食事放談 はるかの部屋 Theme#14
よりどりみどりな東京うどん事情。 FOOD 2023.06.03

たびたびブームになる讃岐うどんをはじめ、東京にはご当地うどんが続々と進出。うどんをこよなく愛する二人が、いま注目するシーンとは?

うどんを待つ間にお酒を飲むような、ゆっくりと楽しめるお店もいいですね。

「1日3食を妥協なく選びたい」という食のライター・小石原はるかさんがゲストを迎えて語り合う本連載。今回はうどん愛好家の井上こんさんと、東京のうどんシーンについてトークを繰り広げる。

小石原はるか(以下、小石原):井上さんはご自身でもお店を開かれたほどのうどんラヴァーですが、お店はこれまでどれくらい回ってらっしゃるんですか?

井上こん(以下、井上):東京は260軒、全国では1000軒くらいですね。まだ全然少ないです。

小石原:それで少ないなんて!「少ない」の基準とは……(笑)。そもそも、なぜうどん好きになったんですか?

井上:幼少期、ご褒美に連れて行ってもらうのは〈杵屋〉だったほど、子供の頃から好きでした。もっと贅沢なものを選びそうなもので、親には不思議がられていたと思いますが。その後、うどんを打ち始めたのが23歳くらい。当時は東京の讃岐うどんの店を知りませんでした。

小石原:なんと、そんなに前から自分で打っていたんですね!それは好きだからこそ?

井上:はい。スーパーで売っているような小麦で作る程度でしたが、案外形になるものだなと感動して。ライターとして働き始めてからは、趣味としてうどん店を食べ歩くようになりました。

小石原:そしてうどん専門のライターさんになられたと。〈杵屋〉がお好きで福岡生まれでいらっしゃるから、やっぱり関西風が好みですか?

井上:そうですね。酸味があるようなだしを吸う系が好きです。

小石原:私も何を隠そう大のうどん好き。母が関西出身で、家のうどんは関西風でした。だからだしを吸う系、好物です。

井上:いいですよね。いま関西では圧力鍋を使うお店がじわじわ増加中。表面を高温で茹で上げて、外と中のコントラストが強いもちもちとした麺になるんです。

小石原:そのスタイルは東京でも見たことがあるけど、まだまだ少なそうですね。

井上:どんどん新しいものを作るのは、大阪の気質なのかもしれません。

小石原:やっぱり商人精神でしょうか。

井上:元々のパイの大きさがそうさせるのかな。挑戦しやすくなるというか。

小石原:同じくうどんの街である香川や福岡では起きない現象ですね。面白い。

井上:そういえば東京のご当地うどんって聞いたことないかも。

小石原:東京に住んでいる人の多くは東京出身者じゃないから、なのかな。その分いろんな地方のうどんが食べられますが、最近の傾向ってありますか?

井上:2018年くらいから、福岡の看板を掲げたお店が増えました。博多うどん居酒屋とか、筑後うどんのお店とか。

小石原:行列店の〈うどん 萬田次郎〉もそうですね。

井上:福岡にルーツがあるお店が本当に増えました。讃岐うどんに取って代わるわけではなく、選択肢が増えたなと。

小石原:〈資さんうどん〉もぜひ東京に来てほしいなあ……。

井上:福岡のうどん屋さんって、福岡言葉の女性が接客してくれて和みます。東京でも地元出身の方が働いてくれるとうれしいですね。

小石原:スタッフさんに着目すると、〈麺散〉は皆さんお若いけど、気持ちのいい接客。原宿にあるのも、また画期的です。

井上:かつ、おいしいんですよね。ここは讃岐うどんの名店がルーツですね。

キャットストリートに、そのおいしさで行列を作る店。
都内の有名店出身の職人が舵をとり、展開するのはかけうどんや釡玉うどんなど。ファッショナブルな内装に反して質実剛健なラインナップだ。打ちたて、切りたて、茹でたての本格うどんを求め、平日から大盛況。写真はちく玉天うどん800円、お酒のつまみになるトロタク1,000円。澄み切っただしは、いりこと昆布がベースの関西風。
キャットストリートに、そのおいしさで行列を作る店。
都内の有名店出身の職人が舵をとり、展開するのはかけうどんや釡玉うどんなど。ファッショナブルな内装に反して質実剛健なラインナップだ。打ちたて、切りたて、茹でたての本格うどんを求め、平日から大盛況。写真はちく玉天うどん800円、お酒のつまみになるトロタク1,000円。澄み切っただしは、いりこと昆布がベースの関西風。

小石原:讃岐といえば、〈うどん 丸香〉の地肩の強さには唸ります。

井上:並んだ甲斐があるおいしさで、不動の人気ですね。地方からうどん店主さんがいらっしゃる時に、あんまり知られていない名店をガイドしつつ、やっぱり〈うどん 丸香〉に頼ってしまいます。

小石原:先ほど話に出たうどん居酒屋のように、〝うどん前〟を楽しんでゆっくり過ごせるお店も増えたように思います。

井上:うどんが専門店レベルでおいしくて、それ以外の食事メニューも楽しめるお店ですね。〝そば前〟ほどではなくても、うどんを待つ間に天ぷらをつまみつつビールを飲む、みたいな。

小石原:井上さんおすすめのお店は?

井上:誰かをお連れするなら〈根津 釡竹〉。デートや記念日のごはんにもぴったりの雰囲気です。

小石原:素敵ですよね。うどん店で落ち着いた構えのお店って貴重です。

地域や師匠のルーツに縛られないフリースタイルのお店が増えているかも。

井上:蒲田にある〈うどん屋大作〉も好きです。ここは、香川の名店〈池上製麺所〉で修業した〈じょんならん〉の弟子。でも、系譜を守るというよりはオリジナルの麺を作り出しています。讃岐とか博多とかルーツにそこまで縛られず、自由で独創的なうどんを作るお店が増えているような気がします。

出来たての良さをとことん味わう唯一無二のうどん。
店主の江口大作さんが独自開発した麺は、外が柔らかく中は硬いエッジのたった姿。この見た目も食感も、出来たてから5分も経てば変化するため、出されたら即食べ始めて。そそり立つエビのほか鶏、トマト、餅などの天ぷらがのった「TOKYOエッジうどん」1,000円(ランチは800円)、しば漬けポテト300円
出来たての良さをとことん味わう唯一無二のうどん。
店主の江口大作さんが独自開発した麺は、外が柔らかく中は硬いエッジのたった姿。この見た目も食感も、出来たてから5分も経てば変化するため、出されたら即食べ始めて。そそり立つエビのほか鶏、トマト、餅などの天ぷらがのった「TOKYOエッジうどん」1,000円(ランチは800円)、しば漬けポテト300円

小石原:ほかに伊勢、宮崎、名古屋……と、東京でも探せば各地のうどんがありますね。次に注目しているのはどこ!?

井上:マイナーチェーンで応援したいのが、山口の〈どんどん〉。柔らかめで食べやすくて、だしなじみのいい感じ。

小石原:「だしなじみ」。しっくりきました!ああ、好きなタイプを言語化してくれた感じ。井上さんのお店は、さらに深めて小麦ごとの味わいが知れるという。

井上:あまりお客さんに頭でっかちになってほしいわけではないのですが、うちで出した小麦粉を旅先で見つけてメッセージをくれたりして、伝わってきているなぁと思います。

小石原:そこまで品種を意識している人は、どれだけいるのか?私は「さぬきの夢2009」という小麦が出てきた頃、初めて考えるようになりました。

井上:うどん粉っていう言葉が広まっていたから、あまり品種に目が行かなかったのかもしれませんね。

小石原:おっと、だいぶマニアックな話になってきました。場所を移して、井上さんのお店で続きを語りたいです!

photo : Kaori Ouchi text : Kahoko Nishimura

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