いま、レポーターズが発信したいこと。 あなたの意思がいのちを救う。今知っておくべき「臓器移植」のこと。

SUSTAINABLE 2021.11.29

読者組織・ハナコラボの中から、SDGsに感度の高いメンバーで結成した、SDGsレポーターズ。Hanako.tokyoでは約1年にわたり、彼女たちが興味・関心を抱く企業やアイテムの取材を行ってきました。1年の取材を通し、興味がどんどん広がっている4人。いま、ハナコラボSDGsレポーターズが本誌で伝えたいこととは?新規取材や参考にしてきた書籍、映画を個別にレポートします。

「自分のいのち」について考えよう。

「臓器移植」と聞くと、何だか身構えてしまう方も多いのでは。でも視点を変えると、大切な人を思いやり、“生”に目を向ける機会に。いのちについて、考えてみませんか?

意思表示は自分と大切な人の“生”を見つめること

―― 実は私の家族が移植手術を受けたばかりで、それをきっかけにいのちについて考える時間が増えました。現在約1万5000人の移植希望者がいますが、1年間で移植を受けられるのはそのうちのわずか約2〜3%。状況を教えてください。
「意思表示の方法を知っている方は、国民全体の83%と高い割合です。でもそのなかで『YES』か『NO』を表示しているのは13%。ほとんどの方は自分がどうしたいのかを考えている最中ということになります」

―― なるほど。臓器移植でしか助からない病を抱えている方や、事故などで臓器の機能が低下した移植待機者の方々が、移植できるまでどんな思いで日々を過ごすか想像すると、この数字をもどかしく感じます。
「待機されているのは、赤ちゃんからご高齢の方まで年齢もさまざまです。個人差がありますが、移植後は免疫抑制剤などを服用し、拒絶反応や感染症に注意すれば、多くの方は健康な人とほぼ変わらない生活を送ることができます。なかには、再びオリンピックに出場した選手もいるんですよ。臓器移植が身近になることによって、一人でも多くの方が助かり、新しい人生を歩んでいけるといいなと思います」

―― 私の場合、友人に臓器移植について話すと、「知らなかった!」「意思表示したい!」と前向きなリアクションをされることが多いです。
「それはうれしいですね。興味深いことに、まさに『Hanako』のメインの読者層である20〜40代の女性が、全体で一番意思表示している率が高いんです。自分の意思を持ち、選択・行動する主体性を感じます」

―― 個人的な意見ですが、20〜40代の女性は環境や体に変化が起きやすい時期だと思います。「自分がどうしたいか」を考える延長なのかもしれません。
「『臓器提供』と聞くと身構える方も多いかもしれませんが、実は意思表示は何度でも変更できるんです。もちろん、今日は『YES』で明日は『NO』でも大丈夫。数ある人生の選択肢のうちのひとつとして、考えていただければと思います」

どれも等しく尊重される、私たちの4つの権利。意思表示というアクションの前に、まずは私たちにどんな権利があるか確認しよう。日本では、誰もが選択することのできる4つの権利が担保されている。臓器を「提供する権利」「提供しない権利」、移植を「受ける権利」「受けない権利」だ。どの考え方も自由に何度でも選ぶことができ、どの選択も私たちの「いのちの権利」として尊重される。
どれも等しく尊重される、私たちの4つの権利。意思表示というアクションの前に、まずは私たちにどんな権利があるか確認しよう。日本では、誰もが選択することのできる4つの権利が担保されている。臓器を「提供する権利」「提供しない権利」、移植を「受ける権利」「受けない権利」だ。どの考え方も自由に何度でも選ぶことができ、どの選択も私たちの「いのちの権利」として尊重される。

―― 意思表示に迷っている方は、臓器を「提供する権利」「提供しない権利」、移植を「受ける権利」「受けない権利」が、どれも自由だからこそ、「どうやって決めればいいんだろう?」という場合も多いのではないかと思います。
「そうですね。この仕事をしていて、日本では〝死〞について話すのに抵抗があるように感じています。私は、『臓器提供=いのちの終わりについて考えること』だとは思っていません。むしろ、〝生〞を考える機会になればと期待しています。いのちのこと、自分が大切にしている人たちのこと、どう歳を重ねていきたいか……そういった未来の話を語る一環で、意思表示についても話してもらえたらと思います」

―― 素敵な考え方です。たしかに未来に目を向けると、私たちは提供する立場にも、移植が必要な立場にもなり得ます。
「その通りです。『いつか意思表示しよう』と思っていても、『もしも』のときは突然やってきますし、そうなったら、私たちはもう考えを伝えることができません。残された家族の『提供する・しない』を決断する負担を減らすためにも、ふだんからお話しいただく機会を作れるよう、私たちも啓発活動をしています。きっかけは、TVドラマや映画、ニュース記事、SNSでもなんでもいいんです。ちょっと立ち止まって、いのちについて考えてみてほしいです」

自分に合ったアクションで移植医療がより身近に。

あなたの意思が、最大11人のいのちを救う。現在約15,000人の移植希望者がいるが、1年間で移植を受けられるのはそのうちのわずか約2~3%。多くの方が移植を待ち望んでいる状況だ。脳死後の提供の場合、最大で「心臓」「肺×2」「肝臓×2」「腎臓×2」「膵臓」「小腸」「眼球×2」=11人を救うことができる。もちろん、意思表示をする際に提供したくない臓器を選ぶことも可能。
あなたの意思が、最大11人のいのちを救う。現在約15,000人の移植希望者がいるが、1年間で移植を受けられるのはそのうちのわずか約2~3%。多くの方が移植を待ち望んでいる状況だ。脳死後の提供の場合、最大で「心臓」「肺×2」「肝臓×2」「腎臓×2」「膵臓」「小腸」「眼球×2」=11人を救うことができる。もちろん、意思表示をする際に提供したくない臓器を選ぶことも可能。

―― 家族と話すことが大切なのは、なぜでしょう?
「家族と話すことは、残された方々への思いやりでもあるんです。たとえば『YES』の意思である場合、臓器の提供については、必ず家族の承諾が必要となります。だからその意思をご家族に理解しておいてもらうことが重要なんです。世論調査でも、意思表示をされている場合では約90%が提供する意思を尊重するのに対して、意思がわからない場合では、約40%と低い結果になりました。本人が『NO』の意思を表示している場合は、本人の意思であれば提供されることは絶対にありませんし、ご家族が選択を迫られる必要もなくなります」

―― 意思表示についてどう向き合えばいいか迷っている方に、メッセージをお願いします。
「臓器移植は、亡くなった方からの善意による臓器の提供があって成り立ちます。『いのちのリレー』という呼ばれ方もする医療で、社会全体の理解が必要不可欠なんです。イラストにもあるように、あなたの意思が最大11人のいのちを救う可能性があります。臓器移植でしか治らない、明日をも知れなかったいのちが、学校に行けるようになったり、働くことができるようになったりする。先日、移植を受けられた方と話したら『社会に支えられてきたから、社会に恩返ししたい』とおっしゃっていました。その未来を開くのが、国民一人ひとりの意思表示です。臓器移植に限ったことではありませんが、明るい未来のために、社会と向き合う際にはしっかりと調べ、考え、聞き、伝え、自分の意思でアクションを起こしていくことが大切だと思います。一人でも多くの方が自分に合ったアクションを起こすことで、移植医療がより身近な社会になるようにと願います」

YESでもいい。NOでもいい。あなたの意思を表示しよう。

無題 (36)

今日は「YES」、明日は「NO」でもOK。いま、どうしたい?
意思表示の方法は全部で5つ。マイナンバーカード、健康保険証、運転免許証などの身近なカードに記入欄があるほか、意思表示カード、インターネットによる意思登録も可能。記入内容はいつでも何度でも変更できることがポイント。「もしものとき」は突然やってくるかもしれないので、いまの自分の意思をしっかり表示して、家族に話しておくことが大切。

Green Ribbon Campaign(グリーンリボンキャンペーン)

移植医療を通して、臓器を提供してもいいという人と移植を受けたい人が結ばれ、よりたくさんのいのちが救われる社会の実現に向けた、「移植医療」の“理解促進”、“普及”、および“啓発”につながる取り組み。

お話を伺った方…松田尚明(まつだ・まさあき)

日本臓器移植ネットワーク広報・啓発事業部部長。グリーンリボンキャンペーンを通し、移植医療の理解促進、普及、啓発を進める。

Reporter #1…藤田華子(ふじた・はなこ)

〈RIDE MEDIA & DESIGN〉所属。編集者としてコンテンツを制作しながら、プロジェクト「Act for Planet」を推進。数々のメディアでエッセイの執筆も担当する。

(Hanako1202号掲載/photo : Kaori Ouchi illustration : Itsuko Suzuki text : Hanako Fujita edit : Kahoko Nishimura)

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