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1年のスタートを後押し! 新年に参拝したい、気分があがる“ご多幸寺社”3選|寺社につき喫茶。絵になる京都ご多幸散歩 Vol.4
独特の吸引力に惹きつけられ何度でも足を運びたくなる。そんな街といえば、やっぱり京都。飽きない点も魅力だけど、知られざる美しい心の保養地がこの街にはまだまだあるんです。知っているとちょっと“粋”な神社仏閣、教えちゃいます。案内人は寺社を愛する京都在住のモデル・本山順子さん。今回は、一年の始まりを迎えたこの時期だからこそ参拝したい、3つの寺社をお届けします。
コラムをお読みいただいているみなさま、明けましておめでとう御座います。今回は年明けスペシャル。喫茶編は一旦おやすみいたしまして、一年の始まりのこの時期だからこそ参拝したい“ご多幸社寺3選”をご紹介していきます。今年もみなさまの街歩きにそっと寄り添い、“お守り”として携えていただけるよう、この連載を通じて出会う「人」「場所」「時間」を道しるべに、私自身も心と身体のバランスに耳を傾け、一緒に歩みを進めていけたら幸いです。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
1.〈京都ゑびす神社〉一年のスタートを後押し。
新しい一年の“道ひらき”にとやってきたのは〈京都ゑびす神社〉。『あれ?京都ゑびす神社は“えべっさん”を祀られているから商売繁盛の守り神では?』と思われた方も多いはず。実は本殿右奥には“みちびきの神・道ひらきの神”である猿田彦大神が祀られている末社があるのです。猿田彦大神は天照大神に命を受けた瓊杵尊(にぎぎのみこと)を現在の宮崎県 高千穂(神話の舞台と伝えられる地と神々を祀る神社が数多く存在する場所)へと導いた「古事記」においても重要な神様。
一年の始まりに『いいスタートを切りたい』『どうしていいものか悩んでいる出来事がある』…そんな方は猿田彦大明神にそっと打ち明けてみてはいかがでしょう?一年の歩みを進める上で、きっといいヒントを授かれるはず。
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京都ゑびす神社には、他にも小松天満宮(学問の神様)、白太夫社(子宝・子育ての神様)、八幡神社(勝負の神様)、岩本稲荷神社(商売繁盛の神様)と、たくさんの末社が。また1月8月〜12日には「十日戎(とおかえびす)」も行われ、たくさんの露店が提灯の火を灯し、街一帯がとても賑やかな雰囲気になっていました。道ゆく人が吉兆笹に京都ならではの縁起物をたくさんぶら下げて、溢れた笑顔で街に幸福感が満ちるとてもあたたかい大祭です。
(京都ゑびす神社 十日戎の記事はこちら https://hanako.tokyo/learn/205385/)
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京都ゑびす神社は天満宮とも関係の深いとのことで猿田彦神社のお隣には北野天満宮遥拝もあります。ここで拝むと北野天満宮に参拝したことになるというもの。よくみると猿田彦神社のお社の屋根には北野天満宮の“星欠けの三光門”とよく似た刻印を見つけることができました。
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猿田彦神社がなぜこちらにいらっしゃったのかは詳細不明なのだそうですが、もしかしたらこちらのお社も北野天満宮から譲り受けたものなのかも…なんて歴史探訪が捗るのも神社仏閣巡りの醍醐味なのかもしれません。
(北野天満宮についての記事はこちら https://hanako.tokyo/learn/217832/)
京都ゑびす神社
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住所:京都市東山区大和大路四条南
HP:http://www.kyoto-ebisu.jp/
2.〈本能寺〉大河ドラマや映画でも描かれた、織田信長の歴史。
京都の繁華街の一つ、四条河原町から京都市役所までを真っ直ぐ突っ切る「寺町通り」。老舗がずらりと軒をつらねたかと思うと若者で賑わうお店があったり、老若男女が集う商店街。その一角に威風堂々の総門を構えるのが、みなさんご存知の〈本能寺〉です。
戦国時代の三英傑の一人、織田信長が命を落としたとされる本能寺は堀川四条の辺りにありましたが、「本能寺の変」で焼失した10年後、豊臣秀吉による都市計画に従い、旧境内から移りこの地に再建されました。
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本能寺の石柱など、至る所に見たことのない漢字が刻まれています。これは本能寺の健立から5度の火災に見舞われていることから「能」の“ヒ=火”を避け、「ヒ」が「去る」ように「䏻」というオリジナルの漢字が使われるようになったことから。つまり、この「䏻」の漢字が拝見できるのはここ“本䏻寺”だけ。文字を大切にする先人の心配りが感じとれます。
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本能寺は法華宗の大本山。境内には天明の大火の際に木から水が噴き出し、木の下にいた人々を救った「火伏せのイチョウ」や織田信長の供養塔、立派な大賓殿宝物館があります。
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大賓殿では現在、本能寺で焼失したとされる織田信長の愛刀が復元され展示されており、実際に手に触れることもできました。
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また非常に興味深く拝見させていただいたのは織田信長の肖像画。全部で22枚残されているそうですが髭がないものはそのうちの2枚のみで大変珍しいものなのだそう。そんな織田信長の最期は“首”が見つかっていないため、いまだ多くの謎に包まれています。
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北野武監督の映画「首」、NHK大河ドラマ「どうする家康」、2023年は戦国時代にスポットを当てた作品が重なりました。そしてそのどちらも歴史解釈にオリジナリティがあって非常に興味深い。参考文献が違えば歴史解釈も十人十色。そして誰を主人公にするかにより感情の捉え方も180度変わってきます。私たちは当事者ではないため文献などで伝わる「断片」から紐解かれた歴史を検証したり仮説を立てたりするほかありません。誰もが主人公クラスの武将や公家、文化人が思惑を交錯させるこの時代。教科書の数ページだけではもったいない!“本当のこと”なんて誰にもわからないからこそ多角的に視野を広げ、当時の人々になりきったり、気持ちを重ねてみたりして自分なりの歴史の物語を紡ぎ出してみるのもまた一興。歴史を知ると景色が変わる。一生涯楽しむことができる歴史の旅をさすらうのもまた、趣深いと感じるのでした。
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本能寺
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住所:京都府京都市中京区下本能寺前町522
HP: https://www.kyoto-honnouji.jp/
3.〈瀧尾神社〉繊細な龍の彫刻に注目。
今年の干支は辰。龍のようにみなさまの幸福が天高く上昇するように、とご紹介すべくやってきたのは〈瀧尾神社〉。鳥居をくぐり拝殿を覗き込むと、そこには動き出しそうなほどの巨大な龍の彫刻が。木造のものとしては日本一の大きさで、祇園祭の大船鉾の船首につく龍頭は、ここを元に2016年に復元されたものなのだそう。
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この辺りの住民の間では「夜になると龍が動き出して近くの音無川に水を飲みに行く」という噂が立ち、一時は逃げ出さないようにと金網が張られていたこともあったのだとか。江戸後期の彫刻師・九山新之丞氏が8メートルにも及ぶ巨大な頭を、胴体を九山新太郎氏が手がけています。着色がない白木のため木目がしっかり見えるのですが、龍の頬や口に立体感が出るように木目を計算し尽くして彫刻されていることがわかります。彫ってみないとわからない木目を見極める。職人技とはまさにこのこと。
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天井中央の雲の奥に輝くのは「宝珠」。よく彫刻や壁画などで、この宝珠を掴んでいる龍を目にしませんか?ですが、この龍はまだ宝珠を手にしていません。これが何を意味するのかというと、“これから”手にする、まだまだ上昇中の龍だということです。
そして瀧尾神社の主祭神は龍とも縁が深い辨財天(弁財天と弁才天がいらっしゃいますが、瀧尾神社では弁“財”天)を祀られており「本来はね、うち一番効くのは株式投資なんですよ。相場の神様」と神主さん。上昇相場のことをブル(雄牛)マーケットと言いますが、雄牛なんていわず龍のように力強く上昇してくれたらそれ以上に喜ばしいことなんてありません。
本殿には、なんと「日本三大龍穴」と呼ばれて名高い貴船神社の旧奥宮を譲り受けており、しっかりと双葉葵の紋が刻まれてます。貴船神社の御祭神は高龗神(たかおかみのかみ)で水を司る神様。瀧尾神社の御祭神である辨財天、そして龍も水と関係が深くとても興味深い繋がりがありました。
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さらに注目していただきたいのは、拝所と手水舎の繊細な彫刻。1717年、江戸時代後期にのちの大丸百貨店となる呉服店を創業した下村彦右衛門が行商へ向かう途中にあった瀧尾神社に毎日手を合わせ、のちに大繁栄したことから下村家から2500両、現在の貨幣価値5億に相当する大規模な寄進を受けました。下村彦右衛門の財と九山新之丞の技を惜しげもなく注ぎ込んだ彫刻は、今もなお丁寧に修復され現代へと継承されています。
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社殿向かって右側から彫刻をぐるりと眺めてみると、なんとすべての干支がずらりと並んでいるではありませんか。そしてどの動物にもガラスの瞳(当時はとても高価)が入っており、財を尽くした造り。木鼻は上半身だけが彫られているのが主流ですが、こちらは足の先まで丁寧に彫られており、そのどれもが可愛らしい親子の姿です。親子が数多く彫られているのは「家が代々続いていく」という御神徳になぞらえたもの。
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干支の最後まで進むと犬と猪の順番が逆に彫られています。どうしてでしょう?日光東照宮の「眠り猫」で有名な伝説の彫刻師・左甚五郎は知恩院の屋根のてっぺんにまるでまだ作業途中かのように瓦を4枚残しています。これは『満つれば欠くる世の習い』“完成してしまうと後は朽ちてしまうだけ”つまり、犬と猪を逆に彫ることで、まだ完成していない・まだまだ発展途上だということを表すため。九山新之丞の粋な計らいをこの一枚の彫刻から感じ取ることができます。
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拝所の正面に鎮座するのは『鳥龍(ちょうりゅう)』。四本足で立ち、鱗で覆われた身体、獅子の尻尾を持ち、鳳凰の顔を持つ大変珍しい霊獣です。鳥龍が見られるのはごく僅かなところだけ。その一つに大正天皇即位の礼の際に用いられた「高御座(たかみくら)」に描かれており、その貴重さが伺えると思います。世の中が変わる時に現れる霊獣とされています。
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「大丸さんとうちは、もう300年の付き合いになるんです。今でも毎月1日には大丸さんのところに月参りに、私が20代の頃から45年間休むことなく続けているんですよ」と宮司さん。瀧尾神社の歴史についても懇切丁寧に、そして何より楽しそうにお話ししてくださり、宮司さんがこの瀧尾神社に誇りと情熱を持っていらっしゃることが伝わってきました。
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歴史を語って繋いでいく。そして、私たちも先人たちが繋いでくれた未来に立っている歴史の中の大切な1人です。明日が今日よりも素晴らしい日になると自分を信じ、日々の「楽しい」を拾い集めて。いつか「楽しかった2024年の歴史」を笑顔で振り返れる日が来ることを願って、今日のこの瞬間を過ごすのでした。
瀧尾神社
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住所:京都府京都市東山区本町11-718
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