ランチで憧れのカウンターデビュー  大銀座から始まる東京小旅行
#お寿司、おまかせで! (前編) FOOD 2023.05.05

銀座といえば寿司。2022年の後半頃から、銀座に寿司店の出店が増えている。それは街に活気が戻ってきた明るい兆しと言えるかも。新店舗の一つの傾向は、カウンター席中心の小体な店構えで、ランチにお値ごろで満足度の高い「おまかせ握り」を出すこと。ちらし寿司もいいけれど、大将と会話をしながら「おまかせ」を味わうのも大人の楽しみ。コース8,000円台までの、通える5軒を厳選!

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銀座 すし嘉(よし) はなれ

お昼の寿司快食(7,700円)

先付2品の後に登場する握り10貫。この日はアジ、赤身のづけ、かすご鯛、中トロ、コハダ、白イカ、桜鯛、初鰹、白エビ、穴子。そして玉子焼、小丼、お椀。江戸前のコハダは白酢で20分ほど締めてさっぱりと。鹿児島の初鰹が春を告げる。鮮やかで艶のある黄身の「蘭王卵」を使った玉子焼は、美しい山吹色!

粋な一品から始まる充実握り。
昨年10月に登場したこの店は、その名の通り、華やかな歓楽街の銀座6丁目に店を構える〈銀座 すし嘉〉の2店舗目。テーブル席が中心の本店に対し、こちらはもっとカウンターに特化した構成だ。店は大将の細川善康さんと、両店舗の店長を務める津田信行さんの2トップが取り仕切る。
 
和食歴8年、寿司歴12年の大将・細川さんは、京都屈指の料亭で日本料理の経験を積んだ後、寿司の道に転じて腕を磨いた。だから、はしりの素材を使った先付や定番の茶碗蒸しなど、客の目の前で仕上げる端正な一品料理が〈はなれ〉の持ち味になっている。

シャリは香りのよさとほどよい酸味を追求し〈横井醸造〉の2種の赤酢をブレンド。これを硬めに炊いた山形の「ひとめぼれ」に合わせる。「握りをつまみに飲める」のがコンセプトの一つで、12‌gほどの小ぶりなシャリも酒のアテにいい塩梅だ。柔らかな身が自慢の穴子には、数十本の穴子を炊いたつゆを半日かけて煮詰めて作るツメをひと塗り。口中ではかなく消え去る身とともに艶(つや)やかなツメの甘みが余韻を残す。

「目指すのは、また来たいと思う店」と大将の細川さん。手の届く価格帯に加え、2人の接客の巧みさも店の大きな魅力。緊張しがちなカウンターに和やかな空気が流れるこんな店こそ、銀座の寿司入門にふさわしい。

銀座 鮨 佑(すし ゆう)

おまかせコース「椿」(7,500円)

先付に続く、握り10貫。本日はヒラメ、シマアジ、かすご鯛、〈やま幸〉の赤身と中トロ(この日は銚子産)、あおりイカ、コハダ、平貝、アジ、穴子。さらにかんぴょう巻、玉子焼。芝海老のすり身と卵をゆっくりと焼き上げる玉子焼は、焼きプリンのようにきめ細かな舌触り。味噌汁は赤味噌と白味噌の合わせで。

名店仕込みの江戸前を気軽に。
檜の一枚板のカウンターにピンスポットが照らされ、朝鮮唐津の付け台がしっとりと輝きを放つ。銀座の寿司店らしい重厚感漂う佇まいに一瞬気圧されそうになるけれど、実はランチは意外なほどお値打ちなのだ。

店主の手塚由裕さんは寿司歴22年。銀座の名門〈久兵衛〉で研鑽を積み、ミシュランの星を持つ〈西麻布 拓〉などを経て昨年11月、この店の大将となった。8席のカウンターを一人で手際よく回す仕事ぶりは、「〈久兵衛〉時代の膨大な仕込み量と客の回転数」で培われたものだ。昼で一番の人気は7500円の「椿」コース。3万円~という夜のおまかせを想定して仕入れるネタを昼も並行して使うため、「確かにお得感があるはず」と手塚さん。それゆえ20代、30代の若い客層も多いという。

約20分塩をして、10分ほどサッと白酢で締めたコハダの艶やかさ。豊洲のマグロ専門仲卸の名店〈やま幸〉で仕入れる赤身や中トロの豊潤なおいしさも握りの主役だ。お酒は握りに合う各地の純米や純米吟醸を揃えるが、まずは定番に置くという、仙台の老舗酒造〈勝山〉の一本を合わせたい。
 
昨今、目新しい素材使いやパフォーマンスをする店も増えているけれど、「自分の持ち味はやはり、江戸前を継承していくこと」と手塚さん。銀座に流れる寿司文化を伝える、新たな一軒。

photo : Shin-ichi Yokoyama text : Yoko Fujimori

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