今のあなたにピッタリなのは? アーティスト・YUUKIさんのために選んだ一冊とは/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』
さまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う一冊を処方していくこちらの連載。新年一発目! そして、記念すべき30回目のゲストは、アーティストのYUUKI(ユウキ)さん。音楽や洋服、アートの制作に奮闘する彼女に、影響を受けるエッセンスや悩みの吐き出し方などを伺いました。
今回のゲストは、アーティストのYUUKIさん。
ガールズバンド「CHAI(チャイ)」で、ベースや作詞、アートワークを担当。昨年の春からは、洋服や陶芸作品を展開するプロジェクト『YMYM(ワイエムワイエム)』をスタートさせるなど、今は、“つくること” に夢中。私が思うに、世界でいちばん、タメ口が心地いい女の子です♡
まずは、去年発足した『YMYM』のお話から。
木村綾子(以下、木村)「ユウキちゃんとは、私がまだ〈本屋B&B〉にいた頃、漫画家のマキヒロチさんが『いつかティファニーで朝食を』の最終巻を出されたときにトークショーでご一緒したことがあるんだよね。あのときは、マキさんとCHAIでコラボグッズも作っていたよね!」
YUUKI「そう! マキさんには「CHAIの理想の朝食」をテーマにメンバー4人のイラストを描いてもらって、「相思相愛アイテム」として売っていたの。トークショーの後、みんなで焼き肉も食べに行って、楽しい女子会だったねー!」
木村「夜通しおしゃべりしていられるくらいだったよね! あのときのワイワイも楽しかったけど、今日は腰を据えて、ユウキちゃん自身のことをいっぱい聞かせてください」
YUUKI「もちろん、何でも聞いて!」
木村「今の活動のメインはもちろんCHAIだと思うんだけど、絵を描いたり、お洋服を作ったりもしてるんだよね? それはどんな形でやっているの?」
YUUKI「もともとは、好きなときに絵を書いたりものを作ったり、気ままにSNSに上げたりしてたんだけどね。それを見た人から「ブランドとかやってみたら?」って言ってもらえるようになって、「やるならこんなお手伝いができるよ!」って仲間になってくれる人が増えてきて…。それで去年の4月に、『YMYM(ワイエムワイエム)』っていう名前をつけて正式にブランド化したの」
木村「立ち上げからして、ユウキちゃんのお人柄がにじみ出てるエピソードだ! 『YMYM』には、どんな意味が込められてるの?」
YUUKI「実はね、ブランドの名前に意味ってつけてないの。YとMは私の名前の頭文字ではあるんだけど、なんだか、意味をつけちゃうと、できる範囲が狭まっちゃうような気がして」
木村「「意味はあなたが自由に決めてね」ってこと?!」
YUUKI「そう、フリーダム! 受け取る側にも、「このブランドは私にとってこんな存在」みたいに、好き好きに感じてほしいんだよね。ひとりひとり解釈が違えば、その数だけ私も楽しめるなって思ったの。作る私と、受け取る人とのイメージがごちゃまぜになったものを、また私が受け取って循環して…っていう流れが気持ちいいなって」
木村「CHAIでは、「NEOカワイイ」や「コンプレックスはアートなり」っていう明確なコンセプトを掲げて、その世界観を言葉と音楽で表現しているじゃない? 一人の人間が同時進行で全く違ったコンセプトの表現活動をしてるってのも、すごく面白い!」
YUUKI「あ、そうかも! CHAIがあるから、『YMYM』はこういう形でやろうって思ったのかもしれない。何を作っていくかってことさえ、実ははっきり決めてないの。そのとき興味のあるものを、どんな形で表現しようかなってことから考えていく場所にしたいなって」
木村「ユウキちゃんの頭の中がそのまま具現化されていくのね」
YUUKI「そうだね。私、どうやら興味の幅が人より広いみたいで、何かひとつを突き詰めるより、いろんなことを一斉に考えていく方が合ってるタイプみたいなんだ。今は、生活のすべてが創作につながっていく感じがして、毎日がすごく楽しいよ」
エピソードその1「何かを作っている人が好きみたい」
木村「ユウキちゃんは、歌詞を書くとき、絵を描くとき、陶芸を作るとき、何かインスパイアされるものってあるの?」
YUUKI「うーん、そうだなぁ…。たとえば歌詞だったら、言葉は生活のいろんなところから耳に入ってくるじゃない? 本もそうだけど、町の看板もそうだし、誰かが口にした言葉もそうだし。だから、フィーリングだけど、いいなと思ったものは、できるだけ全部メモして。海外に行ったときは海外の言葉で。 いろんなところから持ってきたものを広げてごちゃまぜにして組み合わせていく感じかな」
木村「CHAIの歌の、耳に楽しい言葉並びはそういう所以があったのね。」
YUUKI「他には、Instagramもよくチェックしているよ。いろんな国や文化や価値基準のもとで生きてる人の感性って面白いんだよね。私からしたら「え!」って驚くようなことが、その人にとっては日常だったりして。それがタイムラインにわーって並ぶのも、脳が揺れる感じで楽しくて。素人玄人関わらず、ものを作ってる人をインスタで探すのがすっごく楽しいよ!」
処方した本は…『アウトサイドで生きている(櫛野展正)』
木村「この本は、アウトサイダー・キュレーターとして活動されている櫛野展正さんが、日本各地からアウトサイダー・アーティストを発掘して、そのアートと、アーティストの人となりを紹介している一冊なんだけどね。百聞は一見にしかず。まずは見てみてください」
YUUKI「表紙からしてインパクトがすごいね。…わぁ、すご!何これ!!カブトムシだけで兜を作ってる!!(笑)」」
木村「「昆虫メモリアル」の稲村米治さんね! 2017年に97歳で永眠してしまったんだけど、畢生の大作として、20万匹の昆虫の死骸を使って180cmの昆虫千手観音像を完成させた方でもあるよ」
YUUKI「凄まじいね。作らずにはいられなかったんだろうってことが伝わってくるよ」
木村「そこなんだよね。武装ラブライバーも、仮面だらけの謎の館も、河川敷の草刈りアートも、ガムの包み紙の裏に描かれた絵も…、ここに紹介されてる18のアートは、いわゆる美術の「正史」には残らないし、他人には無意味に見えることかもしれない。でも、その人が生きるためには必要な表現活動なんだってことが、これでもかと伝わってくるんだよね」
YUUKI「こういうのを見ちゃうとさ、アートって執念だなってつくづく思うよ。あと、見せるために作ってない感があるじゃない?人を意識してないっていうかさ」
木村「世間とか評価とかお金とかからは切り離された世界だよね。信じるままに作る、生きる強さ。「いいね!」の数にとらわれない生き方」
YUUKI「それだ!あとは、Instagramだと、作品は見れても、作り手の声ってなかなか聞けないじゃない? 私は、どんな人がどんな作品を作ってるかも含めて初めてインスピレーションになるから、アートと人とがセットで紹介されてるこの本からは、いろんな刺激をもらえる気がするよ」
エピソードその2「相談の仕方が分からない」
木村「突然変なこと聞くけど、ユウキちゃんって、失敗したり嫌なことがあったらどうなるの?」
YUUKI「え、急にどうしたの!?(笑)」
木村「だってほら、絶対に暗い顔を見せない印象だから。むしろ、泣いてる人でも「あれ、気づいたら笑ってる…」ってなるくらい、人を元気にさせる力のある方だよね」
YUUKI「わ、そう言ってもらえるの、めちゃくちゃ嬉しい。でも落ち込むことはもちろんあって、そうなるとね、すごーく、暗いよ!」
木村「すごーく、暗いんだ(笑)」
YUUKI「どこまでも”落ちる”から、何もしていなくても涙が出ちゃう!でもその姿は絶対に人には見せないって決めてるの。一人で、底の底まで落ちてって、底に足が付いたら、「ぴょーん!」って飛ぶの(笑)」
木村「すごい回復法…(笑)。悩みごとも人に相談しないで、完全に自分で解決しちゃうタイプ?」
YUUKI「昔から相談って苦手でね。相談って、どうやってしたらいいの!? 人からの相談はよく乗ったりするんだけど、自分だと全然できないんだよね」
処方した本は…『ひとまず上出来(ジェーン・スー)』
木村「”相談下手”なユウキちゃんには、タイトルから背中を押してもらえそうな2冊を紹介しようと思います。まず1冊目は、ジェーン・スーさんの最新エッセイ集『ひとまず上出来』!」
YUUKI「ジェーン・スーさんって、ラジオパーソナリティーもやっている方だよね? えっと、Podcastの…」
木村「『OVER THE SUN』ね!」
YUUKI「そうそう、「ご自愛ください」「オ〜バ〜!」ってやつ、私、あれ、めちゃくちゃ好きなんだ!」
木村「スーさんといえば、人生相談のプロ。TBSラジオでは8年近くも、毎週リスナーからのお悩み相談に乗っているんだけど、相手に寄り添うような真摯な姿勢で言葉を選んで語りかける姿が素晴らしくてね。他人の悩みなのに、自分まで、心の交通整理をしてもらってる気持ちになるんだよね」
YUUKI「わかるわかる。あの心地よさってどこから来るんだろうね」
木村「この本には、スーさん自身の生活と、そこにある小さなモヤモヤやイライラやヤレヤレが書かれてあるの。大きな事件や大失敗、人生の転機…そういうことは起こらないけど、連綿と続いていく生活ってこういうことだよねって、しみじみと了解させられるというか」
YUUKI「帯の「明けない夜はないはずだ」とかもいいね。なんか、背伸びしない感じが伝わってくる」
木村「CHAIが「コンプレックスはアートなり」なら、スーさんは「コンプレックスはエネルギーなり」って感じなんだよね。いくつになっても変わらない性格も、加齢とともに変わっていく価値観や体型も、いまの自分にちょうどよく馴染ませたらこっちのもんだ!って。…あ、あとね、ラジオファンなら、巻末の“推しエッセイ”も必読だよ」
YUUKI「あの、決して誰かを明かしてはくれない推しのことが書かれてるの!?それも楽しみ!!」
処方した本は…『猫は、うれしかったことしか覚えていない(石黒由紀子)』
木村「2冊目は、愛猫との生活を綴ったエッセイ集。『猫は、うれしかったことしか覚えていない』っていうタイトルで、各章のタイトルも「猫は、〜〜〜」と一貫して猫の生態を捉えていて面白いよ」
YUUKI「〈猫は、自分で癒す〉〈猫は、好きをおさえない〉〈猫は、当たり前に忘れる〉…。こう見てると、私にも猫的な部分と、猫に学びたい部分の両方があるのがわかるよ」
木村「綴られるのはもちろん猫のことなんだけど、ふとした一文に、人間を省みてしまうんだよね。〈猫は余計な力みが抜けています。めげないし、落ち込まない。そして前向きに明るくあきらめるのです〉とか」
YUUKI「わ〜、猫になりたい…!」
木村「なんかさ、ユウキちゃんと猫って相性良さそうだよね! 一人家で落ち込んでるユウキちゃんの膝の上に、猫が気まぐれに乗ってくる絵が、いま私の頭の中に浮かんだ」
YUUKI「あ、なんかすごくいいねそれ! 新たに必要なパートナーは猫なのかもしれない!(笑)」
木村「「CHAIやYMYMで活躍するユウキのクリエイティブを支える存在は、猫だった!」的な(笑)。まずはエッセイを読んで、猫との相性を確かめてみてください(笑)」
対談を終えて。
対談後、3冊すべてを購入してくれたYUUKIさん。「自分に合う本を紹介してもらうのは初めてで、めちゃくちゃ嬉しかった!本からのインプットでまた新しい何かが生まれそう。たのしみっ!」と話してくれました。そして、彼女のブランド『YMYM』が、〈代官山 蔦屋書店〉でポップアップを開催中。1月23日(日)までだから、みんな急げ~!