エンドロールはきらめいて-えいがをつくるひと-
Profession #6
ハリウッドで活躍するミュ―ジックエディタ―宮澤伸之介 CULTURE 2023.09.29

映画という非日常から日常へと戻るあわいの時間、エンドロ―ル。そこには馴染み深いものから未知のものまで、さまざまな肩書きが並んでいます。映画づくりに関わるたくさんのプロフェッショナルの中から、毎回、一人の映画人にインタビュ―するこのコ―ナ―。

第6回目のゲストは、この夏公開されたディズニ―&ピクサ―の新作『マイ・エレメント』にも参加した宮澤伸之介さん。宮澤さんのお仕事「ミュ―ジックエディタ―」や「スコアミキサ―」の詳しい作業内容や、ハリウッド作品を手がけるようになるまでの経緯、アメリカと日本の映画づくりの違いなどをうかがいました。

「ミュージックエディター」「スコアミキサー」ってどんな仕事?

――先日『マイ・エレメント』を拝見した際、大スクリーンの中に宮澤さんのお名前を見つけて興奮しました。エンドロールでは「music editor」とクレジットされていましたが、それがどんなお仕事なのか、改めてうかがってもよろしいでしょうか。

もちろんです。いま僕がメインでやっている仕事は二つあって、一つはスコアミキサー、もう一つがミュージックエディターという仕事です。スコアミキサーはもともとコンピューターで作曲された楽曲を生の楽器の音に差し替えたり、そのレコ―ディングに立ちあったり、レコ―ディングした音を綺麗に整音してあげたりする、言わばサウンドエンジニアとも呼べる仕事です。自分のキャリアは、このスコアミキサーからスタートしました。

ミュージックエディターは僕自身、6年前くらいから新しく携わるようになったお仕事で、映画の中の一つひとつのシーンに、どのような音楽をのせていくかを考える役割です。監督と作曲家さんの間に入って、アクションを魅力的にしたいのか、それともキャラクタ―の心情を表現したいのかなど、場面ごとの目的を整理していきます。

――取り扱う情報量が膨大になりそうですね……!

大作映画だと、全体の半分以上のシーンに音楽が鳴っていることもありますからね。加えて制作の過程では、映像に合わせて、一度完成した音楽を再編集しなければならないケースもあるんです。そうした時に、監督と作曲家さん両方の感情を損なわないように手を加えていくのも、ミュージックエディターの大切な仕事です


『マイ・エレメント』特報

アルバイト経験やプレイヤーとしての挫折を経て、映画音楽の道へ

――宮澤さんがハリウッドで活躍されるようになった経緯も気になります。

僕はもともと、東京でサックスプレイヤーをしながら、音楽制作会社のアルバイトをしていたんです。そんな時、ボストンのバークリー音楽大学の試験を受けてみたら、運よく合格することができて。もちろん入学することにしたのですが、その同級生たちが、まあすごい人ばかりで(笑)。例えば「グラミー賞」を受賞したジャズピアニストの上原ひろみさんとか。

――世界最高峰のレベルですね……!

「ここでやっていくのは無理だな」と思い、サックスプレイヤーとしては挫折しました。そこから、同じ大学の音楽制作・エンジニアリング学科に入ってみることにしたんです。結果的にそこで学んだオーディオエンジニアリングやアメリカの音楽制作に関する知識が、今も仕事に役立っています

――大学を卒業された後、すぐに映画の仕事に就かれたんですか?

いえ、はじめはNYでジャズのレコーディングに携わりたいと考えていました。ただ、NYでは仕事が見つけられなくて、結局LAの音楽スタジオで働き始めたんです。ここがたまたま映画音楽を多く手掛けているスタジオで、僕もバークリー時代に映画の仕事について少し勉強していたので、アシスタントから少しずつ経験を積んでいくことができました。

――スコアミキサーやミュージックエディターの経験を積んでいく上で、必須のスキルはあるのでしょうか?

どうですかねえ。時代の変化もあるので「絶対に役に立つ」とか「絶対にこうした方が良い」とは言えませんが……もしご本人に興味があれば、楽譜の勉強はしておいても良いかもしれません。

僕はもともとクラシックやジャズが好きで、なおかつ演奏者だったこともあり、楽譜を使って音楽を視覚的に理解することや、リズムやメロディーを生かす作業の感覚を、自然と身につけていたんです。結果的に、それが作曲家さんなどに重宝された部分はありましたね


宮澤さんがミュージックエディター兼スコアミキサーとして参加した映画『オットーという男』(2023年)予告編

――仕事で音や音楽と向き合うときに、意識されていることはありますか?

作品が伝えたいことをいかに自分がキャッチできるか、それをどうしたらサウンドに翻訳できるかということは常に意識しています。機材やスペックを考慮することはもちろん、演奏者や作曲家、楽曲の文化や歴史的背景などについても、音楽で表現できるように努めていますね。僕がその翻訳をうまくできればできるほど、観客の方々も作品の魅力を感じることができると思うので。

――鳴っている音によって感情が左右される部分は大いにありますもんね。

最近の映画館には最低でもスピーカーが6つ付いていて、音の体験自体が「聴く」から「感じる」に変化している部分もあると思うんです。そのくらいダイレクトにオーディエンスに影響を与える仕事だということを、いつも自分に言い聞かせています。

ハリウッドと日本の映画制作の違い

――宮澤さんはハリウッドだけでなく、日本、韓国、台湾などでも映画制作の現場に携わられていると思います。特にハリウッドと日本について、仕事上の違いを感じた部分はありましたか?

ハリウッドの仕事に強く感じるのは、まず「何をしたいか」があるということです。たまに「本当に実現できるのか」と目を疑うようなゴールが設定されていることもあるのですが、それでもなんとか技術やお金などの現実的な条件を近づけていく。一人のリーダーが目指すことを、そのほかのスタッフで一生懸命サポートしているような感覚です。新しいことが多く、テンプレートがない仕事も多いので、現場は毎回わちゃわちゃしていますけどね。

日本の場合は、すでに現実的な方法や規模感、目標が決まっていて、その中でいかにクリエイティブを発揮するかというアプローチが多いのかなと思います。あるボックスの中に、どれだけ綺麗に技術を詰めていけるか……どこかお弁当的なスタイルというか(笑)。

――親近感のわく例えをありがとうございます(笑)。

もちろん文化やメンタリティーのあり方も全く違うので、ハリウッドと日本のどちらかが優れているという話ではなく、それぞれに面白さや美しさがあるなと思いますね。


映画『SING/シング』(2016年)、『SING/シング:ネクストステージ』(2021年)の日本語吹き替え版では、宮澤さんがアメリカサイドの意見を取り入れながら音楽監修を担当した。プロデューサーの蔦谷好位置氏とも、夜な夜な話し合いを繰り返したのだとか。

――最後に、宮澤さんのように映画の仕事で国際的に活躍したいという方へ向けて、助言があれば教えていただけませんか。

自分の時代は、例えば映画音楽をやるならLAに行かなければならないとか、物理的な移動が必要な部分もあったと思うんです。でも今は時代が変わって、インターネットがあれば、日本からでも世界中の人々に向けて情報を発信できるようになった。ですからまずは、自分の好きなことを1つ、とことん磨いていくのがいいのかな、と。

自分も音楽を始めた時は、まさか今のような場所、今のような形で音楽に関わることになるとは思っていませんでした。時には大変なことも起きるかもしれませんが、何かしらの形で好きな事をやり続ければ、神様は自分にすら想像できなかった素晴らしい未来を用意してくれるのだと思います。

text_Kimi Idonuma edit_Wakaba Nakazato

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