食を愉しむの場所には、対話を生む音楽ジャズが合う。
幡ヶ谷の喫茶とアペリティフ【Cyôdo】| ある日、あの店のプレイリスト#11

CULTURE 2024.04.30

雰囲気の良い、おいしいお店には、心地のよい音楽も流れている気がする。"食のある場所"の、ある日のミュージックプレイリストをおすそわけしてもらった。
第11回目は幡ヶ谷駅の【Cyôdo】へ。

Spotifyのプレイリストを流し始めれば、あっという間にあの店気分に。ひと休みのお供に。

「ワインが飲める」「ステーキが食べたくなる」食欲をも掻き立てる音楽を探し求めて

2022年3月に代々木八幡から幡ヶ谷に移転した「Cyôdo(チョウド)」は、コーヒーを味わう喫茶としても、お酒とおつまみでアペリティフタイムを愉しむ場所としても、知っているとちょっと気が利くお店。幼い頃から両親の都合で様々なヨーロッパを移り歩いた経験もあるという店主・山口さんがつくるお店の世界観は、どこかヨーロッパ的。さらにはコンクールに出場するほど、クラシックピアノ一筋だった過去を持つ彼女が自身の店を始めてより一層好きになったというジャズのプレイリストをお届けします。

お店外観
お店外観

「いまお店では、このプレイリストの曲の流れでかけるのが結構好きなんです。もちろん、その日来ているお客さんの層やお天気なんかで変えたりもするのですが、例えば土曜日の夕方、夕食にはまだちょっと早いけど、アペリティフで一杯楽しんでいるような大人の方が多い時、そのいい雰囲気をキャッチしてこれを流します。基本は、1940年代ー1950年代のジャズプレイヤーの盤を流すことが多いです。パーカッションが派手に響くようなものよりはベースが心地よい曲を選びます。お店のスピーカーも低音がしっかり目に出るように調整していて、ベースの安心感のあるリッチな心地よさの中で食事や会話ができるように考えています。

気軽に立ち寄れるカウンター席
気軽に立ち寄れるカウンター席

実は昔、クラシックピアノを本格的に習っていました。お店でもクラシックを流したいと思って選曲してみたりもするのですが、やはりクラシック音楽って"集中して聴く音楽”の側面が強くて。ドラマチックで緊張感のある空気になりすぎてしまうので、反対に共演者やお客さんとの対話でどんどん変化していくジャズナンバーが会話や食事を助長する音楽としては最適だと思っています。私自身がほとんどクラシック音楽しか聴いてこなかったので、現代的な音楽に馴染みきれないこともジャズを選ぶ理由の一つでもあるのですが、名盤と呼ばれるようなジャズがかかっているお店が最近では珍しいとうちに来てくださるお客様もいらっしゃって思いがけない出会いがあることも。最近だとニューヨークから日本のジャズ喫茶の研究に来たというお客さんが、日本滞在中頻繁に通ってくださいました。お店も人と人の対話がある場所だからジャズが合う気がします。

あかりは最小限に
あかりは最小限に
インスピレーションを与えてくれる料理本など
インスピレーションを与えてくれる料理本など

あとは『この曲でワインが飲める』みたいな音楽ってあるんですよね。その曲がかかるだけで『なんだかステーキが食べたくなってきたかも』と思わせるような、店の景色、空気の色も変わるような音楽。そういうものを日々探し求めています。最近好きでよく流しているのは、エチオピアのジャズピアニストEmahoy tsege Mariam gebru。ドビュッシーの音楽のようなクラシックに近い雰囲気も持ちながら、柔らかく適度な緊張感のある曲たちが新鮮で。実はパリでも、音楽好きのレストランなんかでは彼女の曲がよくかかっているらしいですよ。

最近買い替えたというSANSUIのオーディオプレイヤー。(右ポスター上)クラシックホテルにあるような佇まいが魅力。近所に住む音響設備マニアのフランス人のおじさまがオススメしてくれたんだそう
最近買い替えたというSANSUIのオーディオプレイヤー。(右ポスター上)クラシックホテルにあるような佇まいが魅力。近所に住む音響設備マニアのフランス人のおじさまがオススメしてくれたんだそう

最近は、ニューヨークから来たお客さんにいくつかおすすめのジャズ喫茶を教えてもらってよく足を運ぶようになりました。ジャズバーは海外にもあるけど、ジャズ喫茶という概念が日本ならではで面白いんだと彼が話していて、確かになと。この前は四谷のいーぐるに行きました。そこではみんな、PCをいじるわけでもなく、その場で過ごす時間や音楽、目に見えないものを目的にして過ごす様子に心ときめきました。うちのお店も、何屋さんですかと聞かれるといつも答えるのが難しいのですが、その場で過ごす空気感や会話、物質的ではない贅沢さを感じられる空間、そこから生まれる文化みたいなものを大切にしたいお店です。元々芸術家を目指した端くれとして、フランスのカフェでアーティストが議論したり思案したり、憩う様に憧れてきました。そういう場所としてのカフェを日本で作っていきたいと思っているんです。

昼時のちょい呑みにも良い、自家製パテドカンパーニュとこの時期おすすめなex Albaの白ワイン。フルーティーで爽やかな飲み口は夕方のアペリティフにも
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”お店のエスプリを理解する”ということも、お客様とお店がどちらも居心地よく過ごすために大切なことだと思っています。老舗ホテルのドレスコードなんかもそうですが、そのお店が大切にしているものを大事にするからこそ、かっこいいお店になり品格が守られ文化として続いていく。ただ、全てのお客様に同じ気持ちでお店に来ていただくことは難しい。そんな時に音楽の力を借ります。少し緊張感のある音楽を流してみたり、逆に風通しの良い雰囲気を作るために思わず体を揺らしたくなるようなリズムのある音楽を流してみたり。音楽が変われば店の空気がガラッと変わりますから、お客さんの振る舞いも変わることがあります。Cyôdoの空間を感じて、音楽を浴びて、こういう場所ならいつもとは違うように振る舞ってみようかなとか、ジャズに合う上品さで振る舞うことってかっこいい!と思ってくれたら嬉しいです」

IMG_8830

Cyôdoはその名の通り、気軽に”ちょうど”よく使えるお店であることは間違いない。そして同時に、センス良く素敵な空間特有の、あのほんの少しの緊張感が全くないわけでもない。ただ、そのちょっとした緊張感を、遠ざけたり無視するのではなく、これこそエレガンス?と味方にするような気持ちで食事をいただくこと、そうすれば座った場所から見える景色もうつくしく変わるに違いない。背伸びしすぎることはないけれど、まずはその空間を受け入れ、味わうこと。それも人生の栄養となっていくはず。

illustration_Yoshiya Gen text,edit_Nakazato Wakaba

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