とんかつの概念を覆す口溶け!南阿佐ヶ谷〈成蔵〉の三谷成藏さん|星子莉奈のMeet the Chef FOOD 2023.04.18

レストランのプロデューサーやディレクション、PR、ライターとして活躍する星子莉奈さんが、気になる店のシェフをクローズアップする短期連載。第5回は、南阿佐ヶ谷にあるとんかつ〈成蔵(なりくら)〉の三谷成藏さんの登場です。

〈成蔵〉の三谷成藏さんにインタビュー

とんかつの概念を覆す口溶け!南阿佐ヶ谷〈成蔵〉の三谷成藏さん|星子莉奈のMeet the Chef

みなさん、こんにちは。この原稿を執筆している日は、WBCで日本が優勝した翌日。おめでとう&ありがとうの気持ちで胸いっぱいになり、日本人らしくしっかり余韻に浸り、夜おそくまでハイライトを見返して幸せな寝不足であります。侍ジャパンのみなさま、本当にお疲れ様でした!

さて、今回は南阿佐ヶ谷にあるとんかつ〈成蔵〉の三谷成藏シェフに会いに行ってきました。

南阿佐ヶ谷駅から徒歩6分、閑静な住宅街に佇む。
南阿佐ヶ谷駅から徒歩6分、閑静な住宅街に佇む。

2019年に高田馬場から南阿佐ヶ谷に移転。高田馬場店の最終営業日には、朝7時から300人の行列を作ったという、とんかつ史に残る仰天エピソードを持つ名店です。それほどまでに人々を惹きつけてやまないのが、成蔵の代名詞である「白いとんかつ」。粉雪のように口の中でスッと消えていく白い衣は、それまでのとんかつに対する概念を覆すほどのインパクトでした。
本日は、この白いとんかつが生み出されるまでの歩みを、三谷シェフと振り返っていきたいと思います。

豚肉は岩手県産高級銘柄豚の岩中豚を使用。旨味のあるジューシーな脂が特徴。
豚肉は岩手県産高級銘柄豚の岩中豚を使用。旨味のあるジューシーな脂が特徴。

大学卒業後は百貨店に就職したという三谷シェフ。しかし、組織に所属して働くよりもスキルを身につけて独立する方が性に合っていると感じ、退職を決意。
お父様に相談したところ、新橋で叔父が営んでいる〈燕楽〉というとんかつ屋で働いてみては、と勧められたそう。実際にお店へ行ってとんかつを食べてみると、想像以上のおいしさで、すぐに弟子入りを決めたと言います。
こうして、とんかつの世界に飛び込んだ三谷シェフでしたが、はじめは出前しか任せてもらえず、3年目になってようやくお肉のカットや揚げ場を担当させてもらえるようになったんだとか。

パン粉が上手くつけられず、夜な夜なタオルを使って自主練されていたんだとか。
パン粉が上手くつけられず、夜な夜なタオルを使って自主練されていたんだとか。

揚げ場を一人前に担当できるようになってから丸6年働いた後、独立を目指して退職。
しかしながら、物件の不都合で独立が延期になってしまい、とんかつ屋の大手〈和光〉や新橋の和食屋〈新ばし 久〉で修行することに。
「〈新ばし 久〉では元々興味を持っていた揚げ物を学ばせてもらいました。高田馬場で自店を構えることになってからはその経験を活かし、昼はとんかつ屋、夜は串揚げ屋のスタイルで営業をスタートしたんです」。
念願叶って自分のお店を開店させたものの、はじめの2年間は思うように集客出来ず、苦悶の日々が続いたと言います。

挫折しそうになった時も、奥様が背中を押し続けてくれたという心温まるエピソードも伺いました。
挫折しそうになった時も、奥様が背中を押し続けてくれたという心温まるエピソードも伺いました。

「昼はとんかつ、夜は串揚げを何十本も用意しても、お客様はいらっしゃらないので、ひたすら自分で食べるという苦い日々を送っていました」と、苦笑する三谷シェフ。
「毎日ひまで時間があったので、“どうしたら1番おいしいとんかつを作れるか”をずっと研究していました。油の温度や揚げ時間を変えて、試行錯誤を繰り返した結果、低温でじっくり揚げるという今のスタイルに辿り着きました」。

油は一般的な背脂ではなく内臓のラードを使用。融点が高く冷めにくいのだそう。
油は一般的な背脂ではなく内臓のラードを使用。融点が高く冷めにくいのだそう。

「それから、開店時は薄いとんかつしかやっていなかったのですが、先輩が来てくれた際に『厚いものを出してみたら?』とアドバイスをいただいたので、100gと120gだけだったのを150gと200gも用意してみたんです。すると、お客様が想像以上に喜んでくれて、客足も順調に伸び始めて」と、苦労の末にお店が軌道に乗り始めた頃の思い出をうれしそうに語ってくれました。
成果が目に見えてきた頃、白いとんかつのキーマンであるパン粉も特注のものに変更。“焦げを防ぎたいので糖度を抑え、口の中に残らないよう淡い霜のように仕上げて欲しい!“という三谷シェフのリクエストに応えた特注のパン粉、本当に見事です。

パッと口の中で消えて、その後にお肉の旨味がジュワッと飛び込んでくるという、最高の流れを演出しています!
料理をする上で、三谷シェフが1番大切にされていることはなんですか?という私の質問に、「お客様の大切な1回のお食事を任せてもらっているという気持ちを忘れないことです。僕たちは1日にたくさんのお客様に料理をご提供していますが、毎回1分の1の気持ちで向き合っています」と迷いなく答える三谷シェフ。
確かに、インタビュー中の調理姿からも、随所にその一期一会の精神を感じる瞬間がありました。

お客様の口に入るもの全て、細部までこだわり尽くす三谷シェフ。
お客様の口に入るもの全て、細部までこだわり尽くす三谷シェフ。

例えば、澄んだように美しい油は昼と夜で必ず変えるといった“最高の状態で料理提供を約束するための三谷ルール”がいくつも存在しているように見受けられました。それから、一つ一つの所作がとても丁寧で、全ての行動に想いが宿っているように感じられたのも印象的。
最後に、今後の展望についても伺うと、「実は今、高田馬場店の跡地に“おいしく食べて健康的に痩せる定食屋“のオープンを控えています」と、意気揚々と答えてくださいました。ご自身もトレーニングに打ち込み、3カ月で10kgの減量、体脂肪もマイナス10%を達成した経験があり、体づくりに携わる仕事に興味が沸いたんだとか。

調理風景を間近で拝める特等席のカウンターでパチリ。
調理風景を間近で拝める特等席のカウンターでパチリ。

「ダイエットに適した食事のバランスは、タンパク4・脂質2・炭水化物4の割合なんです。今回、お店で提供するメニューはこの黄金比に則って構成しました」。
店名もこの黄金比「4:2:4」(ヨンタイニータイヨン)と名付けたそう。おいしいご飯で健やかに満たされるなんて嬉しすぎて泣けます…!夏に向けて体づくりに励みたいと密かに企んでいる方は、ぜひ足を運んでみて下さいね。

ため息が出るほど美しいとんかつと睨めっこ、幸せの極みです。
ため息が出るほど美しいとんかつと睨めっこ、幸せの極みです。

初めて白いとんかつと対面したあの日、私はそのビジュアルと脳を停止させる旨さに衝撃を覚えました。日常に寄り添うとんかつも素敵だけど、ご褒美に食すとんかつはもっと素敵。私のハレの日とんかつは永遠に〈成蔵〉で決まり。三谷シェフ、ありがとうございました。

〈成蔵〉

■東京都杉並区成田東4-33-9
■03-6882-5214
■10:30~20:40(土日祝〜21:10)
■不定休(休業日はTwitterでご確認ください)
 ※完全予約制。予約はこちら

photo:Miyu Yasuda

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