無題3
2022.07.15

自分に優しく、人に優しく。 なんでもない話をしよう。哲学者・永井玲衣さん×文筆家・清田隆之さんの「ゴールのない対話」

誰かと実際に会って、目的なくおしゃべりする。そういう時間が減ってしまいましたよね。でも、人はたぶん、なんでもない話をすることで気持ちがほどける。いつのまにか弱っていた心がちょっと回復したりもする。各地で「哲学対話」を続けている永井玲衣さんと、全国1,200人以上の恋バナを聞き集める清田隆之さんの、ゴールのない対話。こんな感じで、そろそろ、話しませんか?
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清田隆之さん(以下清田):「哲学対話ってどういうものですか?」

永井玲衣さん(以下永井):「小学校とか美術館とかカフェに集まってもらって、哲学的なテーマについて話したり聞いたり考えたりすることを続けてます。おしゃべりはいつでも始められると私たちはどこかで思ってるけれど、逆な気がするんです。人は基本的に対話が苦手。だから、哲学対話の場という「言い訳」を作ってる。」

清田:「言い訳!最初に「雑談しようぜ」と設定を共有したほうが、ちゃんと雑談できるんですね。面白いな。」

永井:「哲学は、なんでだろう? という素朴な「問い」の営みです。哲学はなにもバカにしないし、正解もない。」

清田:「対話が必要、みたいなことを言うとそれは贅沢品だよね、とか文化リテラシーが高い人のものとか、そんなふうに言われちゃうこともたまにあります。」

永井:「贅沢でいいと思います。だって、おしゃべりは嗜好品ですよね。お金を出しておいしいコーヒーを飲みたいっていうのと同じ。それくらい、今の私たちに必要なものだし手を伸ばして求めないとなかなか現れてくれないものだとも思う。」

永井:「「問い」があると、問いのもとにみんなが集えます。たとえば「なぜひとりごとを言うんだろう」とか。超どうでもよさそうだからこそラクに話せるし、意外と深掘りもできる。「ひとりごとの王道とは?」「恥ずかしい過去を思い出してあ~~ってなるのはひとりごと?」って。」

清田:「個人的な記憶や残像を持ち寄って自分の体験を話せたり聞けたりするんですよね。」

永井:「初対面の人や年齢が離れている人、行動範囲が違ってしゃべりづらい人とでも「問い」があれば話せちゃう。問いは便利なんです。」

永井:「問いは存在の肯定。あなたが必要だよっていうことだと思う。「人はなぜひとりごとを言うんでしょう」と清田さんに問うのは、それを一緒に考えたい、話を聞いて考えを深めたいというメッセージです。」

清田:「なんかうれしいですよね。問われることや、「ここにいていいよ」と言われることがパワーになる。」

清田:「授業のあとの移動時間に廊下を歩くとか誰かとバス停まで一緒になった帰り道とか、そういう時間が少し復活してきたのかな。」

永井:「たまたま一緒に帰ることになっちゃった、みたいな「ままならぬ状況」のおしゃべりは意外と楽しいですよね。」

永井:「時間に制限がある時のおしゃべりも楽しい。閉店だから終わり! みたいな。」

清田:「学食で話してて「次、授業だから先に抜けるね」ぐらいの感じ、いいですよね。懐かしいなあ。」

永井:「主張じゃなくて理由を聞き合うのは面白いですよ。「私は幸せになりたい」じゃなくて「なんで幸せになりたいのか」を問い合う。答えはバラバラで当然だから、しんどくならない。」

永井:「聞かれたから語ってしまう、問われたからふと思い出してしまう。おしゃべりって、実はすごく受け身。」

清田:「お互いが常に微量な影響を与え合って、なにかしらちょっとずつ変化する。それを感じられるのが醍醐味かもしれない。」

清田:「散歩をしていてこの道とこっちの裏道がつながってるんだ!ここ前に通ったことがある!みたいなのを改めて発見すると楽しいじゃないですか。おしゃべりはそれと似てる。」

永井:「ただ誰かと話すだけで、ひとりで考えている時は隠れていたものがふいに出てくることがあります。」

清田:「自分の話をするのも結構大切。今考えてることでも身の上話でも。要件のみの効率的な対話に慣れすぎず、あちこちに埋め込まれてしまった「雑談しようぜ」っていう言い訳をそろそろ取り戻さないとね。」

清田:「昔、好きなサッカー選手の経歴やプレイスタイルを頭の中だけでウィキペディアみたいに書いてたことがよくあって。」

永井:「勝手に?(笑)「ブラジル出身、19歳でチーム入りして」って?いいなあ、そういう話。」

清田:「今の今まで忘れてたんですけど、急に思い出しました。」

永井:「それ、哲学対話をしているとよくあるんです。「この話、今、初めて思い出したんですけど」って言う人がすごく多い。」

Profile

◆哲学者
永井玲衣(ながい・れい)/1991年東京都生まれ。さまざまな「D」をテーマに配信や取材を行う「D2021」の活動も。詩と植物園と念入りな散歩が好き。著書『水中の哲学者たち』(晶文社)。

◆文筆家/恋バナ収集ユニット桃山商事代表
清田隆之(きよた・たかゆき)/1980 年東京都生まれ。朝日新聞beで人生相談も。著書に『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)。

(Hanako1210号掲載/photo : Shinsaku Yasujima edit : Masae Wako)

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