まだまだ先は長いけど、けっこう生きてきた気もする。 碇雪恵「“遅れてきた反抗期”を越えて」 | 連載【Age,35】 # 1

LEARN 2023.09.19

今を生きる35歳の人々は、なにをどんなふうに考えているのか? 今年(2023年)、創刊35年を迎えたHanakoが迫ります。仕事、人間関係、恋愛、親、家族、金銭感覚や人生観の変化......トピックは数限りなし。「35歳」は長い人生の中の一つの区切りで、大胆にステージが変わることもあれば、階段の踊り場のように小休止するスポットなのかも。第一回はその名もずばりな一冊、『35歳からの反抗期入門』を昨年自主制作し出版した、ライターの碇雪恵さんに話を聞きました。

「他責にせず、主体的に生きたいと思うようになりました」

改めて振り返ってみると、30代半ばくらいまでは身の回りの状況が次々と変わっていった時期でした。20代の延長でなんとなく騙し騙しやってきたけれど、うまくいかなくなってきていたんですね。「社会的な価値観に合わせようとしていたけれど、上手くいかなかった」と今では言えるけれど。35歳くらいになった頃、結果としてそれまでの日々を一旦リセットすることになりました。以降、自分の抱えてきた問題に向き合おうという気持ちに。その過程ではこれまで信じてきた価値観を否定するような心の動きもありました。言ってみれば「遅れてきた反抗期」みたいだったなと思っています。

 これは本当にたまたまなのですが、35歳になる前の日から日記を付け始めたんです。スマホアプリを使って、誰に見せるでもない自分だけのものを。誰かに言われて引っかかった言葉やうれしかった言葉を長々書いた日もあれば、食べたものや読んだ本を書いただけのものも。「年収500万円ほしい」だとか「経済力のあるパートナーがほしい」だとか、今ではあまり考えないようなことも書いていましたね。当時は「自分がどうしたいか」がわかっていなかったから、とりあえず経済的な余裕さえあれば、といった気分だったのかもしれません。

自分だけの日記は、スマホアプリの「My日記」に残している。ベッドに寝転んで打ち込むくらいの気楽さで。
自分だけの日記は、スマホアプリの「My日記」に残している。ベッドに寝転んで打ち込むくらいの気楽さで。

社会の価値観から遠ざかって。

 自分自身と向き合うようになって、例えば私の場合は、どうやらアダルトチルドレンと呼ばれるような性質が自分にある気がしてゲシュタルトセラピーや自助グループに出向いてみたり。小川たまかさんの本『「ほとんど」ないことにされている側から見た社会の話を。」(タバブックス)を読んで、フェミニズムに触れるようになったのも35歳になる年でした。フェミニズムそのものは知ってはいたけれど、正直遠ざけていたんです。「男性社会を降りる」ということは、ひとつには、新卒で入社した会社で頑張っていた過去の自分を否定することのような気がしたし、なにより慣れた場を降りることがしんどい。山登りも下山にこそ体力を使うというじゃないですか? それに新たな社会を目指して登っていくのも大変だなって。ようやくこの本を手に取ったのも、仕事上の必要があったからでした。でも、読んだことで「フェミニズムってこんなに身近なことだったんだ」と気が付いたんです。会社員時代を思い返して、言いたいことも言いにくい抑圧された状況に素直に怒りを覚えもしました。

 フェミニズムはそれまでの価値観を否定するものでもあったけど、新しく自分の足で立つためのたくさんヒントをくれるものでもありました。自分の生き方を再構成するのは実際のところ不安だったし、先が見えない気分にもなりました。だけど、その時々の葛藤や戸惑いを言葉にして記録したことが、自分の人生を先に進めたような気がします。さらには、大いに悩んでいる最中に書いたブログを一冊にまとめて、いろんな人に読んでもらったことで、その時のことはお焚き上げできた感覚があります。

碇雪恵『35歳からの反抗期入門』¥1,210 (書店、オンラインショップで発売中)
碇雪恵『35歳からの反抗期入門』¥1,210 (書店、オンラインショップで発売中)

『35歳からの反抗期入門』碇雪恵/著
2019年、碇さんが35歳のときにはじめたブログの記事を再構成した1冊。仕事やフェミニズム、当時公開していた映画などについて触れた21のエッセイ集だ。もちろんスマホで付けている日記とは全くの別物。ライターとしては自分以外の対象を取り上げてその魅力を伝えるのが仕事だけど、自分自身の心の中の動きを書きたいし読んでほしい、という欲求が芽生えて一冊にまとめたそう。

illustratiion_Ryo Ishibashi edit&text_Ryota Mukai

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