「子育てで悩んだら、“この悩みは環境が変われば
解決するかもしれない”という視点を持ってみる」
#9 柚木麻子さん (作家) 前編

MAMA 2024.03.04

小説『ランチのアッコちゃん』や『BUTTER』でおなじみの小説家・柚木麻子さん。2018年に出産し、はじめての育児に悪戦苦闘しているさなかにコロナ禍に突入、その後のステイホームやワンオペ育児…。激動の数年を綴ったエッセーに共感した方も多いはず。Podcastでは、自身が大好きな2000年代前後のドラマや映画、音楽、ファッションをパワフルに語り、その熱意と知識の多さにも注目を浴びている。つらかったこと、楽しいことを私たちに作品や配信番組を通じてビビッドに共有してくれる彼女に、育児、仕事、そしてフェミニズムについて伺った。

柚木麻子 本

エッセイ『とりあえず湯をわかせ』(NHK出版)にて、「育児書や産後のメンタルや夫婦関係による手引書は、日本語で出版されているものはだいたい全部読んだ」と綴っている柚木さん。育児だけでなく何事にも事前に膨大な量の資料を読み込んで計画を練ることを習慣にしている柚木さんに、理想の母親像はあったのだろうか。

「私は母とめちゃくちゃ仲が良いんです。母はおしゃれで、ファッションは洋雑誌を参考にしていたような人。“The 東京”というような場所に色々と連れて行ってもらっていたし、ブティックやお芝居とか、美術館とか、80年代のキラキラした文化をたくさん教えてもらいました。母の得意料理は、肉じゃがとかじゃなくてポルチーニのパスタですから。

だから、私の中の“お母さん”って、いつもきれいにしていて、素敵なお店に連れて行ってくれるイメージだったんですよ。でも、息子は原っぱで駆け回る方が好きだから、私の中にあるお母さん知識が全く活かせない(笑)。ドールハウスで一緒に遊びたかったんですけどね。そんなことより凧あげの方が好きみたいです」

柚木さんは、もともと体が弱かったこともあり、コロナが猛威を振るっていた頃は、夫とも居住スペースを分け「ステイホーム」を徹底していた。好きなスイーツを食べに行くこともできない、友達と飲み歩くこともできない。家から一歩も外に出ない孤独なワンオペ育児の中で、紙芝居を自作したり、おままごと居酒屋をしたりと少しでも気分を上げる努力をする一方、スマホ中毒気味になってしまった経験も…。

「息子が赤ちゃんだった頃は、自分の好きなことをやって過ごせていた時間もありましたが、今はそうはいかない。外で遊びたい息子に合わせて公園に行くんですけど、一人で子どもをみているのが本当につらくて。すぐ携帯いじっちゃう。でも最近、知り合いの編集者さんとその子どもたちと一緒に凧あげをしたんです。趣味や考えが合う人と一緒に公園に行けば、子どもが凧あげをやっている間は会話してればいいので、すごく楽しかったんですよね。ママ友とも違って、大人同士が先に仲良くなった関係性ですから。
母みたいに私も子どもを青山に連れて行ったり、一緒に洋服をみたりして過ごしたかったと思うこともありますけど、私と息子には公園が合っているのかも。当時、私の母もきっと色々大変だったと思うんですよね。“女はきれいにしていなきゃいけない”みたいな圧が今よりあったと思うので。消費でうさを晴らさないとやってられない気分だったのかもしれませんし」

育児や仕事に疲れたときはハーブティーを飲んだり、好きな海外ドラマを観たり自分自身を励ましてきたという柚木さん。でもそんなことより、自分のいる環境を疑ってみることがとても大切だと気づいた。

「ハーブティーだって、国や地域がくれるわけではない。自腹ですよね。もちろん自分を励まして、日々の生活に少しでも楽しみを見出すのは大切なんですが、自分が悩んでいるのはなぜなのか根本を疑ってみることも大切じゃないかと思うんです。
昨年、ドイツで私の本が重版されたと聞いてベルリンに遊びに行ってきたんですね。ドイツでは本がとにかく売れるらしいんですよ、本屋に大行列ができてる。
なぜかというと賃金が高くて、残業もなく、休みがいっぱいあるから、みなさん本を読むんですって。とりあえず書店に行く習慣ができている。それに自分たちに余裕があるから、よその子どもたちにもやさしい。どこのレストランに行っても、子どもに塗り絵を出してくれますから。こんな環境だったら、日本で子育てをする人の多くが抱えている閉塞感みたいなものも解決できるかもしれないと思いますよね。ドイツにもたくさんの問題はありますが、今いる場所で無理にハーブティー飲んで頑張らなくても、環境が変われば解決するかもしれないという視点は持っていてもいいかも。
今すぐ変えるのは難しいけど、海外の情報を追うだけでもいいんです。里田まいさんが、アメブロで『ニューヨークでは液体ミルクが普通にドラッグストアに売ってます』って発信したときの我々の驚きったらなかったですよ(笑)。日本ではいまだに煮沸して、お湯注いで溶いたりしてるのにって。」

柚木さん初となる児童文学、最新刊『マリはすてきじゃない魔女』では、誰かのための素敵なんて目指さなくていいと気づく、11歳の女の子魔女が主人公だ。ふたりの魔女ママに愛されて育つマリに振り回されながら、町のみんなも自分のための魔法を見つけていく。
女性同士が結婚でき、トランスジェンダーの子が生き生きと暮らす。そんな物語を、いまを生きる子どもたちに執筆した柚木さんも、まだまだ学びの途中だという。

「過去のことを思い出すと、自分も差別に加担してしまったなと反省することは山ほどあります。そういったときは当事者の人たちのものを読むようにしています。「あなた、人を踏んでますよ」って指摘されたら、誰だって取り乱しちゃう。けれど『今は勉強中でーす。教えてください!』という気持ちを持っているほうが、意外と次の道が開けてきます。

柚木さんの新刊『マリはすてきじゃない魔女』(エトセトラブックス)。「魔女は自分のための魔法を使ってはいけない」というルールに疑問を感じ、行動を起こす主人公マリがとってもキュート。
今回の取材場所であるエトセトラブックスは、書店兼出版社。女性やフェミニストの声を届ける本を多く出版する。
https://etcbooks.co.jp/
柚木さんの新刊『マリはすてきじゃない魔女』(エトセトラブックス)。「魔女は自分のための魔法を使ってはいけない」というルールに疑問を感じ、行動を起こす主人公マリがとってもキュート。
今回の取材場所であるエトセトラブックスは、書店兼出版社。女性やフェミニストの声を届ける本を多く出版する。
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photo:wakana baba text:marie takada

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