連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。
CASE7 口尾麻美 料理研究家 〈HAN〉店主 LEARN 2024.03.27

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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愛しいものたちに囲まれ、変化し続ける空間。

目黒区の閑静な住宅街に建つマンションの一室をリノベーションし、パートナーと暮らす口尾麻美さん。旅先で買い求める器や道具に囲まれた空間は、年々アップデートし続けている。

金属にガラス、陶器はカラフルなものから素焼きまで、素材も国もバラバラの、好きなものに囲まれた自慢のキッチン。卓上には直近の旅で買い求めたものがずらり。
金属にガラス、陶器はカラフルなものから素焼きまで、素材も国もバラバラの、好きなものに囲まれた自慢のキッチン。卓上には直近の旅で買い求めたものがずらり。

空間を隅々まで埋め尽くすビビッドな色彩、異国のものがまとうエキゾチックな空気。室内からあふれ出んばかりの物量と情報量の多さに圧倒される。世界の民芸品店? いや、口尾麻美さんのアトリエ兼自宅である。
「旅から帰ったばかりだから、いつも以上にものが多くて」

口尾さんの料理のルーツとなる国々を、料理教室の生徒さんたちと巡る旅。10年前に開催したモロッコツアーが大好評で、待望の2回目が実現したのだという。行先はジョージア。口尾さんは、トランジットのトルコにも立ち寄った。

仕舞わない収納で変化する空間を楽しむ。

「帰ってきてしばらくは、旅先で買ったものたちをずらりとテーブルに並べて、眺めて過ごすのが好きなんです。もっとも、うちは基本が〝仕舞わない収納〟なんですけどね」
台所の壁にはフライパンや鍋がぶら下がり、カップやポットを吊るしたアンティークのワインボトルドライヤーは、〝器がなる木〟のようなにぎやかさ。造り付けの棚にも、カラフルな器がぎゅうぎゅうに並んでいる。

前職のアパレルメーカー勤務時代から、商品ディスプレーを考えるのが大好きだったという。もちろん、食べることも。ただし同僚たちが話題にするおしゃれエリアの人気店より、新大久保などにあるディープな各国料理店に足が向いた。1990年代、よく旅をしたパリでは異国の料理が日常にあり、モロッコへ、中東へと興味が広がっていく。料理の仕事を始めてからは、「自分ならこんな料理を食べたい」と、いろんな国の料理を作り、現地へ味を確かめに出かけた。旅先で覚えた味を、器や卓上の小物といった情景も込みで伝えるスタイルは、ごく自然に形成されていったのだという。

東急東横線学芸大学駅のほど近くにある現在の住まいは、結婚を機に購入したマンションだ。築年数は古いが、交通が便利なのに静かなロケーションと、近くに高い建物のない開放感が気に入っているのだという。入居に際し、スケルトンにしてフルリノベーションした。昔ながらのダイニングキッチンと和室を繋げてダイニングキッチンにし、続くリビングと寝室との間の壁は可動式に。壁一面、天井までの高さがある棚を中心に、キッチンの上部やリビングの入口にも棚を作り、フックやハンガーを組み合わせて、器や調理道具、調味料やスパイスの瓶から「変なオブジェ」まで、ぎっしりとディスプレーしている。収納は「見せる、吊る、積むが基本」と、話す。もう一つ、「変えられる」ことも重要。脚と天板をそれぞれ求めたダイニングテーブルは、天板を3回替えて今に至り、器や調味料の一部は、キャスター付きのワゴンに収納し、置き場所を変えて楽しんでいる。入居時はピンクにしたリビングの壁も、ある時期に、黄色に塗り替えた。

築四十余年、4階建てのマンションの3階。もともとは3DKだった物件を一度スケルトンにし、キッチンとリビングダイニングを広く取った1LDKに造り替えた。
築四十余年、4階建てのマンションの3階。もともとは3DKだった物件を一度スケルトンにし、キッチンとリビングダイニングを広く取った1LDKに造り替えた。

料理のレシピ同様、異国の情景がヒントに。

「欲しいものは日本にない」と、口尾さん。海外のインテリア雑誌などで見たビビッドな色づかい、異国のバザールの、天井から床までものであふれたにぎにぎしさが発想のベース。年月をかけて世界のあちこちを旅し、コツコツと買い集めた膨大なものの堆積もあいまって、真似のできない空間になっている。
 2022年12月、学芸大学駅そばに念願の店をオープンした。口尾さんの旅と食の世界を味わう機会が、より多くの人に開かれたのだ。これまで間借りで行ってきた器や道具のマーケットも店で開催できるようになった。料理教室の会場も、自宅から店へ。「料理に合わせて、毎回、器を運んで、持ち帰ってが大変で」と、話す様子はどこか楽しそう。自宅も店も等しく、旅の続きにあるのだ。

旅時間を反芻し味を確かめる日々のごはん。

〈HOME SWEET HOME〉スクランブルエッグ

旅先で食べた料理を作って味わい、レシピへと発展させていく、その繰り返しが日常。今回の旅で念願だった専用のフライパンを手に入れて以来、トルコの朝食の定番、メネメン(スクランブルエッグ)ブームが再燃。レシピはさまざまだが、写真は玉ねぎ、牛ひき肉、フェタチーズで作るシンプルなもの。

ESSENTIAL OF ASAMI KUCHIO

仕舞い込まずに眺めて楽しむ、ディスプレー収納に技アリ。


( WAGON )
自由に動かせるワゴンを活用。
置き場所ひとつで室内のレイアウトが変えられるワゴンを活用。場所を変えるだけで気分が変わり、小さなテーブルと組み合わせることも自在。

ワゴン


( GLASSES )
出窓をショーケースに。
元からあった出窓に内窓を付けて、ガラス食器や小物をディスプレー。光を遮ることがなく、朝から夕方まで、見え方が美しく変化する。

グラス


( SOUVENIR )
旅土産のディスプレー。
旅から戻ってすぐ、買ってきた器や雑貨を並べるテーブル。ギャラリーショップの企画展コーナーのように、時期ごとに景色が変わる。

お土産

photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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