すぐにでも始めてほしい「産後の骨盤ケア」|レディースクリニックなみなみに学ぶ 女性のヘルスケア#2 HEALTH 2024.04.24

生理や妊娠・出産、更年期、閉経など、さまざまな変化の波が訪れる女性の身体。ライフステージによって悩みも変わっていくなかで、どのように身体と向き合っていけばいいのでしょうか?
この連載では、女性の体調・人生におけるさまざまな波(なみ)を理解し寄り添うことで、すべての世代の女性のかかりつけ医を目指すレディースクリニックなみなみの叶谷愛弓院長が、女性が気をつけるべきことや身体をいたわるヒントを解説。第2回となる今回のテーマは「産後の骨盤ケア」です。

INDEX

「交通事故にも匹敵する」と言われるほどの、出産のダメージ

―出産によって、骨盤にはどのようなダメージがあるのでしょうか?

叶谷:分娩はとにかくすごい力でいきみますし、頭が10cmほどある約3kgの赤ちゃ んが狭い産道から出てくるわけですから、骨盤まわりの筋肉や靭帯が損傷してしまうんです。骨盤まわりには、膀胱、子宮、腸を支えるハンモック状の筋肉があるのですが、分娩時にそのハンモックが伸び、膀胱、子宮、腸がハンモックの外にでてしまう骨盤臓器脱が起こる可能性があります。それによって膀胱の傾きも変化して、 ちょっとしたくしゃみで尿が漏れてしまうことも。ひどくなると、尿がまったく我慢できなくて全部出てしまうという症状もあるので、十分に骨盤ケアをすることが必要なんです。

レディースクリニックなみなみ 叶谷愛弓

―産後のダメージは交通事故にも匹敵するとよく言われますよね。

叶谷:まさにそれくらいのダメージがあるんです。近年は無痛分娩を選ぶ方が増えま したが、無痛分娩は骨盤に対するダメージがより大きくなるんですよ。無痛分娩は普通分娩よりも分娩時間が長くなる傾向にあり、特に分娩第二期といって赤ちゃんが出る直前の時間が長くなることが多いです。
ちょうど赤ちゃんの頭が骨盤にはまっているところが膀胱の裏あたりになるのですが、 ここでの滞在時間が長くなると骨盤へのダメージをきたし、産後の排尿トラブルは必発と言えます。さらに、無痛分娩は吸引や鉗子による器械分娩が増えるため、このような器械分娩では直接的に骨盤周りの筋肉や靭帯が損傷されてしまうんですよ。

産後ダメージの回復を早めるには「膣トレ」が大事

―筋肉や靭帯の損傷、尿漏れなどの症状は、自然に治るものではないのでしょうか?

叶谷:しばらくすればある程度回復してくるので、みんながみんな産後のトラブルで 長期間悩み続けるということはないと思います。ただ、出産回数によっても骨盤へのダメージは蓄積しますし、そもそも出産だけでなく年齢によっても筋肉は緩んできますから、産後のダメージを引きずったまま年齢を重ねると、尿漏れがひどくなったり子宮脱になったり、ダメージがより重くなっていくことが考えられます。なので早期のケアが必要です。

―具体的にどのようなケアをしたらいいのでしょうか?

叶谷:妊娠中から骨盤底筋体操、いわゆる「腟膣トレ」を行うことで、産後の回復が早くなると言われています。妊娠中にできなかった方は産後早期に取り入れることをおすすめします。腟膣に挿入する腟膣トレ用のツールもありますが、座っている時や電車に乗っている時など、気がついた時に腟膣をきゅっと締めることから始めてみてください。短期に劇的に変化を感じられるものではないので習慣化するのが非常に大切です。

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―骨盤底筋体操で改善が見られない場合はどうしたらいいのでしょう?

叶谷:インティマレーザーなどの治療が効果的です。インティマレーザーは、レーザーを当てて腟内の粘膜のコラーゲンを増やす治療です。腟膣内がふっくらして引き締まるので、尿道の角度を正したり、腟の緩みを改善したりすることができます。ただ、骨盤臓器脱があまりにひどくなると、ペッサリーというリング状の器具を腟内に挿入して物理的に臓器を押さえたり、手術しなくては治らないの可能性が出てきたりもします。

―そうならないためにはやはり日常的な骨盤底筋体操が大切なのでしょうか?

叶谷:そうですね。インティマレーザーなどの治療を受けても、やはり加齢によって筋肉は衰えていくので、どんな方も骨盤底筋体操は継続してほしいです。体操はトレーニングと同じで早期に結果が出るものではないので、レーザーなどの治療との組み合わせが一番効果的だと言われています。
いずれにしても早期介入が大切なので、子宮が下がってくるような不快感、腟の緩
み、尿漏れ、お湯漏れにお悩みの方はかかりつけの産婦人科医に相談してみてください。

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産後ケアをサポートしてくれる機関やサービスに甘えましょう

―産後ケアでお悩みの方にメッセージをお願いします。

叶谷:繰り返しになりますが、妊娠中から骨盤底筋体操をしていきましょう。まだ若い方は現時点で困り事はないかもしれませんが、無痛分娩が一般的になってきた今、年齢を重ねてからトラブルが表出してくる可能性もあります。しかも、今は寿命も伸びてきていますから、産後のダメージをきっかけとしたトラブルに悩まされる期間も長くなるでしょう。

「いよいよ治療しないと大変だ」となる前に、やれることがあるんだと知っていただけたらと思います。また、産後は自分のケアがいちばん後回しになりがちですが、今はいろんな方法で産後ケアをサポートしてくれる団体や、行政が提供する産後ケアのサービスがたくさんあります。出産する病院の助産師さんに相談すると教えてくれるので、そういったサービスやツールを活用しながら、心身を回復させていってほしいです。産婦人科もそういった意味で利用していただければと思います。

text_Aiko Iijima(sou) photo_Mikako Kozai

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