JAXA’s × Hanakoスペシャル対談 「宇宙のこと」を伝えるということ。 LEARN 2022.02.28

2021年は宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が13年ぶりに宇宙飛行士の候補者の募集をスタートし、海外では民間人による宇宙旅行が話題になるなど、「宇宙旅行元年」と呼ばれた年でした。すごく遠い場所であった宇宙が、そう遠くはない時代が来ています。JAXAの機関紙『JAXA's(ジャクサス)』を製作するJAXA広報部部長・佐々木薫さんと、マガジンハウス『Hanako』発行人で『BRUTUS』編集長の田島朗が、宇宙のこと、仕事のことについて話しました。

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佐々木 薫さん(以下、佐々木):田島さんは当時編集長として『Hanako』の宇宙特集(*1)を企画され、宇宙にもご興味があると聞きました。そのきっかけは何だったんですか?
田島 朗(以下、田島):1986年のハレー彗星(*2)ブームですかね。そこから宇宙や星について調べるようになり、純粋に宇宙に行ってみたいなと感じるようになりました。佐々木さんが初めて宇宙を感じたきっかけは何でしたか?

佐々木:小学4年生のときに、理科の授業で月や星を観察したのがはじまりです。そのときに初めて「宇宙」の存在を意識しました。高校生では「天文気象部」という部活に入り、大学時代は科学館で地域の子どもたちと一緒に望遠鏡で星の観察をするボランティア活動をしていました。私にとって宇宙は趣味のひとつだったのかもしれません。

田島:趣味といえば、私は大学時代、まだ見ぬ未知なる世界への憧れがフツフツと湧き、そこから無類の旅好きとなりました。これまでに120か国以上旅をしています。皆既日食を見に行くのとか、わくわくしたなあ。

佐々木:120以上とはすごいですね! 皆既日食は実は私も趣味のひとつなんです。太陽が空に出ている昼間は明るいという日常が、月が太陽を覆い隠すことで暗くなる光景…この非日常的な瞬間を実際に見て肌で感じるのが好きで。皆既日食は、地球上でも確率的に一般的な観光ツアーでは行かない地域で好条件で見られるチャンスが多いのですが、これまでにトルコ、マダガスカル、モンゴル、屋久島などで見ました。

田島:私も過去3回見に行きましたよ。ハンガリー、南アフリカ、トカラ列島です。観測場所は違えど、同じタイミングで皆既日食を見る旅をしていたんですね! 

佐々木:田島さんがトカラ列島で皆既日食を見ていたとき、私は屋久島だったと思うのですが、あいにく雨で見られず…。だけど、まさかこんな共通項があるとは驚きです。

田島:本当ですね。ところで、佐々木さんは「宇宙」関係の仕事を志望されていたのですか?

佐々木:実はそんなことなくて、元々は公務員志望でした。「宇宙」に関する職業はエンジニアかサイエンティストだけだと思い込んでいたので、全く考えていませんでした。ところが、たまたま見かけた受験情報誌でJAXAの前身である宇宙開発事業団(NASDA)が文系職員を募集しているのを見つけて応募したんです。田島さんは、それだけ宇宙がお好きなら、お仕事を宇宙と結びつけなかったんですか?

田島:私は編集者になったときに「南極と宇宙に出張する」という夢があったんです。おかげさまで「南極に行く」という夢は『BRUTUS』の取材で叶えることができましたが、宇宙はまだ。その夢を叶えるまで、編集者はやめないつもりです(笑)。

*1 『Hanako』宇宙特集:2021年末に発売した1204号の第二特集。「ハナコの宇宙ライフスタイルブック」と題して、宇宙の今と進化を女性目線で伝えた。 *2 ハレー彗星:地球に接近する彗星のひとつで周期は約75年。次に接近するのは2061年の予定。
JAXAが発行している機関紙『JAXA’s』(右)と『Hanako』1204号で宇宙特集(左)。どちらも宇宙の今をわかりやすく伝えている。
JAXAが発行している機関紙『JAXA’s』(右)と『Hanako』1204号で宇宙特集(左)。どちらも宇宙の今をわかりやすく伝えている。

宇宙を伝える面白さと難しさ。

佐々木:20~30代の女性に宇宙についてアンケートを取ると、「怖い」という意識をもっている方が結構いらっしゃるんです。彼女たちにとって、何がそうさせているのかを模索している中、『Hanako』で「宇宙」について取り上げていただき、ありがとうございました! 

田島:率直にいかがでしたか?

佐々木:私たちが、ターゲットとしたい世代の客観的な意見が聞けたらいいなと思いながらページをめくりました。特集のボリューム感もよく、インタビューに登場されている方のエピソードが自分ごと化しやすいと感じました。宇宙に関するさまざまな仕事、そしてそれらに携わる女性たちは「宇宙が好き」という思いを突き詰めて、発信されているのがよかったです。『Hanako』を読んで、宇宙に興味をもってくれたり、もっと身近なものだと感じてくれたらありがたいなと思いました。田島さんは『JAXA’s』(*3)をご覧になっていかがですか?

*3 『JAXA’s』:JAXAが発行する機関紙。「宇宙と私たちをつなぐコミュニティメディア」をキャッチコピーに、タブロイド版とWEB版を展開している。 https://fanfun.jaxa.jp/jaxas/
佐々木 薫/大学で法律を学んだ後、宇宙開発事業団(NASDA)に入職。最初に配属となった部署で広報誌の作成やイベント企画や日本人初スペースシャトル搭乗ミッション時のメディア対応を担当。その後予算や国際調整、宇宙教育センターなど、さまざまな部署を経験。2021年4月から広報部部長職。
佐々木 薫/大学で法律を学んだ後、宇宙開発事業団(NASDA)に入職。最初に配属となった部署で広報誌の作成やイベント企画や日本人初スペースシャトル搭乗ミッション時のメディア対応を担当。その後予算や国際調整、宇宙教育センターなど、さまざまな部署を経験。2021年4月から広報部部長職。

田島:JAXAって、宇宙をとてもわかりやすく発信しているんだなと驚きを通りこして嫉妬しました。僕が創りたかったなって(笑)。宇宙という分野は理系というイメージが強く、ハードルが高いなと感じる方がまだ多いと思うんです。そこを非常に柔らかく伝えているな、と。また、宇宙飛行士の方々の人としての魅力がすごく伝わりました。このようなコンテンツにされたのはどのような意図があったのですか?

佐々木:実際に宇宙ではロケットとか衛星とか「機械」が働いているわけですが、どういう人間たちが何を考えてその機械に「魂を込めた」のか。宇宙への思いや心意気を伝えることでみなさんにより共感いただけるのではと考えています。特に若手寄りの職員のオンやオフの姿を通じて伝えることで広く多くの人に「宇宙」について知ってもらい、「宇宙って、カッコイイじゃん」と、感じていただけたらなと考えています。田島さんはご自身で宇宙特集をされて、何か変化はありましたか?

田島僕自身は元から宇宙に興味があったので特別な変化はなかったのですが、担当スタッフの心境がみるみる変化しました。特集をすると決めたとき、編集メンバーに「宇宙のこと、どう思う?」と聞いてみたんです。すると、「怖い」「私たちには何も関係がないのでは」という回答でした。編集長として最終的にこの特集で伝えたいメッセージのみを提案し、スタッフがそれぞれ「宇宙」にまつわることについて調べていくと、「宇宙のことは一部の人たちだけのこと」という諦観から「最先端の技術から自分たちの生活につながる学びがたくさんある」という驚きへと変わってきました。

田島 朗/1997年、株式会社マガジンハウスに入社。翌1998年から約19年『BRUTUS』の編集に携わり、2016年から『Hanako』の編集長に。2018年には同誌を隔週誌から月刊誌/全国誌へとリニューアル、紙の雑誌という枠組みにとらわれず、デジタルメディア・イベント・読者組織・商品開発などを全てエディットするメディアへと生まれ変わらせた。2022年4月1日発売号より『BRUTUS』編集長に。旅好きで、今までに訪れた国は120か国以上。
田島 朗/1997年、株式会社マガジンハウスに入社。翌1998年から約19年『BRUTUS』の編集に携わり、2016年から『Hanako』の編集長に。2018年には同誌を隔週誌から月刊誌/全国誌へとリニューアル、紙の雑誌という枠組みにとらわれず、デジタルメディア・イベント・読者組織・商品開発などを全てエディットするメディアへと生まれ変わらせた。2022年4月1日発売号より『BRUTUS』編集長に。旅好きで、今までに訪れた国は120か国以上。

佐々木:実は、私も『Hanako』を読んで、20~30代の女性は宇宙にあまり興味がないという先入観を、私自身がもっていたのかもしれない、こちらを向く眼差しを認識できていなかっただけと感じたところがありました。

田島:アニメ『美少女戦士セーラームーン』を子どものときに観たことで宇宙に興味をもち、後にJAXAに入った方もいらっしゃいましたね。特集を進めていく中で、女性と宇宙にまつわる情報がどんどんと集まってきたのは、非常に興味深かったです。

伝える仕事で大切にしていること。

――広報と編集者という“伝える”という内容は共通するものの、そのアプローチ方法は違います。それぞれに大切にされていることはなんですか?

田島:編集者は読者が「もっと知りたい」と思う願いに応えるのはもちろんのこと、作り手として読者に伝えたいことを実はたくさん抱えています。そのテーマを世の中の流れを汲んで、絶妙なタイミングで出すようにしています。「宇宙」に関していえば、今回の特集以前から「ハナコラボ 宇宙部」としての活動も行ってきました。そんな中、JAXAの宇宙飛行士募集が発表され、女性ももちろん応募可能、しかも間口が大幅に広がるということで、満を持してのタイミングでやっと「宇宙特集」を出すことができました。『Hanako』は34年前、東京のお出かけ雑誌として創刊し、吉祥寺や自由が丘など、お出かけ先を見つけてきましたが、今回の「宇宙特集」は、いわば「最新のお出かけ先の注目場所」として、Hanakoらしく宇宙の魅力を伝えようという切り口で考えていきました。佐々木さんは、広報として大切にしていることはありますか?

佐々木:宇宙がとてつもなく広いように、私たちが進めるひとつひとつのプロジェクトは一朝一夕に実施できるものではなく、10年越し、場合によっては30年計画となることもあります。30年なんていうと、入社してすぐに始めてもミッション達成時にはもう定年かというぐらいの長さです。そのような宇宙航空分野の研究開発は、ひとつひとつ着実に未来を見据えていなければなりません。今日明日すぐに役に立つことではないかもしれない、だけど、20年後や30年後といった近い未来を想像し、一部の人だけではなく、地球上に住む人々全員が享受できる安心や安全づくり、発展を目指すものだと伝えるように意識しています。また、これらの研究開発はJAXAだけではなく、多くの企業、研究者の方々が一丸となって進めています。もはや宇宙は文系理系といった分野に関係ない世界。多くの人に宇宙に興味をもってもらいたいし、それぞれの得意分野で一緒に宇宙に携わっていこうということが伝わればうれしいです。それこそ、今回の『Hanako』のように取り上げてもらえることもうれしいですね。

田島:『Hanako』は昔取った杵柄でお出かけ雑誌のイメージが強いのですが、現在はSDGsや防災、自分を高める学びなど、知的好奇心を刺激するライフスタイルメディアに進化しています。そういう意味でも、「宇宙」というキーワードはマッチしていますし、もし今後、若い世代の女性宇宙飛行士が誕生したら、媒体としては放っておくわけにはいけません。大々的に宇宙特集をしたいですね。さすがに僕が宇宙に取材に行けるのはまだまだ先だとは思いますが、雑誌だからできる特集はあるだろうし、読者にもささると思うんです。今後は、JAXAさんとマガジンハウスの雑誌が組んで、多くの人を惹きつけるコンテンツを作れたらなと、夢が広がります。

佐々木:宇宙ということをテーマに、人々が繋がり集まってくるのは、私たちのひとつの目標でもあります。私たちも、既成概念にとらわれず、どんどん新しいことにチャレンジしなければなりません。面白い企画があれば、ぜひご提案してください! 田島さんの意気込みと同じくらい、私たちの意気込みも大きいですよ。

photo:Keiko Nakajima hair & make:TOYO text:Mimi Odahara

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