花井悠希の朝パン日誌 “どんなときも”人々の生活に寄り添うお店。宮城県仙台〈パンセ〉のパンをテイクアウト LEARN 2021.10.21

1年に1度、仙台のパン屋さん巡りを楽しみにしている私。というのも、秋の始まりはいつも「仙台クラシックフェスティバル(通称“せんくら”)」でコンサートをし、仙台のパン屋さんを巡るのがお決まりのコース(※私だけ)なのですが、去年はせんくらが中止となってしまったため、仙台に降り立つのは2年ぶりとなっていました。待ち遠しかったー!今回は仙台在住の友人おすすめのお店へ。

なんですか、このけしからん名前は(褒めてます)!名前だけでどういうパンなのか伝わってしまう見事なネーミングセンス。そしてこの名前が目に入った瞬間、味の想像が膨らみ、つい手にとってしまう人続出ではないでしょうか(ここに1人)?
日本人のパン歴史の中で独自に育まれてきた(と私は思っている)ふわふわと柔らかい日本らしいパンがベース。しゅわっと柔らかに溶けていきながらほのかな甘さが優しく微笑んで、口内を従順に立ち回る優等生さんです。
白いチーズに黄色のチーズ、3種類のチーズがむにょっと伸びてコクが大の字で寝そべっても、そんなチーズを見かねたブラックペッパーが喝のジャブを放っても、ちゃんとそばで見守り統率をとる出来る子っぷりに、改めて称賛を送りたい(←誰?)。個性を強く放ったり派手さをひけらかすわけでもなく、包む具材をちゃんと引き立てるこういうパン生地こそ、日本らしいパンの良さだよねって、おしゃれなパン屋さんといったらな花井も(←自分で言う)ハッとしました。

〈パンセ〉といったらこの子は外せない!らしい。店内でも目立つ場所に並べられ不動のセンター感を放っています。沖縄の塩「シママース」と国産のフレッシュバター100%使用とのこと。バター好きとしては見逃せません!
カリッと焼き上げられ、しっかりと歯応えが引き出された表面にガブリとかじり付くと、じゅわっと油脂が滴るような感覚。ぐふふ、これがバターちゃんね?それをじゅるりと絡めとって歓喜し緩む口内を、表面に振られた塩が澄んだミネラルの旨味で整えます。こぼれ出たバターの湖でチリチリと揚げ焼きの刑になったのか、底は揚げパンのようにカリカリになっていてたまりません。
想像よりもしっかりと輪郭のある生地。バゲット等にも通じる骨格の良さなので、塩バターパンでおなじみのバターと空気の洞窟があってもへにゃっとつぶれず、表面がカリッとエッジが立っているのが新鮮です。

「塩バターパン」には仲間たちがいます。その名も「塩バターガールズ」(勝手に命名)!その中で友人おすすめのこの子をチョイスしました。もちろん「塩バターパン」のアレンジパンです。
やはり底のカリッ!じゅわっ!なファーストコンタクトにはハートを持っていかれます。揚げパンを大きな口で自ら挑みにいった時の、口内で滲む油脂感、それに煽られる高揚感をこの子からも感じるのです。よかった、給食時代の童心を忘れていなくって(よかったのか?)。表面に飾り程度にぱらりとふられたきな粉が、より揚げパン記憶を蘇らせるのかも。そしてネコでいうマタタビよろしくその気にさせるきな粉の香りに急かされて、生クリーム、あんこ、パンというルーティンに飛び込みたくなる魔法もかけられているので注意が必要です(何の?)。
そもそもね、あんこに生クリームにバターだなんて、不可抗力なのよ(ぶつぶつ)。

クリームの量が絶妙。ちゃんとパンの輪郭を感じられる余白は残しつつ、わーい!たっぷりだー!と喜んじゃうちょうどいい量に、老若男女幅広い層に支持を得られる理由を垣間見た気がします。ふるふるでやわやわなクリームは、卵のコクを伝えるべくこっくりと舌にまとわりつき、それを包むパン生地はとろんとした口溶けでクリームと一体感を作り出します。正統派のクリームパンの枠内にギリギリ藉は残しつつ、ほんの少しだけはみ出させるオリジナリティ。そのバランスの組み立て方が、毎日でも立ち寄りたくなるこのお店の親しみやすさのキーなのかもしれません。

イートインを眺めているだけでも、お仕事の合間に急いで食べている人、パンとコーヒーを片手にゆっくり語らっている人、小さな子とお母さんがパンを半分こしていたり、一人一人の生活がそこにありました。その横で続々とテイクアウトのお客様もやってくる。正統派のパンから季節限定商品やお惣菜パンまで豊富な品揃えで、どんなときもフィットするパンがある懐の深さ。おはようからただいままで、いつもすぐそばにいてくれるようなパン屋さんでした。

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