はかなさ、静寂、つながり…
あなたはどんなとき、“美しい”と感じますか? |
#1 詩人、翻訳者・高田怜央

LEARN 2023.12.29

SNSに飛び込んでくる大量のビジュアルやテキストに「いいね」と「やばい」と「スルー」のリアクションを反射的に返し続ける日々の中で、ふと思った。そもそも「美しい」ってなんだろう? この言葉は何か別格というか、むやみに乱用してはいけないような崇高な気配すら漂う。知りたいのは辞書や教科書的な答えではなく、あの人やこの人がそれぞれの「美」について考えるプロセス。第一回目のゲストは詩人、翻訳者の高田怜央さん。

photo: 遠藤祐輔
photo: 遠藤祐輔

 今回、この途方もない問いを考えてくれたのは、詩人で翻訳者の高田怜央さん。日本で生まれ、9歳から16歳までスコットランドで過ごした。帰国後、上智大学在学中に翻訳会社でアルバイトをスタート。ギャラリー勤務などを経て、フリーランスの翻訳者に。近年は詩作にも取り組み、2023年には初の詩集『SAPERE ROMANTIKA』を発売した。詩作の瞬間から、そのきっかけのひとつになったという映画『パターソン』に関連する詩も。以下の5枚の写真はすべて高田さん本人が撮影したもの。

敬愛するニューヨーク派の詩人、フランク・オハラが出先で詩作をしたように、外で読む。
敬愛するニューヨーク派の詩人、フランク・オハラが出先で詩作をしたように、外で読む。

 バスの車内か電車のなかか、どちらにせよ移動中に撮った1枚。持っているのは詩人フランク・オハラの詩集です。ジム・ジャームッシュ監督の映画『パターソン』でその名を知りました。ニューヨーク派と呼ばれる詩人のひとりで、散歩しながら詩を作ったとも言われています。かたや50年以上前のニューヨーク、こちらは現代の東京と時空は違えど、同じように街を移動しながら作品に触れる時間はいいものだなと。
 ちなみに、残念ながらフランク・オハラをはじめ映画『パターソン』で触れられた詩人たちの作品はあまり訳書がないんです。いつかチャレンジできたらいいなと思っています。

詩作する夜の時間。
詩作する夜の時間。

 詩を書くのは大抵夜。22時から翌2時くらいの時間帯のどこかでやることが多いですね。これはそんなある日の1枚。メールもなく電話も鳴らず、静かでゆっくり考えられるのは夜くらい。その時間は美しいんじゃないかなと。夜は待っていたらやってきてくれる、というのもいいですね。

自分のために願うこと。
自分のために願うこと。

 この前の誕生日に自分のためにプレゼントを買いました。写真のリングがそれです。このときは「いい年になったらいいな」と自分のために願うような気持ちだったと思います。今回、写真を振り返りながら「これはちょっと大事な瞬間だったんじゃないか」と思ったんです。年々おざなりになっていく誕生日をちゃんとしようというのもそうだし、自分のために自分で願うというのはかけがえのないことだなって。
 そう思うと、「美しい」というのはすぐには気がつかないものかもしれないですね。続いていて、今後も続いていくことごとに気がついた瞬間に「美しさ」を感じるというか。逆にいうと、日々の生活や人生をつくっているモーメントに気づいたとき、そのモーメントに美しさがある。モーメントといってもその一瞬だけではなくて、自分自身の生活や人生との大きな繋がりを感じられることが大切なのかもしれません。

懐かしく、落ち着く服。
懐かしく、落ち着く服。

 これは人生との繋がりを感じられる瞬間、のひとつの例だと思います。映っているのはクリストファーネメスのコートの裾です。お気に入りなのですが、そそっかしいので汚してしまわないかと不安で......(笑)。ここぞというときに着ています。最近はイベントに登壇するときに羽織って行きました。この襞も美しいけれど、人生との繋がりという意味では日本とイギリスをうまく融合しているところに美しさを感じます。懐かしさにも近くて、ホッとする感覚もある。
 私自身日本で生まれたけど9歳からの10年弱はスコットランドでの生活でした。それで自分の故郷はどこかと問われると少し悩む。例えば「子どもの頃の好きなものは?」と聞かれたらスコットランドで触れたものがたくさん思い浮かぶんですね。それにもっというと、私のなかで日本とスコットランドはバラバラでシームレスな繋がりのようなものがないんです。だからこそ、このブランドのようにデザイナーの出身地のイギリスと仕事を手掛けた東京、という2つの要素が混じり合っているものに一層魅力を感じるんです。日英で活動されている漫画家の楠本まきさんの作品にも似たよさがあると思っています。

縁の繋がりのダイナミズム。
縁の繋がりのダイナミズム。

 翻訳家の柴田元幸さんにいただいたサイン。アレン・ギンズバーグの詩集『吠える その他の詩』に書いてもらいました。もちろん柴田さん訳です。そもそも私がこの詩を知ったのは高校生のときでした。パティ・スミスの音楽を聴いて、その1曲「Spell」でこの詩を知ったんです。その後、2016年にパティ・スミスによるポエトリー・リーディングのイベントがあってもちろん行きました。そのときに彼女の後ろのスクリーンに映っていたのが柴田さん、村上春樹さんによるギンズバーグの訳文たち。当時は翻訳も駆け出しくらいの時期で、まだ詩は書いていなかったのですが、7年ほどを経て柴田さんに好きな音楽の話を聞かせてもらえるようになりました。続けたいことを続けていると、人の縁はどう繋がっていくかわからないものだなあと感じたときです。


「美しい」を英語にすると、やっぱり「beautiful」が一番近いと思います。でもこの単語には「素晴らしい」とか「大切な」といった意味もある。「美」を問われたときに、単に見た目の美しさだけを考えず、「かけがえのなさ」のようなことも想定するのは英語圏でも似たようなところがあるかもしれませんね。

edit_Ryota Mukai photo_Leo Elizabeth TAKADA

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