「正しいピルの選び方」教えてください。|レディースクリニックなみなみに学ぶ女性のヘルスケア#1 HEALTH 2024.04.23

生理や妊娠・出産、更年期、閉経など、さまざまな変化の波が訪れる女性の身体。ライフステージによって悩みも変わっていくなかで、どのように身体と向き合っていけばいいのでしょうか?
この連載では、女性の体調・人生におけるさまざまな波(なみ)を理解し寄り添うことで、すべての世代の女性のかかりつけ医を目指すレディースクリニックなみなみの叶谷愛弓院長が、女性が気をつけるべきことや身体をいたわるヒントを解説。第1回となる今回のテーマは「正しいピルの選び方」です。

INDEX

「もっと手前で駆け込める場所があったらいいのになと思い、このクリニックを開院しました」

―今年1月に開院したばかりのレディースクリニックなみなみですが、叶谷先生はど のような思いでクリニックを開院されたのでしょうか?

叶谷:私はもともと東京大学の医局に所属し、大学病院などで高度医療を提供してい たのですが、医師として10年以上働いてきたなかで、まわりに結婚、出産、子育て をしていく姉妹、友人たちが増え、妊活や妊娠中の体調についての相談を受けること も増えていきました。特に私の妹は男の子3人の母親ですごく大変そうだなと思っていて。
仕事や子育てなどを優先して、自分の身体を後回しにすることで、体調を崩して病院にいらっしゃるような方も多くいます。そんな方々を見ているうちに、もっと手前で 駆け込める場所があったらいいのにと思い、このクリニックを開院しました。クリニックには病気じゃないけれどみんなが苦しむトラブルの相談に来てくれる方もいたり、家族ぐるみで診察にいらっしゃる患者さんもいたりして、生活に密着した診療をしています。

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ピルの自費と保険適用、どちらが自分に合っているのか?

―今回のテーマである「ピル」も、避妊や生理にまつわる女性特有の悩みを解決する手立てとして生活に密着しているものです。オンラインでの処方も一般的になり、気軽にピルを入手できる時代になりましたが、そもそもピルとはどのようなものなのでしょうか?

叶谷:女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)を組み合わせた薬で、女性ホルモンの分泌をコントロールしてくれるもので、1日1錠ずつ毎日同じ時間に服用します。避妊だけでなく、生理不順や生理痛、PMS(月経前症候群)の改善に使われます。
「ピル」と一口にいっても様々な種類が存在するんですよ。生理痛やPMSを改善するのに向いているもの、性欲が向上するもの、ホルモンバランスの揺らぎからくるニキビ、肌荒れに効くものなど、患者さんが困っている主訴や治療対象疾患によって使用するピルの種類は異なります。目的によって、保険適用になるのか自費になるのかも変わってきます。

―保険適用になる場合と自費になる場合には、どのような差があるのでしょうか?

叶谷:基本的に避妊目的のピルは自費となります。月経困難症などのトラブル(腹痛、頭痛、嘔吐、気分変調などの症状)があれば保険適用になるのですが、このあたりの理解が乏しいまま、ピルがほしいという理由だけで医療機関やオンライン診療を受診すると本当は保険適用となるのに、しっかり診療されずに自費のピルを処方されてしまうことがあるんです。
今、オンライン診療でのピルの処方が台頭していきていて、たとえば1年分のピルを まとめて購入する、という人も少なくありません。ただ、そういった場合はだいたい自費となり保険適用よりコストがかかります。自費のピルは1シート2000円くらいが相場ですが、保険適用でいちばん安いものだと500円くらいなんですよ。

―金額にもかなり差があるんですね。

叶谷:そうなんです。便利さを買うという意味で、オンラインで自費のピルを一括購入するのはありだと思います。でも、まとめてピルを購入すると病院に行く機会が少なくなるので、途中で何かトラブルがあった時に困ることも。ちょっと出血した時などの対応がわからず、結局近くの婦人科にかかるという人もいます。月経困難症でお悩みであれば保険適用のピルが処方されるはずですから、コストも低く済みます。それをわかったうえで、どちらが自分に合っているのか選ぶのがべきだと思います。

レディースクリニックなみなみ 外観
院内の待合室には素敵なインテリアが並ぶ
院内の待合室には素敵なインテリアが並ぶ

「ピルに興味があるということだけで相談いただいてまったく問題ないです」

―ピルのなかにも様々な種類があるということですが、ドクターたちはどのように処方するピルを選んでいるのですか?

叶谷:私たちは、患者さんの症状や疾患はもちろん、社会的な背景や生活環境、経済状況も鑑みて適切なピルを選択しています。生理の問題だけではなく、ニキビでも悩んでいる場合には男性ホルモンを抑える効果があるピルを選択します。ピルの選択は病状だけでなく、経済状況やライフスタイルも考えて処方する場合もあります。たとえば10〜20代前半くらいの患者さんでお金にそこまで余裕がない場合は、継続できるようにまずは安いピルから始めることを提案する場合もあるんです。

―オンライン診療と対面診療、使い方がやや難しいなって感じる時もないですか?

オンライン診療は便利を買うという意味でありだと言いましたが、クリニックに来てもらうメリットはどんなピルが合っているのかも含めてプロである産婦人科医師にきめこまやかに相談できるところです。あまり効果がないかもと思いながら同じピルを飲み続けている人も少なくないので、今飲んでいるピルを続けるのがいいのか、変えることを提案するのかということも見極めています。とはいえオンライン診療も便利なので、レディースクリニックなみなみでは対面診療とオンラインの組み合わせをお勧めしています。困った時、ついでに検査などもできますしね。

―ピルについて自分で調べてみると、種類が多くて何から始めたらいいのかわからないという人も多いんじゃないかなと思います。

叶谷:そうですよね。ネットにある情報が正しいのか誤っているのかを判断するリテ ラシーも必要ですが、まずは具体的に自分が何に困っているのかを知ることが大切です。そのうえで少しでも困っていることがあるのであればピルをおすすめしたいですし、自分にピルが必要かどうかわからない人は、まずは産婦人科医に相談してもらえればと思います。
正直、ピルが保険適用にならない人っていないんじゃないかと思うくらい月経困難症の方は多いものなのですよ。痛み止めを飲むほどじゃないけれどなんだかお腹が 痛いな、いつもと違って嫌な感じがするなとか、その程度でもピルを使うことで生活がぐっと楽になるはずです。そのうえでやっぱりピルを飲みたくないなと思ったらやめればいいですしね。

レディースクリニックなみなみ 叶谷愛弓

―ピルをやめようと思う人は、副作用に悩む人が多いんでしょうか?

叶谷:ピルを飲まないという方には大きく2通りのパターンがあると思っています。
一つは、そもそも薬を飲むのが怖いから飲みたくないという人。もう一つは、飲んでみたけど合わないという人です。
ピルは、場合によって気持ち悪くなるという副作用があって、飲み続けていくとその気持ち悪さもなくなっていくのですが、そこまで耐えられなかったり、どのピルを飲んでも合わないという方もいらっしゃったりします。あとは、毎日同じ時間に飲むものなので、続けること自体が難しくてやめてしまう人も。逆に、効果を実感すればリピートする方がとても多く、「生理が楽になる」というモチベーションで飲み続ける方が多いですね。

―ずばり、叶谷先生が考える「正しいピルの選び方」とは?

叶谷:まずは、症状はもちろん、保険適用なのか自費なのかを含め、自分にあったものを探すことです。繰り返しになりますが、避妊目的以外であればほとんどが保険適用になることを、まず知ってほしいです。
ピルに興味があるということだけで相談いただいてまったく問題ないですし、医師に相談することで、女性の身体の悩みについて「私だけじゃないんだ」「この症状はある程度仕方ないもので、生理的な反応なんだ」と知ることができると思うんですよね。 実際に、知ることですごく楽な表情になって帰っていく患者さんも多くいらっしゃいます。私自身、もっと身近に患者さんと会話できる医療をしていきたいという思いで 開業したので、婦人科はとりあえず相談できる場所、逃げ込める場所なんだよということも知ってもらえたらと思います。

text_Aiko Iijima(sou) photo_Mikako Kozai

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