真正面フレンチなカレー皿に盛られるこれぞ大阪、トゥーマッチの美学。 FOOD 2023.08.07

大阪の「トゥーマッチ(やりすぎ)の精神」を端的に表すのが、大阪スパイスカレー。ここは下町・粉浜、自由律カレーの世界で最濃の自己表現をする人がいる。

〈 Mカッセ 〉のエビ150%カレー[ 東粉浜 ]

たこ焼き・お好み焼きに続く、大阪のソウルフードが「スパイスカレー」。けれどそれは事象であって定義みたいなものはなく、ノールールだからこそ「わけわからん」のおもしろさが生まれるわけで。カレーの三文字からは予想できないワンプレートの小宇宙、その最前線をゆくのがここ、〈Мカッセ〉だと思う。

だって、カレーで〝フレンチしちゃってる〟のだから。それもフレンチ風ではなく真正面からフレンチに挑んでいる。

「カレーを作っているというより、フレンチにスパイスを多めに入れている感覚です」。飄々と語るのはフレンチ出身の吐山勇輝さん。店名はフランス修業時代の愛称で、Мがムッシュ、カッセが「壊す」の意。破壊屋と呼ばれた人である。

ワタリガニのブイヤベースや牛肉のブルギニョンなどの郷土料理、あるいはクラシックなソースを、魔法使いみたいに続々カレー化。寸胴いっぱいの甘エビのアタマで作る濃厚ビスクスープをカレーに転換した、この日の「エビ150%カレー」は、店主の狙いどころとしては「エビの実物を超えるエビ感のあるカレー」って、もはや時空が歪んでしまっている。

フレンチと銀河衝突したワンダーカレーがさらにおもしろいのは、大阪スタイルの出汁カレーの進化版であるところ。フレンチも料理の土台は出汁にあり、長時間煮出して極限まで旨みを抽出するフレンチ式フォンのディープエキスが、出汁カレーの限界突破。米ひと粒ひと粒に旨みが絡みつく濃度感、そのとろみのなかで、ディルやフェンネルなどの爽味ハーブが華やぐ…という香りの演出も、これフレンチの伝家の宝刀、です。

そして大阪のカレー屋店主は、皿に少しでも余白があることが許せない、みたいな病をわずらっているのか、どの店も副菜の量と質が過熱化しているのだけど、ここの盛りは異常。なんと約14品もの副菜を添え、そのメンツも、豚のリエットに鯛のブランダード、キャロットラペなど、フレンチの王道料理を配陣…って、トゥーマッチ精神ここに極まれり?

でもやっぱり「笑売」なんかじゃない。

「フレンチを食べる人が少なくなってるから、カレーならフレンチを気軽に知ってもらえるかなって。しかもここは下町なので、おじいちゃんおばあちゃんにも新しい食の体験をしてもらいたい。フルコースぐらいのつもりで出してます」

人情とおせっかい。めっちゃ大阪のカレーやなぁ、と思うのです。

photo : Mami Nakashima text & edit : Ayaka Hirota

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