わたしたちの無加工な「独立」の話 #12 株式会社Unicoco代表杉田ぱんさん

WORK&MONEY 2025.04.11

どのように働くかを考えるとき、選択肢の一つとなるフリーランスや起業などの「独立」という働き方。では、実際に独立して働いている人たちは、どのようにその働き方を選び、「働くこと」に向き合っているのでしょうか。さまざまな状況のなかで「独立」という働き方を〈現時点で〉選んでいる人のそれぞれの歩みについてお話を伺っていきます。

さまざまな属性やバックグラウンドを持つ人に開かれた学びの場として、「1人好きのためのめずらしいチーム作り教室」「お金が嫌いな人のためのお金講座」など、ユニークな講座を行う「ゆにここカルチャースクール」を運営する、株式会社Unicoco代表の杉田ぱんさん。「関わってくれた人が損をしない」組織をつくろうとする杉田さんの試みを聞きました。

──「ユニコーンはここにいる」(以下、ゆにここ)は、もともとフェミニズムやクィアをテーマにしたウェブメディアだったんですよね。

杉田:当時の「ゆにここ」は、Xemonoという会社のもとで運営されていました。その後、私が前にいた会社を辞めるときに、「ゆにここ」の編集長にならないかと誘われたんです。ただ、ウェブメディアとして事業を成り立たせていくことの難しさを感じたところもあって。メディアとしての「ゆにここ」が目指したものを残しつつ、違う形の事業のアイデアを考えるなかで「ゆにここカルチャースクール」の構想が生まれて、結果的に、会社として独立することになりました。

──もともとビジネスをやりたいという思いはあったんですか?

杉田:祖父も母も経営者なんです。会社を経営する大人の近くで育ったので、働き方のなかに自然と起業という形もありました。損得感情が人より強いのも、育った環境による部分が大きいかもしれません。
例えば意義があることをやっていても、関わった人たちのギャランティーがすごく安かったりすると辛いじゃないですか。自分が損するのももちろん嫌だけど、なるべく関わった人たちみんなが損しない仕組みを考えたい気持ちがあります。

わたしたちの無加工な「独立」の話 #12 株式会社Unicoco代表 杉田ぱんさん

──文化芸術に関わることや、社会的に意義がある活動は、やりがい搾取的な状況が致し方ないとされがちだったりもしますよね。

杉田:ある程度はお金と人が集まって、それをいい感じに分配できる組織になりたいですね。結局、資本主義社会の仕組みの中で動かなければいけないので、得たお金をどのように還元するかという意味で、お金の流れを多少変えることはできるんだけど、抜本的には変えられないことにモヤっとしながら会社をやっているところがあったりするんです。

前職で、世界中の女性や、性的マイノリティの人たちが立ち上げた会社とやりとりをしていたなかで、起業したバックグラウンドはそれぞれ違うけれど、みんな、目指したいビジョンと現実の狭間で揺れながらやっていたのが心に残っていて。私もようやくそうなってきたな、と思います。

──経営者としてはどのようにありたいと思っていますか。

杉田:1人でなにかを全部やることはできないけど、人にお願いするのは得意なので、会社を経営し始めてからは、人にお願いするのが仕事だし、お願いを聞いてもらえる組織と人でなければと思っています。講座の企画についても、私1人では何もできなくて、友達とのおしゃべりがきっかけになったりしているので、私の役割はきれいに見えるようにする「お皿」のようなイメージです。

──2021年に立ち上げてから、現在までに変化した部分はありますか。

杉田:想定していたよりも反響があって嬉しい一方で、もっといろんな属性の方に受講してもらえたらいいなと思ったんです。私は俳句の結社に入っているんですけど、句会に参加すると、年齢もやってきたこともばらばらの人たちが、「俳句」というキーワードで集まっているのがすごく良くて。

自分と全然違う人がいるということが念頭にありながら何かを学んでいく方がいいんじゃないかなと思うようになりました。句会に行くと、口下手な方が、言葉ではコミュニケーションを取らないけれど、お茶を配ってくれたりするんです。
「ゆにここカルチャースクール」はオンラインなので、言葉以外の方法でのコミュニケーションが見えづらいところがあって。無言でお茶を差し出してくれるような人たちにもスポットライトが当たる組織をつくりたいと思って、少し仕組みをリニューアルしたりもしました。

わたしたちの無加工な「独立」の話 #12 株式会社Unicoco代表 杉田ぱんさん

──いまは何名で運営されていますか。

杉田:私以外に、ずっと手伝ってくれているスタッフが2名います。そのうちの1人は私が古着屋さんで働いていた頃のお客さんで、「いつかぱんちゃんが社長になったら、絶対僕を総務にしてね」と言っていた子なんです。一緒に働く人は相性があるし、結構わがままに選んでいます。

次にもし人を雇用する機会があったときは、50代から60代の女性がいいなと思っているんです。その世代の女性って、検索しても雇用が全然ないんですよね。弁護士の資格を持っている友達のお母さんが、ずっと専業主婦だったから仕事がないと話しているのを聞いたりすると、そういう人に働いてもらいたいなと思います。

──中年以降の女性の雇用の問題、とても重要なことだと思います。

杉田:それも自分1人で考えたことではなくて、友達のお母さんが話を聞かせてくれたり、前職の社長が「女性の雇用を増やしたくて会社をやってる」と言っていたことの蓄積があったからだと思います。

もともと「ゆにここ」を一緒にやっていたメンバーや、私の周りにいる人たちは、損得で動かないし、頭もいいし、逆境でも自分の信念を貫けるような強さがあるんです。そういう人たちを見ていると、自分は卑しいところがあるし、ずるいことを考える人間なんですが、そうじゃないと起業をしないだろうなとも思うんです。自分が50代、60代になったときに、仕事を探しても全然なかったら腹が立つので、少しでも自分にできることをやってバランスを取っていきたいです。

──「ゆにここカルチャースクール」のグラウンドルールに、「生活を重んじ、犠牲にせず、学びや創作に励みましょう」と書かれているのが印象的でした。

杉田:「生活第一、芸術第二」という菊池寛の言葉が心に残っていて。生活を犠牲にしてでも創作に励みなさい、という考え方があるけど、それでいいものが作れたとしても、創作をする人がぼろぼろになって使い捨てにされるのは嫌だなと思っているんです。

わたしたちの無加工な「独立」の話 #12 株式会社Unicoco代表 杉田ぱんさん

──「生活を重んじ」という部分は杉田さん自身が働くうえで大事にしている部分だったりもしますか?

杉田:重んじすぎてやばいです。気を抜くと楽しい予定ばかり入れてしまうので、最近は開運カレンダーで吉日を確認して、そこに大きなイベントごとを入れるようにしています。そうすると、自ずと告知や準備の日程が決まってきて、いい感じにバランスの取れた働き方になるんです(笑)。

遊んだり、ご飯を食べたり、寝たりすることは犠牲にできないので、うまく自分をハックするしかないと思っています。私がのんびりやっているからこそ、講師の方やスタッフも、「命削ってやります!」みたいな雰囲気にはならないのかもしれません。無理はせず、できる範囲のことを精一杯、楽しくやっていきたいです。

text_Yuri Matsui photo_Mikako Kozai edit_Kei Kawaura

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