ほのぼのしたり、考え事をしてみたり。 日記文学の面白さ、知ってる?読み比べしたいおすすめ日記文学4冊 LEARN 2020.05.07

日記文学の面白さは、なんといっても作家の日常生活を覗き見し、同じ時間を過ごしたように感じられるところ。何時に起きて、何を食べて、誰と会って、何を話したか、一人になった時に何を考えたのか。詳細であればあるほど面白い。また、読み進めるうちに何度も登場する人がいたり、意気投合したり、意見が合わなかったりという関係性や思考の変化がじわじわとわかるのもいい。これを機会にいろんな日記を読み比べてみませんか?

1.『エレンの日記』 著・エレン・フライス、訳・林 央子

『エレンの日記』 著・エレン・フライス、訳・林 央子

「本を開いたあとは、少し違う自分になったと感じていたい。私なのだけれど、今までとは違う私になって、世界を新しい目で眺めたいのだ。」

1990年代、ファッションとカルチャーに絶大な影響を与えた雑誌『Purple』の編集長が2001〜2005年に綴ったエッセイ38編と彼女が撮影した150点以上の写真を収録した一冊。世界中を旅し、映画や文学に親しみ、才能あふれるアーティストたちと交流を深めた彼女の思想が浮かび上がる。(アダチプレス/2,400円)

2.『お直しとか カルストゥラ』 著・横尾香央留、写真・ホンマタカシ

『お直しとか カルストゥラ』 著・横尾香央留、写真・ホンマタカシ

「手すりにまたしてもステキなものが!黄緑のフキンを開くと白地に赤の格子の紙皿にころんと4つのパンが並んでいる。わーいっ!」

刺繍や編み物などの技術で洋服を「お直し」するアーティストの横尾香央留が、フィンランドの田舎町カルストゥラで滞在制作をした時の日記。地元新聞で洋服を募り、持ち主の話を聞いて「お直し」を施す。言葉が通じない相手と刺繍付きの手紙でコミュニケーションをとる様子にほのぼのする。(青幻舎/2,300円)

3.『やがて忘れる過程の途中』 著・滝口悠生

『やがて忘れる過程の途中』 著・滝口悠生

「今日は私のパートナーのバースデイなのでお祝いに一緒に食事をしませんか、と言うと、カイは、おめでとうございます、と日本語で言って、一緒に祝ってくれた。」

世界各国の作家や詩人が米アイオワ大学に約10週間滞在するプログラムに参加した著者が綴った日記。初対面かつ文化も言語も違う人々と出会い、慣れない言葉で「書くこと」や文化について議論する。最初はぎこちなく少しずつ相手の人柄や国、背景を知っていく過程の時間は非常に豊か。(NUMABOOKS/1,800円)

4.『富士日記』 著・武田百合子

『富士日記』 著・武田百合子

「座敷のテレビをつけて、テレビと話しこむほどの近さに坐りこみ、画面に眼をすえたままになる。水戸黄門をやっている。」

日記文学好きなら必読。夫・武田泰淳と一人娘・花子との、富士山麓での別荘生活を描いた日記。とにかく文章のテンポがいい。食べたもの、買ったもの、起こった出来事が淡々と述べられているのだが、出てくる人物たちが一風変わっていて魅力的。いつまでも読んでいたくなる一冊だ。(中公文庫/上中下巻/940〜960円)

(Hanako1184号掲載/text:Keiko Kamijo)

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