娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 【出張篇】料理家・冷水希三子さん宅へ出張!焼酎のような強めの口当たり「卯酒 月見うさぎ」~『伊藤家の晩酌』第二十七夜2本目~
弱冠24歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入!酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは?今回も伊藤家を飛び出し、出張篇を全3回でお届け。料理家の冷水希三子さんのお宅にお邪魔し、ワインに合う洋風な料理を作っていただきました。第二十七夜の2本目は、スッキリとした飲み口強めの福島のお酒。
「フェンネルとイカとオレンジのサラダ」に合わせるのは「卯酒 月見うさぎ」。
ひいな「…ちょっといいですか?」
テツヤ「どうしたの?」
ひいな「このサラダに、この日本酒は合わないかもしれない…(笑)」
テツヤ&冷水「(笑)」
テツヤ「いいじゃない、いいじゃない。そういう回があってもいいじゃない」
ひいな「このお酒はね、すっごくおいしかったの。大天狗酒造っていう、福島県の蔵に行っていろいろ飲み比べさせていただいて、フェンネルと合うと思って選んだの。だけど、完全にオレンジとイカの存在を忘れてて…」
テツヤ「そうかそうか。酸味がね」
ひいな「柑橘と合うかな?っていうのがすごく不安です…」
冷水「飲もう!」
テツヤ「合わなかったら合わなかったで」
ひいな「でもね、お酒としてはおいしいんだよ?ほんとにおいしいの。でも…」
テツヤ「そういう予感って当たっちゃうんだよな」
ひいな「うん。割と当たっちゃう。もともと、この蔵がキリっとサラッとしたお酒を造る蔵で、その中でもこのお酒は割と香りがあるほうなんですよ」
冷水「香りをかいだ感じだと、合わなくはないと思うけど。香りは(笑)」
ひいな「では、おつぎいたします」
テツヤ「小さいおちょこだね」
ひいな「この大きさがちょうどいい感じ」
テツヤ「なるほど。強めってこと?」
ひいな「そう。ゴクゴク飲むお酒ではないっていうか」
冷水「そういうことね」
ひいな「少しずつ楽しむお酒かな」
一同「いただきます!」
冷水「おぅ。結構どっしり」
テツヤ「なるほどね。小さいおちょこの意味がわかった」
冷水「なるほどね。合わないね(笑)」
テツヤ「さっそく(笑)。なんか焼酎っぽくない?」
冷水「かぼすと焼酎は合うよ?」
テツヤ「福島のお酒なんだよな?泡盛じゃないけど、そんなイメージがあるぞ」
ひいな「言い訳をしていい?フェンネルって香りがあるでしょう?」
テツヤ「うん。でもこの根っこは、そこまで香り強くないもんな」
ひいな「フェンネルの香りに乗っかるお酒をイメージしたの。もうちょっと合うと思ったんだけどな〜」
テツヤ「合わせるとちょっと苦く感じるかも」
ひいな「合わなくはないけど、すごくう合うわけじゃない」
テツヤ「いつもバッチリ合うお酒が多いからね。こういう組み合わせもあっていいと思うよ」
冷水「うん、いいと思うよ」
テツヤ「このお酒に何が合うのか冷ちゃんに教えてもらおうよ」
冷水「むずかしいなぁ(笑)」
ひいな「蔵はソーセージときのことシチューとチーズに合うっておっしゃってて」
テツヤ「ということはフリカッセのほうが合うんじゃない?日本酒としては俺すごい好きだけどな」
冷水「うん」
ひいな「おいしいよね」
テツヤ「甘くないし、すっきりしてるから食事に合うよ。余韻がいいね、このお酒」
ひいな「冷水さんにフリカッセのきのこと合わせて飲んでみていただきたいです!」
冷水「(フリカッセのきのこを一口)う〜ん…」
テツヤ「素直な反応だね(笑)」
ひいな「フリカッセと合わせると渋みが出てきますね…」
冷水「それよりは、焼き魚とかのほうが合うかもね」
ひいな「焼き魚!それは蔵も目からうろこだと思います」
冷水「もしかしたら、次に紹介するサバの方が合うかも」
ひいな「なるほど!じゃ、お酒少し残しときましょうか」
テツヤ「うんうん。そうしよう」
冷水「合わないわけじゃないんだけどね」
ひいな「蔵のおすすめするソーセージとの組み合わせってどんな感じなんだろう」
冷水「確かにこのお酒なら、ソーセージのパンチと塩味と脂に負けないのかも」
ひいな「結構、強いですよね、お酒の印象」
冷水「うん。でも、強いけどキレるから残らないというか」
テツヤ「そうそう。するっと消えるよね」
冷水「あ!お寿司とかいいかも」
ひいな「お寿司!」
冷水「炙ったお寿司!」
テツヤ「あぁ〜!」
冷水「のどぐろとか」
テツヤ「脂と炙りの香ばしさだね」
冷水「イカを炙ればよかったかね。茹でずに」
テツヤ「それでサラダにするの?」
冷水「そう。このサラダ、イカを炙ったバージョンと茹でるバージョン両方作るの」
テツヤ「そりゃいいね。この企画のおもしろさはこういうところだよね」
冷水「何が出てくるかわからないもんね」
テツヤ「ひいなも勉強になったね」
ひいな「一歩成長するために」
テツヤ「こうやって教えてもらうのが一番いいからね。いやぁ、このフェンネルの根っこ、おいしいね。こうやって食べるんだね」
冷水「イタリアンレストランに行くと前菜とかでよく出てくるよ」
テツヤ「初めて食べたよ!」
小さな蔵の20代の女性杜氏が造った日本酒を応援したい!
ひいな「杜氏さんはね、小針さんっていう女性の方なんだけど、2018年に福島県の清酒アカデミーを卒業したばっかりで」
テツヤ「え、ついこないだじゃん」
ひいな「そう。杜氏として活動しはじめたのは最近なの」
テツヤ「お若い方なの?」
ひいな「うん。同年代だと思う」
冷水「ひいなちゃんの同年代!」
テツヤ「いいね、いいね。あれ?飲み始めより、今のほうがサラダに合う気がするぞ」
ひいな「温度が上がってきたからかな」
テツヤ「日本酒ってさ、飲む温度によって印象変わるもんね。福島のどのあたりの蔵なの?」
ひいな「郡山から電車で5〜6駅くらい」
テツヤ「海側?山側?それによって魚に合うか肉に合うか違いがありそうだよね(ライター注:ちょうど福島県中部、中通りに位置します)」
ひいな「♫栄冠は君に輝く〜の歌を歌ってる、誰でしたっけ?」
冷水「何それ何それ」
テツヤ「高校野球の歌(ライター注:全国高等学校野球大会の歌)」
ひいな「その方の出身地(ライター注:伊藤久男さんが本宮市出身です)」
テツヤ「それで覚えてるんだ(笑)」
ひいな「本町駅にその方の銅像があってボタンを押すとその曲が流れるの。大天狗酒造は日本の中で駅から一番近い蔵って言われてて。本当に駅から徒歩1分半で着きました。明治初期には倉庫業をやっていたそうで、その蔵を掃除したら2つの天狗のお面が出てきたから大天狗酒造っていう名前なんだって」
テツヤ「縁起がいいねぇ」
ひいな「名前と同じで、力強い味わいのお酒を醸したいっていうのが蔵のモットーなんだって」
冷水「合ってるね」
テツヤ「コンセプト通り」
ひいな「すごく小規模なお酒造りをしていて、本当に倉庫を改築したみたいなところで造ってて」
ひいな「写真見て。ほら、こんなにタンクが小さいの」
冷水「わ、小さいね」
ひいな「バケツで水を運んだり、麹室もこんな小さくて」
冷水「わぁ」
ひいな「ラベルも手貼り。小さい蔵だからすべて手作業」
テツヤ「そうか、大切に飲まなきゃな」
ひいな「ね」
テツヤ「さっき飲んだ時より、いまのほうがだんだんおいしくなってきたよ」
冷水「温度が上がって苦味が抜けてきた?」
テツヤ「うん。常温に戻した方がいいんじゃない?」
ひいな「お米は、県が独自に開発した福島産『夢の香』っていう酒造好適米を使っていて、『うつくしま夢酵母』っていう県が開発した酵母を使ってるから、完全に県に密着したお酒なの。ラベルも印象的でしょ」
冷水「イラストなんだね。メルヘン」
テツヤ「うさぎだから卯酒なんだな」
ひいな「ビオンディ・チョッパーさんっていう有名なイラストレーターさんが描いた絵なんだって。うさぎの『卯』に酒で『うさけ』って読むんだけど、卯酒シリーズの秋バージョンがこの『月見うさぎ』。春は花見うさぎ、夏は夏空うさぎ、冬は雪うさぎがある」
冷水「なるほど」
ひいな「四季で楽しんでほしいっていうお酒かな」
テツヤ「味も変わるのかな?」
ひいな「造りが違うんじゃないかな。これは一回火入れのひやおろしだと思う。ちょっと熟成感もあるし、口開けてすぐでも尖ってない感じがするというか」
テツヤ「このお酒はどんなつまみにも合うっていうお酒ではないのかもね」
冷水「確かに」
テツヤ「お酒の味を楽しみながらちびちび飲むっていうかさ」
ひいな「燗酒もいいらしいよ」
冷水「燗、合うかもね」
テツヤ「少し肌寒くなってきたし、燗酒にしながらちびちびやりたいね」
ひいな「いいね。秋にぴったり」
■冷水希三子
ひやみず・きみこ/奈良県生まれ。レストランやカフェ勤務を経て、フードコーディネーターとして独立。旬の食材を生かした料理が人気。現在は料理にまつわるコーディネート、スタイリング、レシピ製作を中心に書籍、雑誌、広告など活躍の場を広げる。公式HPはこちら
【ひいなのつぶやき】
のどぐろのお寿司やソーセージと、この「卯酒」を合わせてみたい!フェンネルのサラダと相性の良い温度帯を探すのも今後の課題です!!
★ひいなインスタグラムでも日本酒情報を発信中
photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita