冷やされ忘れたマヨネーズ#09 ひとりとみんな|小原 晩エッセイ
#09 ひとりとみんな
あまり慣れていないひととごはんを食べるときや、大勢のひとがいるところでごはんを食べるとき、どうしてだろう。食べた気がしない。
手をふり、別れて、電車にのって、じぶんの街まで帰ると、「なにか食べよう」と思ってしまう。なにか食べて、いったん落ちつこう。
それはたいてい遅い時間だったりするので、お店は牛丼屋さんくらいしかあいていない。牛丼屋さんにふらふら入ることもままあるけれど、そういう気分でない日は、二十四時間やっているスーパーマーケットまで行ったり、コンビニエンスストアを渡り歩いたりする。
ひとりで食べるごはんは、食べている、という感じがすごくする。気兼ねないのだ。味がする。味がしすぎるために、あまりおいしくないと、ひゅーんと悲しくなってしまう。そういう危険性はある。しかし、どちらにせよ、ひとりのときの心に戻れるというのは、すばらしいと思う。とりもどす、みたいな。
そうはいっても、みんなで食べるとおいしいね、というのの意味がわからないわけじゃない。ひとと食べるおいしさというものもある。たしかにある。とくに、おいしそうに食べるひととか、「おいしい」と声に出すひとと食べるごはんは、なんかありがとうって感じがする。気づいたら、いつものごはんが、いつもよりおいしい、みたいな。
なにが言いたいのかというと、みんなで食べたあとに、ひとりで食べると、食べ過ぎなのでやめたい。
台所の電気だけつけて、カップラーメンをすすっているわたし。わざわざカレーの材料を買ってきて、いちからつくりはじめるわたし。すき家のおろしぽん酢牛丼で、牛肉のしっかり感も大根おろしのさっぱり感も欲しがるわたし。今日はアイスだけ、と思って、前に買っといて食べなかったアイスを食べたあとに、なんかおなかすいてきちゃったな、と古いパスタを茹ではじめるわたし。暗い部屋で冷凍の担々麺がくるくる回る電子レンジのオレンジ色のひかりに顔面を照らされるわたし。
「もうおなかいっぱいだ~」などと言って、満足そうにおなかをさすっているわたし。「あ、はい! ありがとうございます! いっぱい食べてます!」などと早口で言っているわたし。「ううん、あんまり今日はおなかすいてないんです。胃がちいさくなっちゃったのかな」などと言ってみているわたし。
みんなといるときはいるときで、おなかがいっぱいっちゃあ、いっぱいなのである、すこしむりをしてひとりで食べているときさえ、あるのである。もしかして、しあわせになりたいのかな。満たされたいって、しあわせになりたいってことなのかな。

おばら・ばん 1996年、東京都生まれ。作家。2022年に自費出版でエッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(のちに商業出版)を刊行。その他の著書に『これが生活なのかしらん』。
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