ハナコラボSDGsレポート ヴィンテージ着物をアップサイクル。ファッションブランド〈MUSKAAN〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第47回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんがファッションブランド〈MUSKAAN〉を取材しました。
「美しさ」を優先した方が持続可能性に近づける
ーー〈MUSKAAN〉の洋服を初めて見たとき、元々はヴィンテージの着物から作ったと知り驚きました。ブランドのコンセプトを教えていただけますか?
「〈MUSKAAN〉は、2019年4月に立ち上げたブランドです。一番意識していることは、古布の価値を上げること。“リサイクル”という言葉を使うとき、よく『もったいないから』という文脈の中で使われると思うのですが、私がやりたいのは、既にすごく価値があるものなのに、まだ誰もその価値に気がついていないものを、デザインやファッションの力で変革していくことなんです。
例えば、金継ぎ。新しいものを購入した方が安く手に入るのに、割れた瀬戸物をわざわざ時間とコストをかけて修復しますよね。金継ぎの美しさは、傷をあえて隠さずに金で装飾することで、修復という過程に価値を与え、ものとしてアップデートされることだと思うんです。私は、そういうことをファッションで実現したい。
なので、なぜ着物を使うのかよく聞かれるんですけど、実は着物ということはあまり意識していないんです。私が注目しているのは、あくまで日本の伝統的な技術を使ったテキスタイル。昔のテキスタイルはほとんどのものが着物の形になっているので、着物を解体して、洗い張りをして、布に戻して、製品にする手法をとっているわけです」。
ーーなるほど。平織りの絹織物である「銘仙(めいせん)着物」を主に使われていると聞きました。
「そうですね。確かによく銘仙を使ってるんですけど、そこに特別こだわっているわけではなくて、〈MUSKAAN〉の世界観に合う、色柄が華やかなものをセレクトしています。
若い女性の普段着だった、戦前のヴィンテージ着物は色鮮やかなものも多く、現代女性の感性にもフィットすると感じています。〈MUSKAAN〉では、伝統的な絹織物の価値をアップデートするため、ファッション性が高いものを提供したいと考えているので、カラフルな銘仙や紬を使用することが多いですね」。
ーーヴィンテージ着物と一口に言っても、いろいろあるのですね!
「はい。織り方や染め方で変わります。銘仙や紬は織りの種類ですが、ひと目ひと目織ることで柄を織り出していくんです。なので、手間がすごくかかりますし、プリントとはまた違った魅力があって。特にシルクは光沢があり、角度によって色合いが変わります。本当に美しいです」。
ーーそもそも日本の伝統的なテキスタイルに惹かれたきっかけは?
「私は美術大学で陶芸を専攻していたのですが、文化人類学や民族学にも興味がありました。特に、布は、一番人の肌に触れるし、身に着けるもの。その地域の精神性が映り込んでいるようなものだなと思って。
いろいろな国のテキスタイルや刺繍に興味があって、旅行に行く度にいろいろと探していました。それぞれ地域性があるので、もちろん違いはあるんですけど、技術が似ていたり、図案もお互いに影響しあっていたりして。海外のテキスタイルを見て回るうちに、日本のテキスタイルも捨てたものでは無いというか、価値があるものなのにあまり注目されていないなと感じたんです。
世界的に有名なハイブランドも、そういう土着のものに注目して、コレクションに取り入れて、結果、その工芸品やテキスタイルが人気になるということが結構あるんですね。日本のテキスタイルも、海外ブランドのような見せ方をすれば、もっと新しい価値観が生まれるのではないかなと思って、ブランドの立ち上げに至りました」。
ーー〈MUSKAAN〉を立ち上げる前には、イギリスに留学をされたそうですね。
「はい。大学卒業後、フラメンコの衣装デザイナーとして会社に勤めたり、現代アートの展示会を企画をするNPOに所属したり、フィリピンやコロンビアに住んでみたり、いろいろしてきたんですけど、30歳を手前にして、何者でもない自分に焦りを感じて、自己実現・自己成長のために留学しようと考えました。
今ほどブランドコンセプトはしっかりと固まっていなかったものの、漠然とファッションのことをやりたいと当時から思っていて、いろいろとリサーチをしたら、イギリスのセント・マーチン美術大学で、サステナブルなファッションを学ぶコースを見つけました。
ファッションをやるなら、サステナビリティを考えることは避けては通れないと考えていました。2018年頃だったのですが、サステナビリティに関する情報を日本で集めても、海外の情報が英訳されたものばかりで。だったら、最先端で学ぼうと思って、留学を決意しました」。
ーー実際、どんな授業が行われていたのですか?
「ヨーロッパの学生を中心に世界から20人ほどの学生が集まりました。みんなファッションに興味があるけれど、ファッションを専門としている人やデザイン経験がある人は少なかったですね。
授業では、リサーチとプレゼンテーションとディスカッションを繰り返していました。服の素材の生分解性や代替素材を調べたり、自分が注目しているサステナブルファッションブランドがどういった問題に向き合い考慮しているのかお互いに発表しあったり、さまざまなことがディスカッションのトピックになりました。
授業の最終的な目標は、自分がどうアクションをするか決めることでした。アウトプットの方法はなんでもいいんです。キャンペーンを展開するのでもいい、私のようにブランドを立ち上げるのもいい。私はイギリスでの経験を経て、ブランドのコンセプトがシャープになった気がします」。
ーー多角的にサステナビリティを考えてきたのですね。
「学んだことは、どんどん新しい研究結果が出てくるし、常に状況は変動していくので、その時だけの『正義』を追い求めても、仕方がないということです。私は『正しさ』よりも『美しさ』を優先する価値観(それは日本文化に通底することだと思うのですが)が大切なのではないかなと思うようになりました。
例えば、1枚のTシャツをつくるために、水を何リットル使ったから、このTシャツの是非を問うのは、やや短絡的だと思うんです。水が豊富にある環境だったら、その製造過程はそんなに問題ないわけなので。環境や時代によって『正しさ』は変わると思うんですね。それよりも、もっと自分が格好いいと思える生き方、『美しさ』を優先した方がよっぽど持続可能性に近づけるのではないかなと思うんです。
『SDGsをやらなくては』という想いだけで、自分たちの習慣の文脈にないもの、自分のフィルターに通さないものを取り入れても、意味がないし、続かない。それよりも、内省を深めて、自分の幸福度を上げていくようにすること、美意識や感性を磨くことが大切だと思うんです」。
ーーちなみに〈MUSKAAN〉というブランド名は、どういう理由から名付けたのですか?
「ヒンディー語で『笑顔』という意味です。私は19歳の時に初めて海外に行ったんですが、インドに行ったんです。現地の人がニックネームとして、へらへら笑う私に『ムスカーン』という愛称をつけてくれました。
響きも気に入って、ハンドルネームとして長年使ってきたのですが、ブランド名を考えた時にいいかもと思って。どこの国か分からない、異国の雰囲気がありますしね」。
ーー今後の展開をぜひ教えてください!
「せっかく商品を気に入ってくださっても、一点ものなので、サイズがあわないというお客様の声を聞いてきました。そこでオーダーメイドの受注システムを現在、開発しています。お客様が気に入った古布で、お客様の体型にあったファッションをお届けしていきたいと思います。
また、11月26日(金)にはリアルとバーチャルのハイブリッドな異文化交流ショー『FashiComm』にも参加予定です。“TIMELESS TRAVELER”をテーマに、国境を越え、過去、現在、未来を旅するような世界観を作り出したいと思うので、ぜひ注目してください」。