コラムニスト・山崎まどかさんがセレクトする ナレーターに国務長官にドキュメンタリー映画作家!?
ロマンスとキャリアで揺れる、
ワーキングガールたちに出会うラブコメ映画5選。 CULTURE 2023.09.26

ロマンスとキャリア、それぞれの問題で揺れる若い女性を描いたロマンティック・コメディや、コメディ映画で、最近のヒロインたちはどんな職種に就いているのだろう。

ファッション雑誌の編集者などの華やかな仕事や、弁護士といったエリートの職とはまたちょっと違う、気になるワーキング・ガールたちが出てくる映画をコラムニストの山崎まどかさんがご紹介。

1.『私にだってなれる!夢のナレーター単願希望』
女性にナレーションは無理?!アメリカの声優事情。

ハスキーな声の女優、レイク・ベルが自ら脚本を手がけ、監督/主演を務めたこの映画の主人公キャロルの職業は声優。といっても、ナレーションやキャストの仕事は女性である彼女に回ってこない。日本とアメリカだと少し事情が違うようだ。レイク・ベルに言わせると、メジャーな映画の予告編に女性のナレーションが使われることは滅多にないそうだ。女性の声は信頼感やスケールに欠けると思われているらしい。軽やかなコメディだが、意外な職業の性差別的な面が浮かび上がってくる
仕方がないので、キャロルは女優に方言などのアクセントや喋り方を指導する仕事をしているが、それだと独り立ちするだけの収入も得られない。キャロルの父親サムは有名な声優だが、娘の実力を認めず、若い愛人と同居したい一心で彼女を実家から追い出してしまう。ところが、キャロルに思わぬチャンスがやって来る。
好きなことを仕事にしたいのに、なかなか芽が出ず、チャンスも得られないまま30代に突入してしまったヒロインの姿がリアルだ。それでも様々な人の方言や喋り方を学んで糧にしようと、レトロな小型テープレコーダーを持ち歩いては、人の声を録音しようとする彼女の努力にグッと来る

2.『レイトナイト 私の素敵なボス』
テレビ界に新たな風を巻き起こす!パワフルな女性放送作家たちの熱い姿。

人気司会者が深夜に自分の名前を冠した番組を持ち、ユーモアを交えながらゲストとお喋りするレイトナイト・ショーは、アメリカの深夜番組の定番だ。でも、こういった番組のホストは大抵男性で、番組の台本を書く脚本家チームも男性ライターばかりで成り立っている。この映画では、エマ・トンプソン演じる英国出身のコメディアンのキャサリンがレイトナイト・ショーの人気ホストとして登場する。その設定だけで新鮮だ
ところがキャサリンの脚本家チームも男性ばかり。批判を受けた彼女は多様性を求めてインド系の女性モリーを自分のチームに抜擢する。モリーを演じるミンディ・カーリングはこの映画のプロデューサーで脚本家でもある。人気シットコム「オフィス」の脚本家兼キャストとして雇われてデビューした彼女は、テレビの脚本家チームの実態や、男女不平等についてもよく分かっている。脚本家チームは最初、モリーの存在にいい顔をしない。でも、彼女はホストであるキャサリンへの愛情と尊敬、新しい視点を活かして、番組に新風を吹き込んでいく。
本作も「ター/Tar」と同じように、パワーを持った女性が問題を起こすが、過ちを犯した人間に優しいところにまた新しさを感じる

3.『きっと、それは愛じゃない』
ドキュメンタリー映像作家として、他人を見つめ自分自身を見つめる真摯なヒロイン。

ロマコメの主人公がドキュメンタリー映画作家なのは新鮮だ。リリー・ジェイムズ演じるゾーイはキャノンのデジタル一眼レフカメラと小さな三脚を携えて、フットワーク軽くロンドンからパキスタンの首都ラホールまで行く。隣に住む幼なじみ、カズのお見合い結婚の行方を記録するためだ。ゾーイの本来のテーマは福祉など真面目なものだが、それでは制作が難しいとプロデューサーに難色を示されて、多くの文化が共存する英国におけるお見合い結婚に関するドキュメンタリーというアイディアを思いついたのだ。
パキスタン系のカズの家族はみんな敬虔なイスラム教徒で、親が結婚相手を決めるのが普通だ。彼らは燃えるような恋愛からスタートするのではなく、好意から初めて愛を育てていく方がいいと主張する。ゾーイによるカップルのインタビュー映像は、ノーラ・エフロンの「恋人たちの予感」のオマージュになっていて、そこが面白い
自分の仕事を通して他人の結婚と家族の在り方を見て、ゾーイは自分の恋愛遍歴について想いを馳せる。彼女はこのドキュメンタリーを他人事ではなく、自分の物語としても撮っている。異文化と他人の結婚、そして仕事を通して自分を見つけていくのだ


日本では2023年12月15日(金)に公開予定。

4.『セットアップ: ウソつきは恋のはじまり』
尊敬する上司に振り回されながらも、スポーツライターとしてもがき成長する、逞しいヒロイン。

この映画でゾーイ・ドゥイッチが演じるハーパーはスポーツ・ニュースを扱うメディアの編集長のアシスタント。クリステン(ルーシー・リュー)の要求は厳しく、我がままで、ハーパーは振り回されている。「プラダを着た悪魔」を彷彿させる設定だ。
でも「プラダ〜」とこの映画の大きな違いは、ファッションに興味がなかったあの映画のアンディと違って、ハーパーが本当にスポーツ・ジャーナリストとしての上司を尊敬しているところ。ただ、あまりに人使いが荒いのに音を上げて、彼女は同じビルディングにあるベンチャー企業でやはり社長のアシスタントをしているチャーリー(グレン・パウエル)と結託し、お互いのボスをくっつけて、少し仕事から遠ざかってもらおうとあれこれと陰謀を巡らせるようになるのだ。
メインのプロットも面白いけど、この映画でグッとくるのはハーパーの仕事に関するエピソードの方だ。彼女は華やかなプロ選手ではなく、老人になってもスポーツを楽しむ人々の記事を書こうとする。その記事をクリステンに見てもらってからの場面がいい。ハーパーは顔を輝かせて、クリステンからもらった具体的なアドバイスを携帯のレコーダーに吹き込む。恋の成就だけがハッピーエンドではないのだ

5.『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
理解ある相棒と、理想に向かって突き進む国務長官のヒロイン。

高嶺の花に冴えない男性が恋をする。ロマンティック・コメディではよくあるプロットだ。この映画の場合、その“高嶺の花”はチアリーダーでもただの美人でもなく、アメリカの国務長官を務める女性。シャーリーズ・セロンが並外れた知性と才能、社交術を持つシャーロットを生き生きと演じている。一方、そんな彼女を好きになってしまうフレッドに扮するのはセス・ローゲン。彼女の幼なじみでもある彼は、失業中のジャーナリスト。偶然に再会したのをきっかけに、フレッドは大統領選に出馬する彼女のスピーチ原稿のライターとして雇われることになる。
英国の首相が官邸スタッフの女性と恋に落ちる「ラブ・アクチュアリー」から時代が変わった。ただ構図を男女逆転しただけではなく、フレッドがシャーロットの理解者であるところがいい。一度もいばらず、相手を押さえつけるような真似をしたりせず、徹底的に彼女をサポートする役割を買って出てくれる。政治の世界で忙しく生きる人にはこういうパートナーが必要で、それは男性でも女性でもいいのだ。そのスタンスがもっと理解されるようになれば、映画の中でも現実でも、ヒロインが輝く場所はもっと広がる。

illustration_Makoto Funatsu edit_Nakazato Wakaba

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