「音楽では消化しきれない事柄を書き残す日々。」ミュージシャン・小袋成彬

「音楽では消化しきれない事柄を書き残す日々。」ミュージシャン・小袋成彬
Interview「もっと知りたい、あの人のこと」
「音楽では消化しきれない事柄を書き残す日々。」ミュージシャン・小袋成彬
CULTURE 2025.04.09

ロンドンに居を移してからの暮らしを記録したエッセイを上梓した、小袋成彬さん。世の中の出来事を咀嚼し、自分の言葉で残す作業を続けたからこそ見えてきたこととは。


photo_Yuka Uesawa / text_Marie Takada

profile
小袋成彬
小袋成彬
ミュージシャン

おぶくろ・なりあき/1991年生まれ、埼玉県出身。立教大学卒業後、音楽レーベル会社のTOKAを創業。国内外のアーティストのプロデュースを行う傍ら、自らもアーティストとして2018年に「Lonely One(feat.宇多田ヒカル)」でメジャーデビュー。1月にアルバム『Zatto』を発表し、全国5都市を回るツアーを行う。

「音楽では消化しきれない事柄を書き残す日々。」

 ロンドンでの生活を綴った、初の著書『消息』。コロナや戦争などで世界が揺れ動く中、異国の地で暮らす小袋さんにも変化があったのだろうか。

「様々なバックボーンを持つ友人を持てたこと。これが一番大きな変化かな。友人が増えたことによって、育った環境によって人は考えが異なる場合があること、そして違ったとしてもコミュニケーションをとり続けることの重要さ、みたいなものをより深く体感できるようになりましたし。ラテン系とラッパーの、ノリの違いも知れました。知ったうえで自分も出来るかどうかは別ですけど、他人を理解するグラデーションが鮮やかになった気がします。あと、ロンドンでは自分らしくいることが生存戦略の一つ。自分の考えを持たないと埋もれていってしまうので、自分という存在をより明確に意識するようになりました。日本ではその感覚を抑えこんでいたのかもしれません」

 波乱の渦だけでなく、暮らしの中で起きた小さなことにも目を向け、言葉を結ぶ。

「スマホにどんなこともメモするようにしているから、2300個くらいメモが溜まってます。それをエッセイとして書き直していくのは癒しに近いかもしれません。部屋を片付けると心がすっきりしてくる、みたいなノリです。音楽で消化できなかったことをこうやって文章に残しているので、自分の気持ちに沿った表現が出来るようになるのはうれしい。日本語はハイコンテクストな言語で、一方、英語は主語がはっきりしている。その二つの言語を行き来していると、言語表現がふくよかになっていく感覚がありますね」

記憶のなかの旅・食

「日本に帰ってくる度に、日本食の豊かさを実感します。先日、友人と銀座に寿司を食べに行って、芸術的なおいしさに感動しました。今回の帰国では、出身地の埼玉県で行ったことのないエリアに足を運んでいます。岩槻にある岩槻人形博物館、意外と面白かったです」

INFORMATION
『消息』
『消息』

単身ロンドンに移住してからの5年にわたる記憶を「コツコツと書き続けた」エッセイ集。コロナ禍によるロックダウン、Black Lives Matterや繰り返される戦争など、SNSから距離を置き、世界の大きなうねりを見つめながら綴った自己との対話。1,980円(新潮社)。

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