一度みたら、けして忘れられない。ハロウィーンにぴったり?まるで悪夢なアニメーション6選
アニメーション作家・ひらのりょう選 CULTURE 2023.10.27

もうまもなく、ハロウィーンが近づいている今日この頃。
特になにも予定がないという方も、今年はいつもとは違う、アニメーションに浸る一夜を過ごすのはいかが...?奇妙で不気味、でも時に愛らしい登場人物たちが、あなたを待ち構えているはず。

今回は、アニメーション作家のひらのりょうさんに、ひと癖も二癖もあるとっておきの作品たちを教えてもらいました。

アニメーションは言語化未満の”景色”が詰まった宝箱。

学生時代に、igor kovalyovの『Milch』という奇妙なアニメーション作品に出会ってから、その魅力に取り憑かれ、自分でも短編をつくるようになりました。
アニメーションの魅力について改めて考えてみると、作家の頭の中を直接覗き観ているような、言語化未満の”景色”みたいなものが体感できることではないかなと思います。

その景色はけして綺麗で楽しいものばかりではなく、不気味でおどろおどろしかったり、理解不能なものがたくさんあります。そして、その理解不能で恐ろしいもののなかに、自分が今まで感じたことがない感覚や驚きが宝箱のように詰まっているのです。

ここで紹介する不気味なアニメーションにも、未知なる”景色”がきっとたくさん隠れていますよ。

1.『オオカミの家』クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ


現在も劇場で上映中。詳細はこちら。

とにかく今すぐ劇場へ駆け込んでください!と大声で推したい『オオカミの家』
家を丸ごと素材として、コマ撮りの手法を使って制作された壮大すぎる長編アニメーション作品。

まるで、画面の隅から隅まで命が宿ったようにすべてのものが轟いていて、恐怖そのものが映像全体に塗り込まれている感覚に。
そして画面がこちら側まで触手を伸ばしてくるような、そんな没入感があるのです。それもそのはず。本作はほとんど全編を通してワンカット長回しのように作られており、まるで恐怖のライドアトラクション!ライドアトラクションの恐ろしいところは、逃げ場がないことです。鑑賞者は、主人公と同じように、逃げ場を奪われジワジワと追い詰められていきます

マスキングテープや絵の具や、なんだかわからない素材が虫のように蠢きながら人物をベタベタと象っていく様を観ながら(音だってとにかくすごい!)アニメーションの素晴らしさに驚異を感じます。

物語は、歴史的な事実をもとにしており、その骨太さも本作の魅力です。前提知識を持って作品に臨むもよし、何も知らない状態でとにかく巻き込まれてみるのも楽しい。パンフレットもとてもよくできているので、ぜひ手に入れて作品への理解を深めてほしいです!なにより映画館という環境で、この作品の魅力にまるごと呑み込まれてほしい!!!

『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
現在、全国順次公開中 配給:ザジフィルムズ
『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
現在、全国順次公開中 配給:ザジフィルムズ

2.『マッドゴッド』フィル・ティペット


アマゾンプライムU-NEXTにて配信中。

『スター・ウォーズ』『ロボコップ2』でお馴染み、特殊効果の神フィル・ティペットが手がけたオリジナル監督作品。数々の大作映画に関わってきたフィル・ティペットという人物の本質の部分ってこんなにもドロドロしているのか!と驚くほどの闇深さがそこにはあります。

監督が30年以上の時間を費やして制作したという本作。僕自身は2017年頃にこのプロジェクトについて偶然知り、ビジュアルと世界観のカッコよさ(弐瓶勉さんの『BLAME!』や林田球さんの『ドロヘドロ』が好きな人には刺さること間違いなし!)に魅了され完成をずっと楽しみしていた作品でした。

狂気の地下世界を旅する本作。不気味で不思議な世界の仕組みについて思いを馳せたり、愛すべき推しキャラをみつけたり(とにかくみんな奇妙でかわいい!)全編通してなんだかよくは分からないけど、楽しめるところだらけの84分地獄めぐりです!!!

3.『幾多の北』山村浩二


現在上映・配信サービスなし。今後に期待!

日本を代表するアニメーション作家である山村浩二監督による初の長編作品です。
この作品を見た夜は、なんだかとてつもないものを観たというショックをうけて眠れなくなってしまったのでした。さっきみた映画が、脳みそに張り付いてしまって離れない!そんな大変貴重な映像体験ができること間違いなし。

寂しい”北”で出会った人々の記録が、断片的な記憶として描かれる本作。いままでどこでも観たことのない奇妙かつ幻想的な風景や人々、世界そのものが次々と描かれているのに、だんだんと自分自身の原風景のようなものが引きずり出されていく……。そんな不思議な魔力を持った長編作品となっています。

月刊「文學界」(文藝春秋)の表紙として描かれたドローイングと短いテキストをもとに制作されており、美しいアートブックも発売されています。そちらも本当に魅力的なので是非手に入れてほしい!芸術性の奥底に蠢く、静かな不気味さと”わからなさ”に身を委ねたとき、心地よさが全身を駆け巡ります。この感覚!ぜひとも”体感”していただきたい!そして、未知なるノスタルジアの旅は鑑賞後もずっと続くことでしょう!

4.『Ugly』Nikita Diakur & Redbear Easterman


Vimeoにて無料配信中。

路上の醜い猫が主人公である『Ugly』。一見して分かる通り、荒いコンピューターグラフィック的なビジュアルと美しい色彩で構成されている、一風変わった短編アニメーション作品です。本作のキャラクター達はコンピュータ上で操り人形のようにシミュレーションされており、予測不能で奇妙でたどたどしさとかわいらしさと革新さを備えた動きをみせてくれます。どこをとってもこんな映像みたことない!という驚きで溢れる短編作品となっているのです。

奇妙で不気味な世界の片隅に追いやられた醜い猫の物語は、ある人物との出会いによって世界そのものを書き換えてしまいます。この演出がまた素晴らしく、たった12分弱で鑑賞者の世界を丸ごと変えてしまう。そんな映像体験をさせてくれるのがこの『Ugly』の凄みなのです。騙されたと思ってぜひ鑑賞していただきたい!

醜い猫ちゃんや、わるふざけの消防士などキャラクターがちょっとおバカで可愛いので気に入ったら何度も何度も繰り返し観てほしい!!

5.『家をめぐる3つの物語』エマ・ドゥ・スワーフ マーク・ジェームズ・ロエルズ ニキ・リンドロス・バン・バー パロマ・バエザ他

Netflixによって制作されたストップモーション アニメーション アンソロジー作品です。同じ家を舞台に、異なる時代の3つの物語が描かれます。特におすすめしたいのが、1つめの作品『1.And heard within, a lie is spun (1.内側で聞こえて紡がれるウソ)』です。

監督であるEmma De Swaef と Marc James Roelsは、『Oh Willy…』(2012)という短編アニメーション作品によって世界中の映画祭で話題になったストップモーションアニメーション作家です。羊毛や布地の素材を駆使したまるまるとしたかわいいキャラクターと、細部にまでこだわった画面の美しさ、先の読めない物語、緻密な演出などが魅力に溢れる作家なのです。

本作でもエマとマークの持ち味であるユニークさと芸術性が存分に発揮されています。馬車が走る古い時代、奇妙な豪邸に住み着いた貧乏一家が豪邸に取り憑かれ、呑み込まれていく様をおどろおどろしく描いていきます。フェルト素材のおとぼけ顔の人物や、あたたかみのある背景と、恐ろしい物語とのギャップが作品の不気味さをさらに際立たせくれるのです。後半、豪邸に呑み込まれていく両親の姿の恐ろしくも可愛いこと!じわじわとした不気味さのなかに差し込まれるユーモア、このバランスが無性に癖になる!!

本作はアンソロジーなので、ぜひ他の2作も一緒に楽しんでほしいです。古くからあるストップモーションアニメーションという手法の最新版!ぜひこの不気味でかわいい作品を観て、アニメーションの魅力に取り憑かれていただきたい!

 

5.『アノマリサ』チャーリー・カウフマン


アマゾンプライムHuluGoogle Play、その他サービスにて配信中。

『マルコヴィッチの穴』『エターナルサンシャイン』『脳内ニューヨーク』などの摩訶不思議で深みのある作品を生みだしてきた、天才チャーリー・カウフマンが脚本・監督をつとめた長編アニメーション作品です。

精巧なパペットとミニチュアを用いたストップモーションアニメーション作品で、動きや画面のリアリティがとにかくすごい!すごすぎてもう不気味!鑑賞しはじめたら「なんでわざわざアニメーションでやろうとおもったんだ?」という疑問が浮かぶほどです。もちろん、そんな疑問は作中でしっかりと回収されます。さすがはチャーリー・カウフマン!この手法でしか表現できない感覚を見事に描いてくれます。実写と見間違うほど美しいアニメーションや映像美はこのためか!と感心してしまう仕組みもあり、すべてが計算された演出の巧みさは驚愕の一言。

本作には、暴れ回るモンスターやおばけなんかは出てきません。妻子をもち、社会的にも成功を収めてるはずの中年男性が、孤独に蝕まれ、人を欲するが為に何もかもが空回り。社会と孤独にじわじわと追い詰められていく嫌な切迫感、その他複雑な感情が懇切丁寧に描かれます。これを一コマ一コマ、少しずつ動かして撮影してるのだからおそろしい!!

昨年、『パンズラビリンス』や『ギレルモ・デル・トロのピノキオ』(こちらも超おすすめ!)のギレルモ・デル・トロ監督の発言「Animation is Film.(アニメーションは映画だ)」が話題になりました。世界的にはまだまだ”アニメーションというジャンルは子供むけのもの”という認識が強いみたいですが、本作はまさに大人による大人のためのアニメーション!
大人同士のなんともいえない気まずい会話とか、そこまで丁寧に描くの?!と驚いてしまう性交渉描写などなど、アニメーション映画で観たことないシーンの連続!!パペットのはずなのに実写なんかよりも生々しく、それ故に痛々しい。心の変なところに手が届く不思議な映像体験をお約束します。どうか間違っても小さなお子様に薦めないでください!(R15指定)

そして、日本語話者のみなさんがラストシーンをどう感じたのか、是非語り合いたい、『アノマリサ』。大人のための不気味で不思議な映画です。

text_Hirano Ryo edit_Nakazato Wakaba

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