ハナコラボSDGsレポート 地域と子育て家族をつなぐ「保育園留学」の魅力とは?

SUSTAINABLE 2023.06.06

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、「保育園留学」を手がける〈キッチハイク〉の広報・福田将人さんに話を伺いました。

北海道厚沢部町(あっさぶちょう)の認定こども園〈はぜる〉での様子。
北海道厚沢部町(あっさぶちょう)の認定こども園〈はぜる〉での様子。

「保育園留学」という仕組みがあるらしいーー。3歳児のママで、普段は横浜市内の保育園に娘を預けている私はすぐに「どんな仕組みなのか知りたい!」と興味を持ちました。なんでも留学する家族だけでなく、留学受け入れ先の地域にも“いいこと”があり、始まって間もない事業ながら2023年5月末時点で、全国約20カ所の留学先があるそう。「保育園留学」を手がける〈キッチハイク〉の広報、福田将人さんに話を聞きました。

「いちばん小さな留学生の、いちばん大きな可能性」

ーーまず「保育園留学」とは何ですか?

「保育園留学は1週間から3週間、子どもが保育園に通いながら家族で地域に滞在できる暮らし体験のプログラムです。『いちばん小さな留学生の、いちばん大きな可能性』というタグラインでやっています。

子どもは大自然の中でのびのび遊べて、五感を育てられますし、ご家族も平日はのびのびとした環境でテレワーク、休日は家族で作物の収穫体験など、地域のアクティビティを楽しむことができます。下の子どもの育休中に、上の子どもを保育園に預け、ご家族で『保育園留学』をされる方もいますね」

ーー「保育園留学」が始まった経緯を教えていただけますか?

「我々〈キッチハイク〉は、いくつかの事業をやっている中で、食の事業をやっています。その中でメイクイーンのブランドプロモーションをお手伝いしていたことがあり、北海道の厚沢部町とは繋がりがありました。

弊社の代表である山本(雅也さん)はもともと横浜市に住んでいて、当時2歳の娘さんが行きたい保育園に行けなかったんですね。保育園に入れても、園庭がなくてコンクリートの地面をお散歩するような保育園だったそうで、どうしたら子どもにとっていい環境を与えてあげられるかなと考える中で、ふと厚沢部町の保育園のことを調べたらしいんです。

そうしたら、この認定こども園〈はぜる〉の写真が出てきて、『これは行きたい!』と。家族が地域に滞在し、子どもを預ける間に、親はテレワークをすることが制度的にもできるということが分かって、町にお願いして、体験しに行ったことが始まりです。

実際に行ってみると、とてもよかった。課題感を抱えているご家族にとっても、人口減少が進み子どもがいなくなり、保育園自体も存続できるか分からない自治体にとってもいいサービスになると確信しました。そして『保育園留学』という名前で事業化してみようということになったんです」

ーー実際に留学されてから事業化まですごく早いですよね?

「そうですね。4カ月ぐらいで事業化しています。

規模が小さい自治体で 、特に人口1万人以下ぐらいの過疎の町は『もうこのままだとどうしようもない』というような課題感がすごくはっきりしています。そして、そこに対して何かできることはないかと熱意を持った人たちがたくさんいらっしゃるように思います。まさに厚沢部町は好例で、自治体のみなさんが熱心に受け入れてくださったので、スムーズに進みました」

ーー認定こども園〈はぜる〉の写真を見ましたが、自然豊かなことはもちろん、施設もとてもきれいです。

「はい。2019年にオープンした園なので、施設も新しいんです。もともと3つの保育所があったのですが、人口減少によって保育所の存続が危ぶまれ、保育士さん、自治体さんが『世界一のこどもの園』をつくろうと奮闘されて〈はぜる〉ができたんですよ」

ーー今は全国にどれぐらいの留学先があるのですか?

「北海道厚沢部町を皮切りに、熊本県天草市、新潟県南魚沼市、岐阜県美濃市など、全国で約20箇所の留学先がオープンしています(※2023年5月末現在)。もともと弊社がつながりがあった地域に我々からお声がけしたパターンもありますし、自治体側からご提案いただいたパターンもありますが、日々留学先は増えている状況です。

まだ事業を始めてまもないのですが、地域外からご家族が来て、 新しく人流が生まれているという点で評価いただいています。今後、より受け入れ施設や宿泊施設を増やして、もっと多くのご家族が来られるようにしていきたいと考えています」

岐阜県美濃市の写真。子どもを預けている平日は、大人も仕事に集中できる。
岐阜県美濃市の写真。子どもを預けている平日は、大人も仕事に集中できる。

ーー実際に留学されるご家族はどのようなご家庭が多いですか?

「ほぼほぼ8割以上が都市部にお住まいのご家族で、弊社の代表の山本の体験に共感いただいているご家族が多いですね。『保育園に通わせているんだけど、これでいいのかな…』という思いを抱えていらっしゃって、もっと子どもに対して素敵な環境や、今しかない時間を与えてあげたい、でも、自分も仕事を諦めたくない…という方々が多く『保育園留学』をされているのかなと思います。

お子様の構成はばらばらですが、一人っ子のご家庭もあれば、きょうだいを連れてくるパターンもありますよ」

ーーどのようなところに滞在するのでしょうか?また費用やサポートについても教えてください。

「今のところ大きく分けて『住宅』と『ホテル』という2つのパターンがあります。例えば、厚沢部町の場合、町が体験移住をできる住宅を建てたんですね。主にそこを活用してきたのですが満床になることが増えてきたので、新しく保育園留学のご家族専用の建物を建てることが計画されています。他の地域では、ゲストハウスやホテルと連携しているパターンがございます。

大人2人、子ども1人、2週間(最大10日登園)の場合、費用は20万円〜となっています。我々は留学をご希望される方のご要望をヒアリングしながら、コンシェルジュとして留学先のマッチングも行います。例えば、明確に『○○に行きたい』ということであれば、空いている期間を調整しますし、逆に『○○月が空いている』ということであれば、留学できる行き先を探します」

ーーなるほど。いろいろな行き先を楽しむこともできれば、気に入った地域をリピートすることもできそうです。

「そうなんです。この『保育園留学』はワンショットで来ていただいても、リピートしていただいても、その留学を通じて、その家族と地域のご縁が始まるところがいいなと思っています。例えば、お子様が小学生になられても夏休みに遊びに行くことになったり、その地域のふるさと納税をされたり。ご縁が始まるきっかけになっているなと実感しています」

新潟県南魚沼市の認定こども園〈金城幼稚園・保育園〉での様子。
新潟県南魚沼市の認定こども園〈金城幼稚園・保育園〉での様子。

ーー「保育園留学」は内閣府の「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」に選定されましたね。本連載がSDGsに関する連載ということもあり、ぜひSDGsに対する思いをお聞きしたいです。

「まさに今お話させてもらったようなところがSDGsに繋がるなと思っています。やはり家族にとっては『持続可能な生活がどれだけできるか』、地域にとっては『地域がよりいい形で持続可能に存続できるか』という課題感がありますよね。特に地域側の文脈でいくと、子育て家族が2週間程度その地域の暮らしを体験することで、長期的な繋がりが“始まる”、関係人口が“生まれる”。仮にその地域に住まなかったとしても、関わりが続くことで、保育園自体も地域文化も存続していくわけです。

我々〈キッチハイク〉は『やわらかな定住』という言葉を使っているんですけど、『移住』というと、住むか/住まないかの二択に感じられますよね。でも今の時代、ライフステージに合わせた、もっと柔軟な選択肢があってもいいと思うんです。例えば『子どもが未就学児の間は天草に住んでみよう。その先は、もう少し大きくなったら考えてみよう』と。そんな住まい方の選択肢はあっていいと思うし、そのような『やわらかな』選択をされる方も増えている気がします。

人口減少が進む中で、どのように地域や暮らしを楽しめるかーー。それを考えると、やはり関わっている地域が多いことが大事だし、サステナブルなんじゃないかなと思います」

ーー今後の展望を教えてください。

「『保育園留学』を実施する自治体・園・企業が連携する〈保育園留学コンソーシアム〉というものを立ち上げました。なぜ立ち上げたのかというと、連携することで、より良い子育てや地域の未来が作れると思ったからです。

『保育園留学』は事業でありつつ、思想に近いのかなと思うんです。『1カ所だけでの子育て』から『多様な地域での子育て』になっていくと思いますし、『同じようなコミュニティしか知らない』状況から『多様な価値観に出会える』ようになっていく。もちろん留学先を増やすことが目下の目標ですが、過疎対策や保育の課題などを地域横断で解決することも目指していきたいと思っています」

※「保育園留学®」は、株式会社キッチハイクの商標です。特許取得済。(特許第7164260号「滞在支援システム、滞在支援方法、およびプログラム」)

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