パン屋さんを目的地にドライブも! 宇都宮〈麦ぺこ〉&〈パニフィカシオンユー〉/池田浩明のまだ見ぬパン屋さんへ。 FOOD 2023.01.22

東京近郊の町のパン屋さんの近年の充実ぶりがすごい。宇都宮には栃木のおいしいものでパンを作るお店が増加中。目的地をパン屋さんにしたドライブも楽しいものだ。パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」からお届け。

1. 〈麦ぺこ〉奇想天外なアイデアが明日のパンシーンを作る。

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東京の名店〈365日〉からまたひとり気鋭の職人が巣立った。荒井章吾(あらいしょうご)さんが自らの店をオープンさせたのは郷里の栃木・宇都宮。幹線道路沿いの大型の店舗、青空をバックに高く掲げた「パン」と大書した看板が、目にまぶしかった。

栃木産の食材を先端的な製法でパンにする。4月のオープンから連日行列ができる日々がつづいた。
「人と同じことはやりたくないじゃないですか」
栃木産とちおとめでいちご大福をわざわざ自家製し、クロワッサン生地にのせたデニッシュには驚かされた。荒井さんはパティスリーでも修業経験があり、ケーキのようなきらびやかなパンを得意とする。だがもっと人気のパンがある。
「栃木の人は普通のパンが好きなんです」
どこにでもあるパンだがどこにもない。それが栃木の人の琴線に触れたようだ。塩パンは、ドイツパンのクレッセントのように、細長く、カーブを描いている。先端はカリカリ、太いところはむぎゅー。中からバターがじゅわー。岩塩ひりり。単純なパンだが、矢継ぎ早の感動連鎖。

むぎまる151円。コロンとシンプルなロールパン。
むぎまる151円。コロンとシンプルなロールパン。

「むぎまる」はまん丸揚げ焼きドーナツ。表面サクッ、中身はもっちりかつふるるんと揺らいで肩透かしを食らわし、しゅるっと溶ける不思議食感。聞けば、片栗粉を40%配合と。そんなの普通は思いつかない。
「何度も試作します。シンプルなものほどむずかしい。奥が深いです」
まだ30代のパン職人が宇都宮のパンシーンに新風を吹き込む。いや、宇都宮から日本のパンシーンを塗り替える意気込みだ。

〈麦ぺこ〉について

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住所:栃木県宇都宮市若草5-13-10 │ 地図
電話番号:028-305-1143
営業時間:10:00〜18:00(土日8:30〜17:00)
定休日:月、火曜ほか不定休
2022年4月オープン。栃木県産素材を積極的に使用、無添加で具材まで自家製。

2. 〈パニフィカシオンユー〉才人のパンは、一度食べたらやみつきに。

宇都宮に才人がいる。氏家由二(うじいえゆうじ)さん。〈パニフィカシオンユー〉のオーナーシェフだ。小さな店だが、すごい熱気。店の前にいつも行列。中に入ると、天井からドライフラワー、あえて不揃いのアンティークの机に、魅力的な顔つきのパンがいろいろ。期待値はマックスに高まる。

デニッシュのざくざく感とバターの濃さ。カンパーニュの超越的な軽さと口溶けのよさと潤い。バゲットの歯切れのよさと味わい深さ…とにかく、「おいしさは口溶けが決める」という氏家さんの信条通り、どのパンもしゅわーっとマッハで溶けていく。ハード系でさえそうなのだから面食らってしまう。
才人たるゆえんは、アドリブ力だ。最新テクニックや新しい食材はすぐ試し自分のものに。毎日農産物直売所に通い、その日見た野菜がすぐサンドイッチの具材になる。ちょっと食べたことのないような、新しいおいしさで。
「実験したい。いろんなことにチャレンジしたい。僕は楽しいんですけど、新しいパンが急に出てきて、スタッフはパニックです(笑)」
宇都宮の実験室が生み出しつづける新たな衝撃こそ、行列を生み出す原動力だ。

〈パニフィカシオンユー〉について

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住所:栃木県宇都宮市双葉2-9-35 ニュー双葉マンション1号棟 1F │ 地図
TEL:028-658-7120
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日、月、火曜 ※予約不可
店名は自身の名前からとったもの。新たな素材の組み合わせに出会える。

■パンラボblog:panlabo.jugem.jp

(Hanako1216号掲載/photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda)

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