「鎌倉とわたし」前編 器ファンに愛される暮らしの雑貨店〈夏椿〉。新たな拠点に鎌倉の街を選んだワケとは?
器ファンに愛される暮らしの雑貨店〈夏椿〉。今春、この店が鎌倉に移転したことは雑貨好きの間でちょっとしたニュースだった。鎌倉の新たな遺産と呼ぶべき新店へ、新緑に包まれる佐助の谷戸を訪ねた。後編はこちら。
鎌倉駅の西口から徒歩15分ほど。佐助のトンネルを抜け、鳥のさえずりを聞きながら静かな住宅街を進むと、新緑に映える真っ白なのれんが出迎える。そこがこの春、移転したばかりの 〈夏椿〉だ。オープン2カ月余りにして、既に何年も在ったかのように景色になじんでいるのは、戦前築という家屋の風情を壊すことなく、丁寧に手を入れているからだろう。
〈夏椿〉は2009年に店主の恵藤文さんが世田谷の上町で始めた、日本の作家による器や道具を扱う生活雑貨店。広い庭のある日本家屋で9年にわたり営んできた店を、今年3月、鎌倉に移した。恵藤さんはなぜ、新たな拠点に鎌倉の街を選んだのだろうか。
「私はもともと実家が横浜で、鎌倉は家族でよく訪れる場所でした。父のお墓が三浦にあるのですが、お墓参りの帰りに母と食事をしたり、駅前のレンバイ(鎌倉市農協連即売所)で野菜を買ったり…。鎌倉は色んな要素があって楽しい街。実際に生活したらどんな感じだろう、とずっと興味があったんです」。
世田谷の店はもともと期限付きだったため、取り壊しが決まった際に鎌倉界隈で家探しを始めた。実は既に9年前から、鎌倉は候補の一つだったそう。
「そのときはタイミングが合いませんでしたが、今回は運良く3軒目でこの物件と出合って。家自体はだいぶ古くて手を入れる必要があったけど、お庭の気持ちよさに〝ここがいいな〞と直感しました」。
恵藤さんが店を営むうえでの必須条件は、家と自然が共存する環境であること。ここではリビングを床張りにし、サッシにリフォームされていた窓側に以前の店で使っていた建具を嵌はめ、築70余年の家に時代感を合わせた。かたや、家主が丹精して育てた庭はほぼ、そのまま。四季折々の花木が目を楽しませ、その奥は切り立った谷戸へと続く。「ここで色んな企画ができたら楽しそう」と恵藤さんが一目惚れした庭は、家の財産だ。
■後編はこちら。
〈夏椿〉
■0467-84-8632
■神奈川県鎌倉市佐助2-13-15
■11:00~17:00
■月火休(祝は営業、振替休日あり)
■natsutsubaki.com
(Hanako1158号掲載:photo : Kenya Abe text : Yoko Fujimori)