「何でもやってみることが大事。やりながら視界はひらけてくる」
俳優・瀬戸かほの初プロデュース映画『きまぐれ』制作日誌 CULTURE 2024.03.01

みなさまこんにちは、瀬戸かほと申します。
俳優・モデルとして活動していて、近年の劇場公開作は『この日々が凪いだら』や、『クレマチスの窓辺』、『ストレージマン』などです。出演する側として動いてきた私ですが、ひょんなことから映画のプロデュースをすることになりました。
はじめてのことだらけでドキドキ・ヒヤヒヤの連続でしたが、多くの方のご協力により短編映画『きまぐれ』は無事完成し、3月15日より下北沢のK2にて公開です。
失敗するのが怖くて、挑戦することに尻込みしていた私ですが、今回は気づいたら知らないことだらけの世界に足を踏み入れていました。
大変なこともあったけど、やってみてよかったと今は心の底から思っています。

私の無謀とも言えるこの挑戦の記録が、どなたかの参考や励ましになれば嬉しいです。
時系列でその軌跡を辿ってみます。
(上の写真・Tetsuya Yamakawa)

Production Diary

映画『きまぐれ』

俳優・モデルとして活動する瀬戸かほの初プロデュース作品。自身で主演と原案もつとめる。家族の物語である本作は、瀬戸かほ、内田周作、石本径代、櫻井成美が最後の家族旅行をする一家を演じ、 二見悠とミネオショウが旅先の街で出会う人物を演じる。いずれも瀬戸が共演を熱望した豊かで個性的な俳優陣が揃った。監督と脚本は、2022年に劇場公開された瀬戸かほ主演作『クレマチスの窓辺』以来のタッグを務めた永岡俊幸。25 分という短編映画ながら、色彩豊かな映像と個性的な登場人物たちが織り成す充実した作品に仕上がっている。(3月15日(金)より東京・下北沢にあるシモキタ – エキマエ – シネマ K2ほか全国順次公開)

2022.10 台本を書いてみた

その秋、私は『渡る世間は鬼ばかり』に激ハマりしていた。今更のタイミングで見始めたので、同じ熱量で語れる人がいなくてむずむずしていたのを覚えている。
その影響から家族モノへの憧れの気持ちがおさえられず勢いで『家族が大喧嘩して解散する話』を書いた。
私はかなり飽きっぽいので一度止まったらもう二度とやらない気がして、勢いで進めていく。矛盾点はあるかもしれないけど、なんとか書き終えた。
書き切れたことが嬉しい!
満足感が大きくて、今後の展開については特に考えていなかった。

同じ頃『クレマチスの窓辺』の監督である永岡さんと上映・登壇のため各地の劇場を回る中で、さまざまな感想と応援の言葉をいただいた。その度に背筋が伸びたし、もっと頑張りたいと思った。しかし、頑張り方がわからない。前向きな気持ちはあるものの、一歩踏み出せず日常に戻っている気がして歯痒かった。

ある上映の夜に、永岡さんが「クレマチスの窓辺は僕の遺作になるかも」と言った。
びっくりした。それから寂しくなって、ちょっとムカついた。
なんでそんなこと言うの?と思ったし、梯子を外されたような気がしてクラクラした。
ちょっと待ってくださいよと、引き留めたい一心で先日書いたばかりの台本をダシに彼を映画作りに誘ってしまう。

人数が多くて掛け合いが楽しかったシーン!ワンカットのため、最も緊張した場面でもある
人数が多くて掛け合いが楽しかったシーン!ワンカットのため、最も緊張した場面でもある

2023.1 映画『きまぐれ』制作決定

数日後。
永岡さん、あんまり乗り気じゃなかったなあ。私はすでに後悔し始めている。
勢いで誘っちゃったけど、永岡さん困っていたし、何もわからないし。
そもそもこの映画はいくらかかるの?
ひとまず自分が出せそうな大きな金額を言ってみるか。
「お金、このくらいであれば出せそうです」送信。
直接的な答えの代わりに、「八王子Short Film映画祭は企画が通れば助成金があるみたいです」と返信があった。
なるほど、私のお金じゃ予算足りないらしい。
話し合って、企画を映画祭に提出することに決める。
私の台本を元に永岡さんがプロットを書き直して企画書を作ってくれたので見せてもらった。ちゃんとした企画としてそこに在る感じがなんともまぶしい!
彼がこの作品に対して少しずつ前向きになってくれていることと、映画を作れるかもしれないチャンスにワクワクした。
もし企画が通らなかったらこの映画を作るのは諦めよう。
来年の自分の方針を映画祭の結果に委ねて、年末を過ごす。

1月に永岡さんから「八王子、通りました」と連絡が来て、頑張らねばと気合が入る。
…それで、私何すればいい?

2023.3 連絡、緊張する

私のやるべきことは各所への連絡だった。
第一関門は各事務所への出演依頼メール…!
永岡さんと手分けをして連絡をすることに。原案を書いている段階で思い浮かべていた面々だったので、どうしても出演してほしかった。今までいただいたオファーのメールを参考にする。この文章は失礼じゃないか、熱意を伝えられているか、誤字脱字の確認を何回もした。言葉の意味一つ一つを検索した。返信ひとつに心臓がバクバクした。
他にも撮影場所の許可取り、レンタカーの手配、宿泊地など様々な連絡をした。鞄や服のポケットからスマホを取り出すのも面倒になって肩から下げる紐付きのスマホケースを買った。いつでもすぐに連絡に対応できるようになった!冗談抜きで個人的2023年ベストバイだと思っている。

岩田家の次女役・櫻井さんと、フラメンコの先生役の二見さん。撮影当日、講師の方のご厚意によりフラメンコの基礎を教えていただいた
岩田家の次女役・櫻井さんと、フラメンコの先生役の二見さん。撮影当日、講師の方のご厚意によりフラメンコの基礎を教えていただいた

2023.4 クラウドファンディングに挑戦

初めに自分がお金を出すと言った流れでプロデュースをすることになったものの、何をすればいいのかわからない。お世話になっているプロデューサーに連絡をして、相談に乗っていただくことに。全てが金言のように感じ、メモをした。
助成金と自分の出資を足してもまだまだお金が足りないことを自覚し、納得のいく作品にするためにクラウドファンディングの実施を決める。
インスタライブを配信したり、ポストカードを配布したり、許可を得て他作品の舞台挨拶登壇時に『きまぐれ』のクラファン告知をした。ご協力いただいた方々に頭が下がる思いだった。ありがたいことにクラウドファンディングは初日で目標金額を達成した。ひとりひとりの応援の気持ちが嬉しくて、リターンには含めていなかったけど支援者全員にそれぞれお礼のメッセージを送ってしまった。この作品の完成を待ってくれている人がこんなにいる!と思うと感謝の気持ちでいっぱいになった。関わってくれた人の期待を裏切りたくない。

2023.5 問題山積み

台本、衣装、クラファン、撮影スケジュール、ロケ場所、宿泊場所などさまざまなところから問題が発生する。そしてその問題の多くは予算の少なさとつながっていた。
監督の要望に全部応えたいけど、そうするとお金がいくらあっても足りなくなる。いつも予算のことを考えて胃がキリキリした。譲れるところ、譲れないところの話し合いが続いていく。

自分の力じゃ解決できない問題もあった。天気のこと!
人件費や出演料、宿泊費を考えると撮影日数を絞らざるを得ないけど、撮影時期は梅雨真っ只中。外撮影で雨が降った場合や、シーンの前後がつながらなくなる可能性も考えなければならない。対策をしつつ、晴れを祈る。

途中、決断を迫られる機会が多いのに疲れて、誰かに全てを決めてもらいたくなってきた。
何かを選ぶたびに責任という岩を一つ一つ背負っていく感じが苦しい。
そのうち連絡が来るということ自体が嫌になり、通知を切ってスマホゲームに熱中し、人生初の課金をした日もあった。

完全に煮詰まったところで主演作が全州国際映画祭で上映されるとのことで初めて韓国へ。
『きまぐれ』の問題を引きずったまま、そこに緊張も合わさってどうなることやらと思った。
日本での舞台挨拶登壇もいつも緊張するのに…!
トークショーの時間になる。客席を確認したところ、お客様のほとんどが学生から同世代くらいであることが印象的だった。Q&Aでは何人も挙手してくれた。映画から何かを感じようとする姿勢も、理解できないと感じた部分を掘り下げて考えて自分の中で解釈して言葉にして伝えてくれることも、トークショーの後、何人か話しかけてくれたことも嬉しくて自身の拙い英語や翻訳ツールを使って会話をした。
映画が言語の壁を超えてコミュニケーションのツールになっている!

映画祭の閉会式で公開された映画を観たとき、韓国語のセリフなので何を言っているのかはわからなかったけど、なぜだか今までで一番すんなり自分の中に入ってきた。
仕草や目線、動きの重要性を感じて、シーンの意図と登場人物の役割について想いをはせる。
自分なりに何かが掴めた感じがした。もしかして『きまぐれ』制作を通して、視点が変わったのかもしれない。頑張ろうという気持ちを土産に帰国。
プロデューサーとして良い作品を作りたいとすっかり前向きになっている自分、俳優として今までと違うアプローチができるかもしれないとワクワクしている自分に気づいた。
心機一転、撮影の準備を進めていく。

撮影初日の朝の様子。晴れて本当に良かった。こういうふとした瞬間の写真っていいなあ、としみじみ。写真・Tetsuya Yamakawa
撮影初日の朝の様子。晴れて本当に良かった。こういうふとした瞬間の写真っていいなあ、としみじみ。写真・Tetsuya Yamakawa

2023.6 撮影前日・当日

撮影前日は雨!当日雨天だった場合を考えて、出演者全員の小道具用傘とスーツケースを引いてロケ地へ向かった。撮影は2日間。予算の都合上、追加撮影をしないと決断した責任がのしかかる。
絶対に晴れてほしい、そしてうまくいきますように。
撮影日の朝に見た夢は現場が押しすぎて、各事務所に送る謝罪&追加撮影依頼の内容と膨れ上がった予算を考えて辛い自分だった。最悪!ただ、悪夢のおかげで寝坊せず済んだ。
撮影中は目まぐるしかった。自分の演技のことよりも現場の進行に意識がいってしまい、お芝居の面で迷惑をかけてしまわないか不安だったけど、力みすぎずにリラックスした状態でお芝居に臨むことができたのが正直かなり意外だった。今まで自分で自分を縛り付けていたのかもしれないと気づく。無事撮影が終わり、安堵。入眠時にアラームかけないで眠れるのって最高。泥のように眠る。

2023.12 初上映〜その後のこと

撮影が終わって二週間も経たないうちに永岡さんからOKカットを繋げたものが届いた。
バラバラに撮ったものが、一本の形になっている!すでにちょっと感動。
編集関連は永岡さんにお任せして、こちらは清算作業、タイトルロゴの依頼や、クラファンのリターンであるエンドクレジットに記載する名前のリスト整理を進めていく。
クレジットの確認が一番神経を使った。念入りに確認しているはずなのに、少し空けてもう一度確認するとミスがあったりして、全く自分を信用できない。

本編と同時に予告編の編集も進められた。
私は予告編そのものが好きで、気持ち良いテンポ感、グッとくる決めのカットにクレジットが載っているかっこよさにジーンとくる。『きまぐれ』の予告編が上がってきたとき、求めていた全ての要素が含まれていてテンションが上がった。大変魅力的なので、ぜひご覧いただきたい。
個人的にはオッ!と感じるポイントでいちいち止めて、好きな部分を誰かに解説したいくらい気に入っている。

そして、無事『きまぐれ』が完成!!八王子Short Film映画祭で初上映。

自分の作品が観てくれる人にどう映るのか気になる。責任を感じて、緊張した。食べ物が喉を通らない。初上映のとき、監督やプロデューサーはこんな気持ちなんだろうか。
『きまぐれ』は審査委員特別賞を受賞した。今までの努力が報われた感じが嬉しかった。作品を観た母が、「いい作品だね、永岡さんとやってよかったね」と言ってくれたことも嬉しかった。作品を一人でも多くの人に届けるため、上映してくれる劇場を探し始める。

ありがたいことに、東京のシモキタ – エキマエ – シネマ K2にて上映が決定した。
宣伝を永岡さんと手分けしながら手探りに進めていく中で限界を感じて、俳優仲間であり、プロデューサーとして先輩の里内伽奈さんに相談をした。
親身に話を聞いてくれて、助けてくれた。会話の中で、彼女自身がプロデュース・脚本・主演した作品のことを「我が子のよう」だと言っていて電撃が走った。わかる!

そして。再び、先日の関係者試写会で『きまぐれ』を観て、おかしな作品だと思った。
わかる!とわからない!を行ったり来たりした。
完全に私の想定を超えていて面白かった。誰かと作品を作るって、こういうことなのかもしれない。映画を作ってよかった。

映画『きまぐれ』は私にとっても、岩田家にとっても忘れられない旅になりました。彼らの最後の家族旅行の行き着く先を、一緒に見届けてほしいです。
下北沢K2にて3/15(金)より上映です。劇場でお待ちしています。

それぞれの思いを胸に、目的地へ向かう岩田家。この物語の顛末やいかに?
それぞれの思いを胸に、目的地へ向かう岩田家。この物語の顛末やいかに?
text_Kaho Seto

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