巡りが日課なのですが、今日は大先輩とご一緒できてうれしいです。最近また喫茶店が注目されて、ブームになっていますよね。
川口葉子(以下、川口):実は喫茶界って、ほぼ15年の周期で移り変わりがあるんです。1980年に〈ドトールコーヒー〉が登場して、1996年に〈スターバックス〉が上陸し、2000年のカフェブームの下地ができた。2010年頃からはサードウェーブの影響でオシャレなコーヒーショップが全盛ですが、そんなオシャレさに疲れた時に(笑)、変わらぬ喫茶店の良さに気づいたのが今なのでは、と。
難波里奈(以下、難波):私は2000年のカフェブームで、それこそ川口さんの著書を手にカフェに通ったのですが、オシャレな場所に行くと緊張してしまって(笑)。普段着で行ける心地よさから喫茶店に通う生活になりました。最近は同じ理由で喫茶店に夢中になる人が増えている気が。
斉藤:カフェと同じく喫茶店も〝インスタ映え〞することに若い世代が気づいたのかも。「15年周期説」、面白いですね。ただ私、今でもカフェより純喫茶の方が緊張するんです。ここでパソコンを開いていいのか、何を頼むべきかとか、特に初めてのお店はどう振る舞ったらいいか分からなくて…。
川口:まずは常連さんを観察してみるといいかもしれません。私は「喫茶店は大人の学校」と言っていますが、あの振る舞いは粋だな、逆にこれは怒られるな、とか。
斉藤:先輩の姿から不文律を学ぶのですね。なるほどー。あの、超ビギナーな質問ですが、そもそもカフェと喫茶店の違いはあるのですか?
川口:本質的に同じなので、明確に定義するのは難しいです。感覚的に呼び分けているんですよね。昭和以前にオープンした店は喫茶店。またカフェのメニューがパスタなら、喫茶店は「ナポリタンスパゲティ」とか。独自の喫茶店料理ですよね。
難波:私も昭和の時代に創業したお店が基準です。建築や空間を見るのが好きなので、なるべく改装していない、当時のインテリアが楽しめるお店に惹かれます。
斉藤:確かによく行く喫茶店は、昭和に開店していますね。良い喫茶店を見極める条件は何かありますか?
難波:居心地の良さを提供してくれる店主の距離感や、老若男女色々な人が寛げるかどうかも大事。
川口:私は、いい店を〝こおひい〞と定義してるんです。心やすまる空間とおいしいコーヒー、控えめな店主、粋なお客さん。
斉藤:もう一つ、「いい音楽」も大切なポイントですよね?
川口:そう。音楽は決して主役ではなく、店の雰囲気と相性が良くて、会話や読書の邪魔をしないのが前提。それでも季節や天気、その日の気分などと音楽が奇跡的に合った時に、突然まわりの風景が美しく見える。そんな魔法の瞬間があるのが、喫茶店の「いい音楽」。
難波・斉藤:名言!!
川口:初心者なら、1926年創業の渋谷〈名曲喫茶 ライオン〉や浅草〈アンヂェラス〉がおすすめ。どちらも二度と建てられない建物ですから。
難波:あと神保町〈エリカ〉や〈白十字〉とか。
川口:〈アンヂェラス〉は空間もコーヒーもデザートも、すべてにおいてクオリティが高くて、バランスいいですよね。
難波:同感です。店主さんが、自分の店のケーキが大好きとおっしゃっていて。お店の方からそんな〝謙虚な自慢〞を聞くとうれしいですよね。常連も一見さんも分け隔てない接客がまた素晴らしい。
斉藤:ところで私、喫茶店巡りは大好きですが、たまにちょっと怖い時があって(笑)。
心から憩える喫茶店。でも本当は……怖い!?
難波:マスターが気難しそうとか?
斉藤:私は小さい頃をオーストリアで過ごして日本でもカフェ派だったので、喫茶店を懐かしいと感じる原体験がないんです。だから埃っぽい市松人形とかあると驚いてしまって。
川口:ふふ。そういう怖さなのね(笑)。清潔さは私も気にしますよ。お掃除は気づかいの証明なので。
斉藤:あ、〈エース〉は内装もかわいいし、きれいなので大好きですよ。
難波:良かった(笑)。〈エース〉のマスターの清水さんは、創業時のポリシーを今も持ち続けている方。そんなお店こそ次世代に残したいし、自分も通い続けたいです。喫茶店の店主さんはドリップや調理、接客、経営までも自身でするし毎日店を開ける。尊敬の念しかありません。
川口:確かに。喫茶店は日本特有の文化なので、店主が気概を持っている店に私も魅力を感じます。例えば京都の〈六曜社〉は常に喫茶とは何かを探求し、100年続けようと努力している。そういうお店こそ後世に残ってほしいです。
斉藤:あと、喫茶店はたばことの縁が深いですが、最近、禁煙の店が増えて、選べるようになりましたよね。オーストリアのカフェも店内をガラスで仕切って分煙にした後、今は完全禁煙。やはり東京はオリンピックを機に色々変わっていくのかな。
川口:そうですね。喫煙者が喫茶文化を支えたのも事実ですし、難しい問題です。例えば禁煙にして一部の常連が離れたお店はコーヒーのワークショップを開いて集客するとか、喫茶店にとっても変化が必要な時期なのかもしれません。
難波:2020年に向けての再開発で閉店していく名店もあるので、今のうちに通っておきたいですよね。
斉藤:はい。最近は、江古田の〈ぐすたふ珈琲〉や吉祥寺の〈トムネコゴ〉など新世代のネオ喫茶も増えているし。私にとって喫茶店は驚きに満ちたワンダーランド。昭和を感じる内装や、ミニチュアのようなイス、ポップなランプなど、レトロですごくかわいい。海外の人が日本らしさを感じる要素があちこちにあるので、『Hanako』から世界へ喫茶店文化をどんどん発信していきたいです。
川口・難波:頼もしい!
喫茶店に行ってみたくなったら…
(Hanako1150号掲載/photo : Kenya Abe text : Yoko Fujimori)