ハナコラボSDGsレポート 障がいの有無を超えて。アパレルブランド〈SOLIT!〉が目指す“オールインクルーシブ”な社会
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第69回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、ファッションブランド〈SOLIT!(ソリット)〉を手がける社会起業家・田中美咲さんに話を伺いました。
多様な人だけでなく、動植物、地球環境、すべてがインクルードされた社会を目指して
ーー〈SOLIT!〉には、すべてを包括するという意味の“オールインクルーシブ”というキーワードがあります。どんな想いを込めているのでしょう?
「〈SOLIT!〉は、人だけでなく、動植物、地球環境、そのすべてがインクルードされた社会を目指していることからこのワードを掲げています。私は、人間だけが存続する社会なんてありえない、すべてが共存しているからこそ、今の私たちがあると考えています。それを基に、何も取りこぼしちゃいけないよねっていう気持ちを込めて“オールインクルーシブ”を掲げています」
ーーそんな想いを胸に、〈SOLIT!〉はどのように始まったのでしょう?
「ファッションには、人に勇気やワクワク、自信などを与えるポジティブな側面ももちろんあります。でも一方で、劣悪な環境で働いている方がいたり、大量生産大量消費でたくさんの廃棄を産んでいたり、生産工程でのエネルギー効率の負荷、環境負荷がすごく大きかったりするのも現実。そんななかで、未来に向けたファッションってどうあるべきなんだろうと考え、むしろ作れば作るだけ、より良い社会になっていく仕組みができないかという大きな問いに答えを出そうとしたことが始まりです」
ーーファッション業界では、作られる服の1/3ほどが廃棄されていると聞き驚きました。
「今は、作る量に対して廃棄される量も年々増えていって、一度も袖を通されることなく廃棄される量が多いんです。いろんな要因はあるんですけど、企業側が消費者のニーズを捉えられてなかったり、生産量のコントロールを仕切れていないというミスもあります。量産することによって一商品当たりの単価が安くなるので、ビジネスとして成り立ちやすくなるっていうのも…」
ーー田中さんはこれまで、東日本大震災を機に防災をアップデートする「一般社団法人防災ガール」を創業するなど、いろいろな社会課題と向き合ってこられました。そしていまはファッションに。社会課題同士がリンクしている部分もありますか?
「そうですね。防災から入って、どんな気候変動や環境問題があるのかを探し始め、環境負荷の高い産業について少しずつ視野が広がりました。数珠繋ぎというか、一本線ではないけれども輸送業、航空業の環境負荷が高く、インパクトが大きいということもわかって。また、まわりまわって多くの人の命を奪っている自然災害を生んでいるということにつながっていることに気づきました。
そんななかで作られる服が山のように廃棄される現場がある一方で、私自身も、私のまわりでも『着たい服があるけど、着られない』という選択肢がない人もいっぱいいるなと思って」
ーー体型的な問題や、障がいの有無などからですか?
「皮膚疾患により着られない素材があったりとか、身体に障がいがあってボタンがついている服が着られないだとか。たくさん捨てられているファッション産業の現実がある一方で、服を着たいのに着られない人がいる世界のバランスや均衡さに違和感があって、そこをどうにか解決したいと思ったんです」
組み合わせは1,600通り!お好みのカスタマイズで
ーー〈SOLIT!〉は、それぞれの好みや身体の特徴に合わせて、1,600通り以上の組み合わせの中から、自分だけのために服をカスタマイズすることができると伺いました。1,600通りとは、すごいです!
「従来の画一的なデザインって、立ち姿勢になることが前提とされていて、平均値に近い人の体型に合わせて作られているんです。それにはまらない方は、何かしら我慢をするか、オーバーサイズで着たり、逆にピチピチで着ることを強いられる。とはいえ、オーダーメイドだと単価が高くなってしまい、お財布に余裕のある人しか買えないという分断が生まれてしまいます。できる限り、手の届きやすい価格設定で、自分に合った服を作れる状態にしたかったので、このカスタマイズができるプロダクトにしました」
ーー具体的に、自分の体型に合うものや、求めているものを探すのは、どのようなフローから進んでいくのですか?
「プロダクトによって異なるのですが、大まかにこんな感じです。
1.Webサイトで気になるアイテムを選ぶ。
2.ベースとなる胴体部分が、何サイズに当たるのかを選ぶ。
3.右袖左袖のサイズや丈、胴体の裾丈を選ぶ。
それに加え、ジャケットであれば袖の部分にリブを入れるとか、ボタンの種類を選んだり、部位ごとのパーツでもチョイスできます」
ーーボタンまで!そこまでディテールにこだわろうと思ったのは、機能性だけでなく、ファッションとして楽しみながら身に着けてもらいたいという気持ちも?
「そうですね。私たちが作っているものはジャンルでいうと“インクルーシブファッション”や“ユニバーサルファッション”ではあるのですが、福祉用具感が強いというか、それを着ていると障がいがあるとわかりやすくなってしまうんです。それがさらに分断を生み、自分らしくいられる前に、自分が障がい者であることに巻き戻ってしまうと思います。なので、〈SOLIT!〉では健常者でも障がい者でも、セクシャルマイノリティでも、どんな体型でも、誰でも着れるデザインにして、そこに機能がプラスされている状態にしたかったんです」
たくさんのライクをいただくというよりも、とことん“これがいい”
ーー実際に手に取られた方からは、どのようなリアクションがありましたか?
「『初めて自分の体に合う服を着れた!』『本当はジャケットを着たかったんだけど、ずっと我慢していた。人生で初めてジャケットを着れた』『これでデートに出かけられる』とか…あたたかなお声を寄せていただきます。〈SOLIT!〉の服は“なければならなかった”という言い方をしてくださる方が多いんです。たくさんのライクをいただくというよりも、とことん“これがいい”、とことん“これが好き”と言ってくださる方が増えてきたことは特徴なのかなと思いますし、とってもうれしいですね」
ーー素材にこだわればこだわるほど単価が高くなっていくと思いますが、手に取りやすさを実現するためにどのようなところに気を使いましたか?
「〈SOLIT!〉の服は、メンバーの紹介で中国の無錫市という場所で生産しています。そこの方々と、これまでのファッション業界のままではいけないという想いで共鳴して、試しにやってみようと仰っていただいたことで成り立っている感じです。本来パーツごとにオーダーするとなると4〜5倍の価格になるところを、共感ベースに最低限の価格にしてくださっているんです」
ーールックでは、モデルを起用していませんね。そこには、どんな想いが?
「よく、細身で白人の女性がモデルとして起用されがちですけど、そうすると『それが正しい』『美しい』という象徴だと刷り込みが起きる可能性があります。見やすくするためにそのようなモデルを起用することはいいと思うんですけど、それに当てはまらない自分を否定し始める人が出てきてしまうことにも目を向けたいです。誰かを傷つけたいわけではないし、何も正解なんてないけど、憧れを促したり、駆り立てるというのは消費を促していますから。本来は、一人一人がファッションからパワーをもらって毎日を豊かに過ごすことが理想だと思うので、モデルを起用する必要はないと考え、スタッフや友人にお願いしています」
ーープロジェクトを進めていく上で何か困難はありましたか?
「全くやったこともなく作ったこともなかったので全部苦しかったです(笑)。アパレル、ファッションの文脈と福祉とダイバーシティの文脈の掛け合わせなので、どちらの知見も身につけながら進めなきゃいけなくて、初めは体当たりでした。少しずつ、やりたいものに共感してくれて、かつ経験のある人がブレーンになってくださったりして、徐々に徐々に進めていったという感じです」
ーー当時大学院に通いながら〈SOLIT!〉を立ち上げたんですよね。昼間はご自分のプロジェクトと大学院のお勉強、きっと大変だったと思います。成し遂げられ原動力って、なんだったのでしょう?
「アクティビスト仲間たちも言いますけど、自分の人生を社会の一部だとして捉えている人が多い気がしていて、これからの社会がより良くなるために私というリソースどう投資されるべきなのだろうとみんな俯瞰している気がします。毎日散歩をする時間を過ごす理想の使い方もあれば、少しでも本気を出せば社会が変わる一時を担える可能性があるんだったらそっちにベットしたい。期待と希望と身を粉にする価値があると思ってみんな活動しているんだと思います。
あとこれは勘なんですけど、何か物事を進める時に『これはいけるな』って思う瞬間があるじゃないですか。それを感じたんですよね。事業になるかどうかはやってみなきゃわからなかったのですが、私は社会解決をワクワクさせながら変えていくのが得意分野であり、好きなことだったので自分の中でフィットしていて、これをどのようにしてお金で稼ぐかというのを他のメンバーと一緒に考えながら進めていった感じです」
ーーそして、たくさんのデザインアワード授賞!おめでとうございます。
「やったー!障がいの有無関係なく着られる服って、ほとんど前例がなくて。研究論文とかはあるんですけど実践はされていないんです。本当に走ってもいい道なのかわからないまま、自分自身を信じて走った状況だったので、賞を受賞できたからこの道は進んでもいいのだとグローバルに評価されている、進むべき道なんだと確信を持てたので、ここからはもう走るのみです」
ーー〈SOLIT!〉を通して、今後やってみたいことや実現してみたいことはありますか。
「ファッションという文脈でいくと、今は身体に障害のある方にしかフォーカスできていないので、例えば精神疾患の方やセクシュアルマイノリティとか社会的な風潮によって着たいけど着られないという側面に目を向けていきたいと考えています。極論を言うとセクシュアルマイノリティの男性用のスカートを作りたいとかそう言うことではなくて、女子校の制服にロングスカートもパンツスタイルもハーフパンツも適用するというように、なんでも選べるという状態を作るということ。総論で言うとファッションだけじゃなくて、多様な人の地球環境も考慮した社会実現をできると思っているので、それが文具かもしれないし家具や電化製品かもしれないし、家の作り方やまちづくりかもしれないですけど、私たちは哲学とか思想で、いろんなところとコラボレーションをしてより理想とするオールインクルーシブな社会がでいたらいいなと思っています」
ーーファッションだけでなく他のジャンルとなると、どんどんいろんな方の事情を自分の中にインプットしなくちゃいけないと思うんですけれども、それに対する心構えは?
「『いつまで経ってもわからない』という大前提を忘れないことは大事にしています。結局のところ誰しもが全ての人間の人生を語ることなどできないのだから、勝手に決めつけないということと、わからないのだということを認識しておきたいなと思います」