「ママとしてやれる事なんて、とても少ないなと感じる」#05 ファンタジスタさくらださん 後編 MAMA 2023.08.05

ファッションデザイナーとしても活躍するファンタジスタさくらださん。前編では、多感な時期に父親を亡くしつらい時期を過ごしたこと、20代であやまん監督と出会い、「あやまんJAPAN」のメンバーとして活躍するまでのお話を伺いました。後編では、夫Boseさんとの出会いと結婚、出産、そして現在10歳となった娘さんとの関係性や、子育てをする中での葛藤などについて伺います。

 そんなときに出会ったのがBoseさんだった。
「小籔千豊さんの音楽フェス『コヤブソニック』の出演者同士として初めて出会って。一通り、あやまんJAPANの芸を披露したんです。Boseさんの膝の上に乗っかって『私の席はここかな〜?』って。苦笑いしてました(笑)」
もともとテクノミュージックや渋谷系など、日本のポップカルチャーが大好きだったさくらださん。出会う以前からスチャダラパーのライブにも足繁く通う「ファン」だったという。
「憧れの人でした。だから、Boseさんに仕事の悩みを相談するうちにどんどん親しくなって。それまでの自分のことや、父を亡くしたことが大きなトラウマになっていることも正直に話すことができました。Boseさんと出会う前までの恋愛って、どこか歪んでいたんです。でもBoseさんとなら一緒に人生を歩いていけるなって。ごく自然の成り行きで結婚することになりました」

入籍して3ヶ月後に妊娠。2013年に娘さんが誕生する。
「嬉しかった、単純に。2人だけの生活も楽しかったし、これで子供ができれば本当に楽しい毎日になるんじゃないかなって。だけど、子供を育てるって、当たり前ですけど、人生初めての経験じゃないですか。Boseさんの実家は岡山だし、うちの母は東京にいるけど自分の生活だけでいっぱいいっぱい。2人きりで手探りの状態でやらなきゃいけなくて大変でした。いちばん困ったのは寝てくれないこと。ビックリするほど寝ないんです。2歳ぐらいまでそうでした。2〜3時間でギャーって夜泣きするから、そのたびに抱っこして、部屋の中をウロウロしたり、車に乗せてどこかへ連れていったり。周りの子の話を聞くとよく寝るとみんな言うから、なんでうちは寝ないんだろう、って。保育園に行ってた頃も、お昼寝の時間に寝ないから、家に帰ってくるとウトウトするんです。完全にグラグラして寝そうになってるのに、私がご飯をつくり始めたりすると、『あ、ヤバい、寝ちゃったあ!』って(笑)。どうやら、寝ちゃいけないと思ってるみたい。自分が知らない間に何か楽しいことが起こるんじゃないかと思うみたいで。例えば、彼女が学校に行ってる間にBoseさんとお茶をしたりランチを食べに行ったりするんですが、それをインスタにアップしたりすると、ものすごく怒る。『なんで私がいないときに!』って。そういう子なんです、赤ちゃんの頃から(笑)」

小学校へ入学するときにはどんな教育を受けさせるべきか、非常に悩んだが、公立学校に通わせる選択はしなかった。
「私自身が女子校で同調圧力を経験してきたし、日本独特の足並みを揃える雰囲気が子供の頃から苦手だったんです。ただ勉強も大事ではありますよね。例えば漢字。娘は、平仮名や片仮名、簡単な漢字は読めるんです。漫画に出てくるような字は。でも漢字は書けない。英語は毎日やっているからペラペラ喋るし読めるし書けるけど。だから、だんだん、これではヤバいんじゃないか、勉強させたほうがいいんじゃないか、そんなふうに考えるようになって。近所の塾に通わせてみたりもしました。本人も行ってみたいと言ったので。でもすぐに『超つまんなくて本当に嫌い』って行かなくなっちゃったんです。『何も考えずにドリルを繰り返すだけじゃないか』って。結構、的を得たことを言うんですよ(笑)。それでもう、漢字をやる、やらないでものすごくバトルになっちゃったんです。『あなたの将来のために漢字はやらなくちゃいけないんだよ!』と言ってしまって。でもそこでハッとしました。漢字が書けないと困る、というのは、私の経験則でしかないことなんです。第一、『これを持っていたらシアワセ』『こうじゃないとヤバい』そういう考え方を押しつけたくないし、そういったことに囚われてほしくないと思っているのに。例えば、ゴキブリ。私、ゴキブリが怖いんですよ。多くの人がそうだと思う。でもそれって親だったり社会だったり、テレビのCMだったり、ゴキブリが出てきてギャーとなるのを見るうちに、あれは怖いものだと学習し、そういう意識が植え付けられていく。すべてがそういうことで成り立っているんだと思うんです。こっちが能動的に与えなかったとしても、一緒に生活していく中で絶対に影響を受けてしまう。こっち側の常識を押しつけすぎないようにしなくちゃいけないなって。先回りして困難を排除してあげるべきかもしれないけれど、さじ加減はすごく大事だなって。だから、漢字については、漫画だけじゃなく、日本の小説が読みたい、漢字をもっと知りたい、漢字を知ってなくちゃダメだ、彼女がそう思ったときに勉強するだろうから、それでいいんじゃないかなって」

10歳になった娘に対して、「ママとしてやれる事なんて、とても少ないなと感じる」とさくらださんは言う。
「いま、家族3人の関係は本当にいい状態だなと感じるんです。それぞれ『個』であることを尊重しているし、チームみたいなものだなって。いいチームになれるように自分の時間は自分でキープする努力をお互いする、そんな感じがすごくあるんです。よく人から言われるのは、『あんまり子供扱いしてないね』って。それは彼女が小っちゃい頃からそうなんです。子供って、究極、いちばんそばにいる他人だなと思ってて。血はつながってるけど別人格の人間なんです。同じものを見て、同じものを食べて、同じ場所で寝ていても、同じように感じるわけではないんです。同じ人間ではないのだから。そして、親子とはいえ、彼女は私が支配する存在でもない。ましてや、自分の成果物でもない。だから、彼女を『叱る』ということもないので、つい喧嘩になっちゃうんです。お互いに激しく言い合いになっちゃう。Boseさんはそれを見てよく呆れてますけど(笑)」
 
まるで姉妹ゲンカのようですね、と言うと、さくらださんは笑った。
「クリエイションを通して自分自身と向き合う時間が増えて気づいたのが、『ああ、私の精神年齢が父が亡くなった15歳で止まっていたのかもしれない」ということ。それまでは髪の毛をピンクにしたり、派手なファッションで身を包んで"武装"しないとどこか不安だったんです。でもデザインを繰り返していくことで最近はその不安が少しずつなくなってきました。もちろん装って自信をつけることは、ネガティブなことだとはまったく思っていません。これからは、いまファッションの"武装"が必要な人たちに向けて自分の経験を活かして作り続けていきたい。娘と張り合ってまだまだ子どもみたいな自分ですが、子育てやデザインを通して成長も感じています」

photo:Takahiro Idenoshita text:Izumi Karashima

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