味にうるさい食いしん坊の味方!上町〈バーボン〉の渡辺修行さん|星子莉奈のMeet the Chef FOOD 2023.05.16

レストランのプロデューサーやディレクション、PR、ライターとして活躍する星子莉奈さんが、気になる店のシェフをクローズアップする短期連載。第6回は、上町にある洋食店〈バーボン〉の渡辺修行さんの登場です。

〈バーボン〉の渡辺修行さんにインタビュー

みなさん、こんにちは。新緑が気持ちいい季節になりましたね。たまたまこの数日お仕事やプライベートで森へ行く機会が多く、心穏やかなときを紡いでくれるグリーンのパワーに改めて感動していました。緑の世界に身を委ね、せせらぎの音に耳を傾けながら淹れたてのコーヒーを飲んでいると曇った気持ちも忘れて晴れやかな気分になりますね。

さてさて、今回は私が偏愛してやまない一皿を生み出した天才シェフへ会いに上町駅にある〈バーボン〉へ行ってきました。
初めて〈バーボン〉に訪れたのはかれこれ10年以上も前のこと。ご近所でアルバイトをしていた友人に連れられてお邪魔したのが最初でした。迷わずオリジナルライスを頼めと指定され、運ばれてきたワイルドポーションに絶句したのを今でも覚えています(笑)。
しかしながら脳天を突き抜けるようなおいしさで、「こんなになじみのある味わいにも関わらず食べたことがない味だ。知ってそうで知らなかった味だ!!」と目を見開いて大興奮。友人もその興奮ぶりを横目で確認し、満足げにオリジナルライスを頬張っていました。

俳優顔負けのダンディな渡辺シェフ。
俳優顔負けのダンディな渡辺シェフ。

前置きが長くなってしまいましたが、今回はこのオリジナルライスの生みの親である〈バーボン〉店主の渡辺修行シェフにお話を伺ってきました。

映画好きの渡辺シェフと奥様がコレクションしているハリウッドスターのポスター。
映画好きの渡辺シェフと奥様がコレクションしているハリウッドスターのポスター。

「元々はサイフォン式コーヒーの専門店をやっていました。しかしサイフォン式コーヒーの流行も落ち着き、客足が減ってしまったので夜は酒場として営業をスタートしたんです。すると飲みにくるお客さんたちもだんだん増えてきて、これはなにかご飯を作ってあげなきゃいけないなと思い料理を始めたんですよ」。

ジュージューとおいしい効果音を奏でております。
ジュージューとおいしい効果音を奏でております。

ちょうどその頃、お肉の仕入れ業者の方と出会い、ステーキなどの肉料理を増やし始めたそう。「最初はステーキをやっていたんですけど、そのうちステーキ専門店が増え始めて、ブランド牛にはかなわないと思ったんです」。
そこで試行錯誤を繰り返し、ひねり出したのが“ハンバーグを砕く”というアイディア。「お肉はハンバーグを砕いて肉肉しさを重視して、徹底的に味にこだわろうと決めました」。このひらめきが機転となり、クラッシュハンバーグを様々なソースに掛け合わせた唯一無二のオリジナルメニューがいくつも生まれました。

オリジナルライス。
オリジナルライス。

中でも私の胃袋が一目惚れしてしまったのがこのオリジナルライス。お醤油ベースの秘伝ソースであっつあつに炒められた挽肉ときのこの上に、狂気的な量のチーズが投入されています。くっきり見えるブラックペッパーがパンチの効き具合を物語っているのもまたいい…。

誰にもマネできない門外不出のソース。
誰にもマネできない門外不出のソース。

オリジナルライスの決め手はなんといっても秘伝ソース。「昔、中華街に行ったときに食べたどんぶりの味わいが強烈に記憶に残って。このソースは絶対ハンバーグと一緒に食べたらおいしいなと思い、帰って作ってみたんです。そしたらぴたりとハマってね。それがオリジナルライスの原型です」と、開発秘話を教えてくれました。

黙々とオリジナルライスをかき込む星子。
黙々とオリジナルライスをかき込む星子。

メニューに加えたらすぐに人気を博し…なんてお話を期待していたのですが、はじめはなかなか受け入れてもらえなかったと言います。「味は悪くなかったんだけど、ご飯にハンバーグをかけるって食べ方が独特でなじみがなかったから、まず食べてみようという人がいなくて大変だった。オンザライスとか、B級グルメのような概念のない時代でしたからねぇ〜」と当時を振り返る渡辺シェフ。それでも一度食べたらやみつきになる味わいで、じわじわとリピーターも増え、いつしか口コミで話題が広がっていたそう。

料理は全くの未経験で独学だったとか。
料理は全くの未経験で独学だったとか。

毎回、魔法でも使っているのか(?)と疑いたくなるマッハスピードで料理が運ばれてくるのですが、もちろんそんなイリュージョン的なお話ではなく、毎朝6時から渡辺シェフがせっせと一人で仕込みをして、お客様をお待たせしないよう完璧に段取っているのだそう。
「お昼時なんかは特に、みんな時間がないから早く食べさせてあげたくって」と微笑む渡辺シェフ、ブラボーすぎます。
「誰かに任せようと思ったことはないんですか?」とやや愚問ながら聞いてみたところ、「誰にも任せられない、味が変わっちゃうから」と、キッパリ。「例え同じレシピでやっても体に染み付いていない人が作ると“また食べたいオリジナルライス”にはならないのよ」と奥様も断言していました。

マイレジェンドな一皿。
マイレジェンドな一皿。

先日、来店した際に「お店もいつまで続けられるか分からないよ…」なんて冗談まじりに告げられ、「え、万が一にもこの世から〈バーボン〉がなくなってしまったら困ります!」と騒いでいたのですが、少し冷静になった帰り道、この味を食いしん坊読者に届けなければと使命感が沸々と湧いてきた星子でした。何年経っても変わらぬおいしさで私の胃袋を受け止めてくれる〈バーボン〉、感動と同時に安らぎを覚えるオリジナルライスをぜひご賞味ください。渡辺シェフ、ありがとうございました。

photo:Miyu Yasuda

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